じじぃの「科学・地球_445_世界100年カレンダー・21世紀・幻想の東アジア」

アジアで進む人口減と少子化

2021.05.21 第一生命経済研究所
●同時発生する人口減少問題
コロナ禍で人口減少に悩むのは日本だけではない。中国も人口減少に頭を悩ましている。台湾、韓国も2020年に初めて人口減少に転じた。
これは、まだコロナ禍の影響が表れたというよりも、従来の流れが強まったのだろう。家計が豊かになると、若い人たちは若い年齢で子供をつくらなくなる。豊かさの代償として、少子化は進んでいく。こうした共通の原理が、日本・中国・台湾・韓国で共通して起こっている(図表1)。アジア以外では、米国でも人口の伸び率が低下してきた。移民の勢いが落ちてきて、特に白人の伸び率が低調になっているとされる。
今後、コロナ禍の影響は、2021年の出生数をさらに下押しするかたちで表れるだろう。そのことは、少子化による人口減の加速を東アジア各国に強く警戒させる。老いていく社会への恐怖である。
https://www.dlri.co.jp/report/macro/154989.html

『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』

河合雅司/著 朝日新書 2021年発行

第2話 日本の現在地のカレンダー より

他国マーケットとの「若さ」比べ

日本では総人口の減少に伴い、2043年以降は高齢者数も減少に転じるため、世界の高齢者に占める日本人の割合は縮小していくが、現時点では世界で最も高齢者の人口密度が高い国であり、高齢者のニーズや身体的特徴などをマーケットリサーチするには絶好の社会環境にある。
多くの日本企業は少子高齢化が進む中で細りゆく若者需要の代わりに高齢者マーケットへの依存度合いを高めつつあるが、世界規模で考えるならば他国の企業も黙ってはいまい。シニア向け商品を扱う外国企業との競争も激しさを増してくることだろう。
日本は島国であるため、視点が内向きとなりやすい。人口の未来図を考えるときも、「何年後に国内人口はどれぐらいの規模になるのか」といったことに意識が働きやすい。だが、国内マーケットの縮小でこれまでのビジネススタイル維持できなくなることを考えると、今後「未来の年表」を描くにあたっては、「世界の中の日本」という視点が不可欠となる。
例えば、他国とマーケットの「若さ」を比べてみよう。少子高齢化と人口減少が同時進行する日本と各国との違いがよく分かる。
2020年における日本のおける日本の総人口に占める生産年齢人口の割合は59.3%だ。これに対して、米国は65.0%、インド67.3%、ベトナム68.9%、ブラジル69.7%、タイ70.5%などと7割前後の国は少なくない。これが2060年になると、日本は51.6%に下がるが、米国59.7%、インドネシア64.2%、フィリピン65.8%、インド65.8%などと、6割前後を維持する国はいくつも見られる。
少し角度を変えてみよう。新しい文化やイノベーションは若い人が中心となって誕生するケースが多い。20代の人口が多い国ほど、21世紀をリードする確率も高くなるということだ。
そこで20代の人口を比較してみよう。2020年の日本の20代は1265万5000人だが、インドは2億3990万2000人、米国は4609万人、インドネシアは4357万1000人となる。
日本は少子化が急加速するため、2050年になると880万8000人にまで減るが、インドは2億2534万8000人、米国は4563万1000人でほぼ横ばいになる。
この頃になると、日本のような急速な少子化に見舞われないヨーロッパ各国も日本とあまり差が無くなり、ドイツが831万9000人、英国は839万2000人となる。
こうして、「世界の中の日本」を展望すると、日本が圧倒的に不利に思える。だが、こうした状況は日本特有ではない。日本を取り巻く国々もまた、日本と同じ運命を歩み始めようとしている。

「アジアの世紀」と離れた現実

台頭する中国のイメージに引っ張られて、21世紀を「アジアの世紀」などと持て囃す論調が目につくが、これはあまりあてにならない。
2020年11月に東南アジア諸国連合ASEAN)の10ヵ国と日中韓、オーストラリア、ニュージーランドの計15ヵ国が署名して地域的な包括的経済連携(RCEP)という巨大な経済圏(大規模な自由貿易協定)を誕生させた。RCEPの人口を合計すると約22億6000万人に及び、GDPの合計も26兆ドル(約2860兆円)で、いずれも世界の3割を占める。参加国のGDPを押し上げることは間違いないだろう。これとは別に、いくつかのアジア諸国は環太平洋経済連携協定(TPP)も形成している。21世紀を「アジアの世紀」とするのもこうした動きを捉えての見立てであろう。

だが、少なくとも東アジアでは人口の収縮が始まっている。中国では生産年齢人口がすでにピークアウトしており、総人口も減少に転じている可能性が大きい。その詳細は第6話に譲るので、ここではこれ以上言及しない。
一方、韓国と台湾は2020年に人口減少に転じた。韓国統計庁によれば、出生数がが前年比10%減の27万2400人となり、死亡数30万5100人を下回った。合計特殊出生率は過去最低を更新を更新し、0.84にまで下がった。これは日本の1.34と比べても相当低い危機的水準だ。韓国の総人口は2020年現在、5182万9000人だが、前年より2万人ほど減った。統計庁の推計では2065年には高齢化率が46%に達し、2067年には3365万人に減るとしている。およそ100年後の2117年には2100万人弱になるとの試算もある。台湾内政部は、出生数が前年比で約7%も下落し、死亡数が上回った。総人口は0.2%減の2356万人となった。

このように「アジアの時代」どころか、2020年は「アジアの時代の終わりの始まり」を予感させる動きが相次いでいたのである。