じじぃの「歴史・思想_527_老人支配国家・日本の危機・トランプへの投票」

How the night unfolded and Donald Trump won

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=9yiV5lpFrtc

トランプ後の世界 木村太郎が予言する5つの未来 2016/12/10 Amazon

木村太郎 (著)
ジャーナリスト木村太郎氏は一年前から唯一トランプ大統領誕生を予言していた!
マスコミは、なぜ、真実にフタをしたのか? 米国、日本のマスコミが伝えられなかった、米大統領選トランプ勝利の裏に隠された米国の真実が明かされる! トランプ誕生で見える「日本に不都合な未来」。

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文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ

Ⅱ アングロサクソンダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
5 それでも米国が世界史をリードする
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
7 それでもトランプは歴史的大統領だった

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本

ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化磯田道史氏との対談)
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)

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『老人支配国家 日本の危機』

エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行

4 トランプ以後の世界史を語ろう より

普段の方法が通用しなかった

――2016年6月の英国のEU離脱ブレグジット)に続いて、今度は米国国民が大統領選挙で、ドナルド・トランプという想定外の選択をしました。選挙前夜、ナントのオダンシア・ビジネススクールにおける講演で、あなたはトランプ勝利の可能性を否定しませんでした。それはなぜですか?
その講演はグローバル化と米国社会の危機をめぐるものでしたから、たしかに今、トランプ勝利の理由を解き明かすのに役立つでしょう。私は単なる思いつきでトランプ大統領出現をありえると言ったわけではありません。結果が出た今、なぜ、どのように私は「トランプはありえない」という大方の意見に抗することができたのか、考えてみましょう。

グローバリゼーション・ファティー

――あなたはトランプへの投票を、平等を求める民主主義の反応であると読み解くのですね。では、投票行動を人種の面から見るとどうなるでしょうか? 共和党は従来から白人の党であり続けてきました。それに対して、民主党は黒人とヒスパニックを擁護してきた。トランプは「愚かな白人」が選んだ大統領のように語られています。
今回の大統領選の社会学的な読み解きは、何よりもまず「教育レベル」と「人種」という要素に注目して行われました。それはそれでよいのですが、やはり選挙戦のテーマを睨(にら)んでおく必要もあります。
大統領候補を決める予備選挙は、サンダースとトランプの目覚ましい台頭という二重のサプライズによって始まりました。2人の共通点は「自由貿易」を批判したことです。サンダースは敗れましたが、トランプは共和党がこれまで墨守(ぼくしゅ)してきたイデオロギーから自由になることで勝利しました。
フランスやその他の国々の人々が、トランプが選挙中に唱えていた政策を実際には実現できないだろうと考えたいのは、よくわかります。しかし、米国社会の容易には変えがたい趨勢、イデオロギーの座標軸の左から右までを巻き込む趨勢を、私たちは、しかと見極め、認識しなければなりません。
現在の米国で真に支配的なイデオロギーは、私が「グローバリゼーション・ファティーグ」(グローバル化疲労)と呼んでいるものです。ある意味で、トランプの政策は、すでにオバマ政権の下で始められていたとも言えます。米国はリーマンショック以後、最も顕著に保護主義的政策を採った国であり、国のインフラを再建する大規模公共事業への支出はすでに始まっています。ですから、ここでなまずマルクス主義的な経済決定論に一定の有効性を認めましょう。トランプ勝利はひとつの経済的な選択なのだと。

トランプに投票した白人はレイシストではない

しかしいま、すべての面において、米国の世論と政治的感性は変わりつつあります。非合理が後退しています。ロバート・パットナム(米国の政治学者)が示したように、宗教原理主義的な波も小さくなってきています。「市場への国家の介入」を求める考え方が再び大衆的な支持を得始めています。
それこそが、トランプ勝利の背景です。それがあったからこそ、トランプは選挙運動の中心に、宗教的あるいは人種差別的な情熱ではなく、「保護主義」と「国家への回帰」という、国民の現実的利益を据えることができたのです。レイシズム(人種差別主義)の問題は、甘い幻想ぬきに提起されなければなりません。しかし、トランプへの投票を愚かな白人のレイシストたちの投票と見なす言説は、ばかげているだけではなく、完全に間違っています。事実は正反対なのです。
――でも、黒人はトランプには、投票しませんでした……。
確かに。でも、今の段階では、誰が投票行動を執拗(しつよう)に人種問題にしたのかを問うべきです。今回の大統領選で、レイシストの言説を裏返した言説によって、投票行動を人種問題化したのは民主党だと私は確信しています。民主党はヒスパニックや黒人といったマイノリティに対して、よこしまな、あるいは倒錯した、あまりにも図々しくて形容しがたいのですが、既存体制内の経済と教育の分野で真の特権を享受している段階――その大半は相変わらず白人です――との連携を促し、選挙における雇兵制のようなものを提案しました。何のためだったか? 米国民主主義の中核を成す白人層の力を潰すためでした。この戦力に私が嫌悪感を募らせたのは、まさにこの戦略によって、ヒラリーがサンダースを追い落としたからです。言うまでもなく私はサンダースに親近感を抱いていました。
私は民主党の予備選を州ごとに注視し、検討しました。サンダースの勝利を阻(はば)んだのは、間違いなく黒人有権者でした。
2016年、政治的疎外を象徴する色が変わりました。「白人有権者の中核を成す層が自らの経済的利益に反する票を投じるシステム」から、「黒人有権者が自らの利益的利益に反する票を投じるシステム」へ移行したのです。実際、黒人は労働者階級に属する率が高く、時代と共に相当変わってきたとはいえ、教育水準が相対的に低く、「自由貿易」によって最も被害を蒙(こうむ)り、そのせいで苦境に立たされ続けている社会集団です。今回の大統領選挙で生じた究極の逆説は、トランプが彼の「保護主義的政策」を実行すれば、その恩恵を真っ先に受けるのは黒人だろうということです。