じじぃの「歴史・思想_490_大分断・グローバリゼーションの未来」

Biography of Abraham Lincoln for Kids: Meet the American President for Kids - FreeSchool

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=fTjYG1Tyaos

What sustains racism?

Our approach to systemic racism in Open Education

November 10, 2020 hewlett.org
The events of this year and the killings of Ahmaud Arbery, Breonna Taylor, and George Floyd have impacted many of us in deeply personal ways.
https://hewlett.org/our-approach-to-systemic-racism-in-open-education/

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

エマニュエル・トッド/著
2015年1月の『シャルリ・エブド』襲撃事件を受けてフランス各地で行われた「私はシャルリ」デモ。
表現の自由」を掲げたこのデモは、実は自己欺瞞的で無自覚に排外主義的であった。宗教の衰退と格差拡大によって高まる排外主義がヨーロッパを内側から破壊しつつあることに警鐘を鳴らす。

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『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 PHP新書 2020年発行

第5章 グローバリゼーションの未来 より

教育の階層化と自由貿易の関係

現在、世界で大きな問題となっているのが自由貿易を背景とした米中対立です。本章では、高等教育と自由貿易の関係、そして自由貿易が社会の階級化をさらに推し進めている現状について、お話しましょう。
これまでの章で見てきた通り、高等教育の発展は結果的に社会を分断させ、階級化していきました。高等教育を受けた上層部、つまり全体の20%の人々が特権的な層を形成していた頃、この階級は文化的な利点を持ち、また自由貿易に対しても有利な立場にありました。そうして彼らが自由貿易を社会に押しつけたのです。

自由貿易は、高等教育を受けた社会の20%の人々がその恩恵を受けていた時期に、最盛期を迎えました。

さらに昨今では、物事はより一層複雑化しました。まずこうした特権的な人々が社会の20%から30%に増加しました。そして、自由貿易を押し進めすぎた国では様々な支障が出るようになったのです。

アメリカの中流階級の人々の収入の中央値が大きく下がった後、つまり2000年代初頭から、今度は大卒者の収入レベルが停滞を始めました。高等教育の学歴も、もはや社会的な堕落から彼らを守ることはできなくなりました。従って今では、高等教育を受けた人でも、特に若者たちが自由貿易によって苦しめられているという状況になっています。だから、高等教育を受けた若者たちの中から自由貿易反対という声が聞かれるようになったのです。
こうした傾向が最も顕著なのは、アメリカのバーニー・サンダース支持者たちです。さらに、2020年5月、ジョージ・フロイドの死によって起きた、一連の黒人差別に反対する全米デモを見てみましょう。(アメリカ・ミネアポリスで黒人男性が白人警官に取り押さえられ、その際に喉を圧迫されて窒息死した事件をきっかけに米全土で起きた大規模デモ)。そこにはもちろん、アメリカに昔からはびこる人種差別という問題や警官の振る舞いが引き起こす惨劇という側面があります。しかしそれだけではありません。このデモや略奪行為から見えてきた新たなことは、20代、30代の若く、高等教育を受けた白人たちもそこに参加しているということなのです。彼らの多くが、自由貿易の被害を受け、サンダースを支持した人々です。つまりここにも、自由貿易との強い関係性が現われているわけです。
まとめると、まず初めに、高等教育を受けた特権的な層が自由貿易をもたらしました。それから自由貿易の悪影響が出始めます。同時に高等教育を受ける人口が増加していきました。それによって、若く、高等教育を受けた人々が自由貿易の悪影響を受けて苦しむようになりました。そして自由貿易への対抗が起き、結果、トランプが大統領に当選したのです。
私が1990年代に『経済幻想』を著した時、世の中では「自由貿易が国家を崩壊させる」と言われていました。私は本書の中でおそらく初めて、教育の階層化という現象について語り、自由貿易が国家を崩壊させるのではないと述べました。教育の階層化が国家を崩壊させ、それが自由貿易をもたらす、と言ったのです。最初の要因となったのは、国家内における教育だったのです。

移民と民主主義の関係――民主主義には「外国人嫌い」の要素がある。

私の自由貿易に関する批判というのは基本的に経済に関するものです。しかし、人の流れの行き過ぎた自由(移民)に対する反抗もあります。
民主主義というのは最初から普遍化を目指すものではありませんでした。民主主義とは、ある土地で、ある民衆が、お互いに理解できる言語で議論をするために生まれたものでした。民主主義の思想には、土地への所属ということと、外から来るものに対する嫌悪感が基盤にあるのです。歴史を侮(あなど)ってはいけません。ギリシャアテネ、人種差別主義のアメリカ、フランスのナショナリズム的な革命。ですから、ブレグジットポピュリズム運動など、今起きている民主主義への復活の裏にはこの「外国人嫌い」の要素が含まれていることはある意味当たり前なのです。
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しかし、イギリスの経済学者ポール・コリアーの著書『エクソダス 移民は世界をどう変えつつあるか』(みすず書房)を始め、この問題についてのイギリスの研究を学ぶ過程で、私は「最低限の国土の安全が保証されていなければ、民主的な生活を営むのは難しい」という考えに至りました。ですから移民の流れを制御する政策は不当だとは思いません。もちろん、この問題についてのトランプの発言の仕方には全く賛同できませんが、その一方でメキシコ人は誰でもアメリカに移住する権利があり、それが当然なことだ、というふうにも思ってはいません。それと同じように、ポーランド人は誰でもイギリスに移住できるというわけではありません。
フランスにとっても同じことが言えるのです。私が『シャルリとは誰か?』(文春新書)を書いた時、フランスのイスラム教徒たちを擁護したことで私はひどく非難されました。ですから普遍主義(人類は皆平等であるという考え方)については誰よりもよく理解していると自負しています。この時に浴びた避難の集中砲火を踏まえた上で、国境の管理は必要になることがある、と私が主張することは許されると思います。さらに言えば、この制御の正当性を無視することは、そこに暗黙のうちに反民主的な要素が含まれていることを指します。国境の完全の完全な解放に賛同する人々は自分たちを左派だと思っていますが、私からしてみれば極端な反・民主主義者たちなのです。領土の安定がないところで民主的なシステムは不可能だからです。