じじぃの「歴史・思想_450_デジタル化する新興国・自動化で変わる雇用」

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動画 YouTube
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『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

伊藤亜聖/著 中公新書 2020年発行

第4章 新興国リスクの虚実より

デジタル社会を支える基幹的技術とインフラ

本書の前半では新興国がデジタルの力を活用して課題を解決し、新たなサービスを育てる可能性に言及した。第4章と第5章では、デジタル化がもたらす脆弱性に目を向ける。第4章では新興国企業の追い上げの限界と労働市場への影響を検討する。そして第5章では工業化の時代に通じる問題として、権威主義体制とのつながりを検討する。
まず新興国企業の追い上げの範囲を確認するうえでは、デジタル経済をいくつかの層に分ける視点が有用だ。デジタル社会、例えばスマホとそれを使ったサービスが成り立つためには、その背後に基幹的技術とインフラが必要である。スマホに内臓されている半導体は高度な微細化技術と設計技術によって実現しており、高速移動通信を実現する通信インフラの背後には無線、光通信技術がある。そして多くのモバイル・インターネット・サービスは大規模なクラウド・データセンターに支えられており、さらにそれらのサービスを動かすソフトウェアの背後には開発環境が必要である。加えて全地球測位システムGPS)までが活用されることで、日々のサーブすが成り立っている。
これらの基幹的技術やインフラは先進国企業によって開発され、整備されてきた。そして新興国がデジタル化を進め、飛び越え型の発展を遂げる前提でもあったのだ。逆にいえば、新興国企業から見れば、参入が難しい領域が存在する。基幹的技術とインフラ部分での先進国企業の優位性は明らかである。
一方で、第3章で確認したように、新興国の強みは最終ユーザーとの接点にある。多数の人口を抱えるからこそ、当たらなサービスが育つチャンスがある。デジタル経済の「巨大な実験場」として、新興国が優位性を発揮できるのはユーザーとの接点にあり、後述するアプリケーション層に強みがあると言い換えることができる。逆にいえば、ユーザーが普段直接に触れないような裏側の世界、レストランでいえば厨房ななかでの話は別だ。

製造業が雇用を生まなくなる?

デジタル経済の基礎となっている物理層(通信ネットワーク、物理サーバー、記憶装置
演算処理装置)ではアマゾン、グーグルやマイクロソフトといった先進国企業の市場シェアが大きい。新興国企業は、拡大するアプリケーション市場では飛躍する余地が大きい一方、基礎部分ではなかなか市場を拡大することは難しそうである。
次に考えたいのは、デジタル化はどこまで一国の経済成長や雇用の創出に貢献するかである。特にデジタル化の雇用創出効果が小さく、さらに自動化によって雇用が失われるとの危惧が生まれている。かつて工業化の限界を主張した「輸出ペシミズム論」のような悲観的な見方と言えるだろう。筆者の新興国についての見解を先取りすれば、デジタル経済が広がることによって新たに生まれる雇用もあり、量としてはそこまで悲観的に考える必要はない。問題はその職業の業務内容と社会保障制度によるセーフティーネットの対象となっているからである。
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工業化が以前ほどは雇用を創出しなくなっているという指摘は多くの論者の注目を集めた。確かにミャンマーのワイシャツ工場の生産ラインですら、自動化ツールが導入されている。
今後ロボットをさらに導入することで自動化が進み、ますます雇用創出につながたなくなるかもしれない。こうした問題意識から世界銀行の専門家は『製造業に問題発生? ものづくり主導型経済発展の未来』と題した報告書を刊行した(Hallward-Driemeier, Nayyar, 2017)。製造業では通常、1000個、1万個といった量を生産すること(量産)を前提に、製品が設計され、開発が進んでいく。しかし単品からの製造すら可能になる3Dプリンター技術の成熟や、デジタルな設計図をもとにアパレル製品を1着から直接製作できる自動編み機の開発が進むと何が起きるだろうか。ベトナムミャンマー、そしてバングラデシュといった外資企業に依存する国々から、生産工程が本国へ回帰することもありえる(猪俣2019)。

過度の悲観を超えて

本章では①デジタル経済の基層での新興国企業の限定性、②業務の自動化と職種の創出の間の緊張関係、そして③プラットフォーム企業(売り手と買い手の間に立ち、製品の開発環境を提供したり、情報を収集したりして、取引相手と引き合わせることによって付加価値を作り出す事業体)、財閥などのゲートキーパー企業(コンテンツの流通に携わる主要企業)による不公正競争のリスクを検討した。
2010年代以降に迎えたモバイル・インターネットの時代において、中国の大手企業の台頭こそ見られるものの、総じて新興国企業の役割はアプリケーション層に集中している。躍進する現地企業は、先進国企業が提供するインフラの上に立って事業を展開している。この意味で一定の限界があるものの、筆者は、新興国企業がデジタル経済の基層にも進出することが必須だと考えない。むしろ新興国企業が提供するミドルウェア層と物理層を跳躍板として、飛躍できるかが一番大事だ。その跳躍によって事業規模を拡大し、人材を育成した先に、さらなる躍進を考えればよいのではないか。

労働市場への影響はいまだに不明瞭であるが、ここでも新興国について過度に悲観的に考えて必要はない。その利用は、自動化によって代替される職種がある一方で、創出される職種もあるためだ。

加えて新興国では元来インフォーマル(臨時的な)雇用が多いために、逆説的にデジタル化によって作り出された「デジタル・インフォーマル雇用」に対してもむしろスムーズに移行する可能性がある。そのうえで、社会保障制度の枠外に置かれたインフォーマルな状態を是認するのではなく、デジタルかつ社会保障制度の枠内に入る「デジタル・フォーマル」な雇用のあり方を切り開くことが新興国には期待される。