じじぃの「歴史・思想_449_デジタル化する新興国・ユニコーン企業」

With 21 unicorns, India ranked 3rd among startup ecosystems

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5EM_yudFqvA

ユニコーン企業とは?定義と日本・海外の現状をランキングで解説

2021/01/05 転職Hacks
最近耳にすることが多くなった「ユニコーン企業」。定義や由来、日本と海外の現状について解説します。
ユニコーン企業とされる企業の条件として、以下の4つが挙げられます。
・評価額10億ドル以上
・創業10年以内
・未上場
・テクノロジー企業
●海外のユニコーン企業の現状
ユニコーン企業大国といわれるアメリカや、人口が多くビジネスチャンスが豊富な中国、今注目されているインドなど、海外の事情について解説します。
https://ten-navi.com/hacks/article-554-46746

『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

伊藤亜聖/著 中公新書 2020年発行

第3章 飛び越え型発展の論理 より

新興国から生まれるユニコーン企業

第3章ではデジタル化が新興国に与える可能性のなかでも、工業化にも通じる論点である後発性の利益、幼稚産業保護論、社会的能力を検討する。
振り返ると、2000年代までに台頭した大手IT企業はアメリカ西海岸は、特にシリコンバレー地域から生まれた。インターネットの効果として、情報がほぼ世界同時に配信されるにもかかわらず、新しいビジネスモデルは長らくシリコンバレーから提案されてきた。スタンフォード大学を起点として、濃密な情報交換の場が生まれ、企業組織を超えた横のつながりが地域的に生まれたことが、シリコンバレーの持つ強みであった(今井1984、サクセニアン1995)。
インターネット業界では、創業間もないベンチャー企業に出資を行う投資機関や、出資に加えて技術上と経営上のアドバイスも提供するアクセラレーターと呼ばれる各種の機関が生まれた。その代表格であるYコンビネーターや500スタートアップといった機関は、まずはシリコンバレーのマウンテンビュー地区で立ち上がった。
しかし2010年代の半ば以降、徐々に新興国からも有力なベンチャー企業が登場し始めた。”Everyday-Everything App”(毎日使うなんでもアプリ)、これは東南アジアでタクシーの配車や宅配サービスを提供するグラブのスローガンである。グラブは決済サービスをはじめ、さらに多くの機能を備えつつある。このような地元ベンチャー企業のサービスが普及することで、タクシーの配車サービスで世界的な先駆者であったアメリカのウーバーは、東南アジア市場から撤退することになった。初期段階のビジネスのアイデアアメリカ発だったとしても、ローカルな市場環境に適合的なサービスを構築する点では、現地のプラットフォーム企業(売り手と買い手の間に立ち、製品の開発環境を提供したり、情報を収集したりして、取引相手と引き合わせることによって付加価値を作り出す事業体)が優位となる可能性がある。
    ・
第2章で触れた通り、ベンチャー企業は、出資を受けることで成長を加速させていく。なかでも、未上場にもかかわらず推定される企業価値が10億ドルを超えるユニコーン企業は、2015年頃から多数生まれるようになってきた。その時点では圧倒的にアメリカに集中していた。当初確認された99社のうち62社はアメリカ企業であった(画像参照)。その後、世界的なベンチャー投資の過熱も相まって、2020年までにユニコーン企業数は471社にまで増加し、とりわけ新興国で急増した。2015年4月時点では、OECD加盟国にユニコーン企業の約8割が集中し、その他の国々(非OECD諸国)の比率は20.2%にとどまっていた。それが2020年までに35.2%に増え、企業数は20社から166社にまで増えた。なかでも中国の増加は著しかったが、インド、ブラジル、インドネシアといった人口大国からも複数のユニコーン企業が誕生した。デジタル経済のネットワーク外部性という特性が、人口大国で遺憾なく発揮されている。

新興国という巨大な実験場

デジタル化が新興国にもたらす可能性を、第2章では課題解決に引きつけて論じ、第3章では「飛び越え(リープフロッグ、既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を経ずに一気に広まること)」型の発展パターンのメカニズムとその条件について考察してきた。
デジタル経済が持つ特性ゆえに生まれたプラットフォーム企業は、未知の売り手と買い手をつなげることを通じて、特に情報の非対称性が大きかった新興国において、透明性と信用を創出している。また現地ならではのニーズに即した解決策を見つけるうえでも、IoT端末は農業分野や物流分野を含めて様々な局面で活用されている。新興国のなかでも人口大国である中国とインド、そして地域として6億人の人口を有する東南アジア地域からはローカルなプラットフォーム企業が登場している。彼らが試行錯誤のなかで開発しつつあるサービスは、新興国ならではの環境に適したものであり、多くの機能を包摂する「スーパーアプリ」も誕生した。現地の政府もこうしたデジタル経済の可能性に着目し、禁煙では積極的にデータ経済のためのインフラ整備を進め、産業の育成を目指している。
もちろん、こうしたデジタル化は、新興国が直面するあらゆる課題を解決する万能薬ではない。第2章でも言及したように、そもそものインフラ整備や、現場の教員の質を確保した教育制度の構築など、「アナログな基盤」がなければ、デジタル化の課題解決の効果は大きく棄損されてしまう。それでも、工業化の時代には解決が困難か、あるいは後回しとせざるをえなかったような信用の問題、決済の問題、頻雑すぎる行政手続きの問題は、デジタル化によって劇的に改善しつつある。
こうしたサービスが、新興国の間で「横展開」し、さらに先進国にも「逆輸入」されつつあるのは、それだけ新興国の現場での試行錯誤の回数が多いためである。デジタル化の時代に求められる社会的な能力は様々な試行錯誤をする環境を整えることだといえる。金融面ではベンチャー投資が、制度面では起業促進が求められる。そこでは経営面や技術者、政策担当者だけでなく、サービスを利用する消費者も重要な位置を占める。デジタル化の時代にあっては、大学の研究室や大企業の研究所における研究開発に加えて、広い社会における導入と実装の現場と回数に注目する必要がある。「デジタル新興国」は巨大な実験場として機能し始めている。