じじぃの「歴史・思想_447_デジタル化する新興国・デジタル化とは何か」

China: Power and Prosperity -- Watch the full documentary

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JovtmKFxi3c

china is the world industry

New technologies disrupting Chinese automotive industry

Melchers China
China has nearly one in four of all of the vehicles sold in the world today. Whilst China’s automotive market is now maturing following an extraordinary period of growth in car sales, the future holds manufacturing possibilities like nowhere else in the world.
https://melchers-china.com/new-technologies-disrupting-chinese-automotive-industry/

『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

伊藤亜聖/著 中公新書 2020年発行

第1章 デジタル化と新興国の現在 より

2010年代の変化

マサチューセッツ工科大学のアンドリュー・マカフィーとエリック・ブリニョルフソンは目下の技術革新と社会への影響について断絶性を強調する。
彼らは著書で「機械(マシン)」「プラットフォーム」、そして多数の参加者による貢献を意味する「クラウド」の3つの役割に注目している。彼らは機械が肉体労働を代替するにとどまらず、定型(ルーティン)的な知的労働(給与計算、請求書作成等)までを代替することが可能になった時代を「第2の機械の時代(セカンド・マシン・エイジ)」と呼ぶ。さらに、2010年代に入り、これまで機械化が不可能とされてきた、明文化は困難な知識を意味する「暗黙知」ですら、機械化されるような時代が到来しつつあると見る(マカフィー&ブリニョルフソン2018)。
確かに以下のような重要な変化が2010年代に生じた。
第1に、人工知能の能力が専門家の予測を超える速度で飛躍的に向上した。グーグル・ディープマインド社が開発した人工知能囲碁ソフト・AlphaGoの第2世代AlphaGo Leeは、16万局、合計3000万手の棋譜データから反復学習し、さらに自己対戦を通じた強化学習を繰り返すことで、2016年3月に世界最高峰の棋士であるイ・セドルに5番勝負で4勝した。その後、同シフトの第3世代は中国の棋士・柯潔に3戦全勝を記録した。第4世代のAlphaGo Zeroは自己対局のみによって強化され、第2世代AlphaGo Leeに100戦全勝を記録した。イ・セドルが2019年11月19日に引退を宣言した際、いくら努力しても人工知能に勝利することができない、という無力感があったことを吐露している。
第2に、周知の通り、デジタル経済が巨大な価値を生み出した。2019年の夏時点で、世界企業価値ランキング上位10社のうち7社がIT企業である。いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)にマイクロソフトを加えたアメリカ企業5社と、中国のアリババとテンセントの2社で、米中両国以外のIT企業はランクインしていない。コロナ危機のなかで巨大IT企業への資金の集中の傾向はさらに鮮明になっている。
第3に、ネットワークと接続されるコンピューター端末の数が急増し、世界を覆いつつある。IoT(Internet of Things' モノのインターネット)という言葉の火付け役になった2011年発表のレポートによれば、ネットワーク端末の数は2003年時点では5億台で、世界人口63億人の12分の1の数に過ぎなかった。しかし2010年には世界人口を超える125億台の情報端末が普及し、さらに2020年には500億台に達すると予測されていた(Evans,2011)。これは必然的に人と人の間(Person-to-Person)の通信だけでなく、機械と機械の間の通信(Machine-toMachine)も含めた通信が飛躍的に増大することを意味する。こうした普及を支えたのはコンピューターの製造コストの低下と処理能力の向上であった。半導体の性能が18ヵ月で倍になる現象、いわゆる「ムーアの法則」である。
以上3つの変化は、いずれもデジタルな技術、デジタルのサービス、そして情報通信端末に関わるものなのである。この意味で変化の中心には「デジタル化」がある。

市場の時代

2000年代以降の第3の時期は、中国、東南アジア、そしてインドといった人口を多く有する地域の経済成長が軌道に乗った「市場の時代」である。
この時期、所得は低いものの膨大な人口の低所得者層の潜在的な大市場と捉える「ボトムオブピラミッド(BoP)市場論」に代表されるように、新興国の消費市場に注目する視点が登場した。それまでに「発展途上国」という言葉よりも「新興国」という言葉が頻繁に使われ始めたのも、この頃であった。
ブラジル、ロシア、インド、中国を対象とする「BRICs」へ注目が集まったのは2001年に刊行されたゴールドマン・サックスの投資蚊家向けの報告書がきっかけであった。対象国に一貫した特徴があるかどうかは別にして、2009年から4ヵ国での首脳会談も開催されるようになり、言葉が実体化した。2011年からは南アメリカも加わり(これによりBRICSとなった)、インフラ投資を主要業務とする新開発銀行の設立によって、具体的プロジェクト」を推進するようになっている。

なかでも中国が経済大国化したことは、世界経済に大きな構造変動をもたらした。中国は1992年に社会主義市場経済路線を確定し、2001年には世界貿易機関WTO)に加盟することで、国際経済との統合を深めた。アジア域内外から製造分野での多額の直接投資を受け入れ、「世界の工場=中国」とも呼ばれる一大製造業拠点となったのである。

そしてデジタル化の時代へ

第4の段階として本書が描くのが、2010年代半ば以降に到来しつつあると考えられる「デジタル化の時代」である。
無論、世界を席巻する潮流はデジタル化にとどまらない。防疫、移民、そして所得格差といった問題に端を発した反グローバリゼーションという潮流は、イギリスを含む欧州各国やアメリカで際立つ(経済産業省2019)。また各国内に目を転じれば、政治の現状に対する不満は、より過激な政策を提案する政治家への支持へとつながるポピュリズムをもたらしている。さらに2020年に入り世界を危機的な状況に陥れているパンデミックは、国々の連結性が高まった現代にたいする痛烈な「逆流」あるいは「調整」といえるだろう。
ただ、貿易や移民への規制、ポピュリズムの台頭やパンデミックがもたらす変化が、果たして不可逆的な趨勢と言い切れるのかどうかは現時点では判然としない。それに対して情報端末はますます安価となり、経済的にも政治的にこうした技術が求められている。パンデミックを考慮に入れたとしても、2020年代にも「新興国のデジタル化」は持続すると考えることができる(むしろ加速する兆しもある)。
それでは新興国がデジタル化する新たな環境のもとで、日本経済、そして日本企業はどのようなアプローチで新興国に関与すべきだろうか。これまでの各時代に対応した役割、すなわち「政府開発援助の提供者としての日本」「先進工業国としての日本」「課題先進国として(少子高齢化や成長率の停滞など)の日本」という役割は、今後も続くだろう。
しかし、デジタル化時代ならではの日本の役割をどのように自己規定するか。少なくとも、いくつかの先駆的な取り組みを整理して方向性を示す必要がある。このことは第6章であらためて考えたい。