じじぃの「歴史・思想_529_老人支配国家・日本の危機・トランプの登場」

COVID-19 | ‘China said our soldiers brought the virus…’: Donald Trump on virus’ origin

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=T54qSVOc0Ao

文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ

Ⅱ アングロサクソンダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
5 それでも米国が世界史をリードする
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
7 それでもトランプは歴史的大統領だった

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本

ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化磯田道史氏との対談)
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)

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『老人支配国家 日本の危機』

エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行

6 それでも私はトランプ再選を望んでいた より

米国社会の現実

「トランプ再選となれば、米国の民主主義も終わりだ!」といった言辞が繰り返されています。米国に限らず、エリート層が好む高級メディアほど、この論調です。トランプが、下品で馬鹿」げた人物であることは言うまでもありません。私自身も、人として、とても許容できない。ただ、トランプをそう避難するだけで事足れりとすれば、米国社会の現実を見誤ることになるでしょう。
2016年の米大統領の際、私は「トランプが必ず勝つ」とまでは言わずとも、「トランプの勝利などあり得ない」という論調が大勢を占めるなかで、トランプ勝利の可能性を大いに強調しました。前回ほどオリンピックな見解とは言えませんが――というのも一度は起きたことなので――、今回もトランプ勝利の可能性が大いにあり、またトランプの再選の方が、米国にとっても、世界にとっても、どちらかと言えば望ましい――馬鹿げた対イラン政策などを理由に前回ほど積極的な支持ではないのですが――と私は考えています。なぜそう思うのか、その理由を述べたいと思います。

「米中対立」は悪くない

内部で激しい葛藤が生じている米国ですが、社会を一体化に向かわせる要素も生まれていあす。「米中対立」です。
トランプが、米国のリーダーとしての自己確立に成功したのは、「対中強硬姿勢」によってです。
まず地政学や安全保障分野のエリートを、この方向に巻き込むことに成功、今では、「中国は、パートナーではなく、ライバルであり敵である」といった超党派のコンセンサスが出来上がっています。
倫理的な観点で肯定するわけではありませんが、ここでもまた「民主制」が元来「排外的」な性格を有するように、「彼ら(中国)」という存在が「我々(米国)」という集団を結束させ、一体感を生むメカニズムが働いているわけです。仮にトランプが負けることがあっても、この方向性に変りはないでしょう。
中国に関しては、しばしば「強大な覇権国になるのでは」と恐れられていますが、教育水準や人口動態から見ても、中国が世界のリーダーになる可能性はゼロでしょう。
となると、これは、米国にとって極めて好都合です。なぜなら、中国はそう簡単にやっつけられない難敵ではある。しかし、長いスパンで見た場合、中国には全く勝ち目がない。米国にとって、いわば長い戦いになるわけですが、辛抱強くやれば絶対に負けない。そして、この緊張が、国内の結束を高める方向にも作用するからです。
また「米中対立」は、長期的に見れば、中国にとっても、悪いものではありません。これまでの中国の経済政策は、中国の指導層が立案したというより、「中国を”世界の工場”にして利益を上げる」という欧米主導の「自由貿易」「グローバルズム」の政策に従属したものにすぎなかったからです。その意味で、中国も”グローバルズムの囚人”なのです。「米中対立」が激しさを増せば、中国も「外需依存」から「内需重視」に転換せざるを得ません。これによって、中国の経済と社会も、健全な方向に向かうでしょう。
また「米中対立」が激しくなれば、両者の狭間で、日本は、時に難しい選択を迫られるかもしれません。しかし、両者の対立のなかで、むしろ日本の重要性は増すでしょう。

「エリート主義VSポピュリズム」の克服

米国に限らないことですが、”高学歴エリートのおかしなあり方”が、”おかしなポピュリズム”を生み出しています。トランプの人格や発言が耐えがたいのは明白です。しかし、同じように米国のエスタブリッシュメントの発言や振る舞いも耐えがたい。言ってみれば「トランプ」と「ハーバード大学」は同じコインの表裏。重要なのは、このエリート主義とポピュリズムの不毛な対立関係から脱却することです。
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米国にとって重要なのは、「歴史を前に進めること」。これは、米国だけでなく世界にとっても重要です。
そのための最良の方法は、バイデンを当選させることではない。”自己変革”なき民主党の勝利は、「エリート主義VS.ポピュリズム」の克服に何ら貢献しないからです。
無理に私が米国人だったらと仮定すれば――実際はフランス人で、投票を迫られずほっとしているのですが――、おそらく「民主党左派」の立場から、民主党に”自己変革”を促すために、抵抗を覚えながらトランプへの投票を考えざるを得ない。民主党は、「黒人を擁護する」と言いながら、肝心の経済政策において「黒人マジョリティの利益」を代弁せず、実質的に「アンチ黒人」と化しているからです。
米国の歴史を前に進めるには、まず民主党の側に”意識変革”が必要です。そのためには、バイデン当選よりトランプ再選の方が望ましいと私は考えます。