じじぃの「歴史・思想_448_デジタル化する新興国・アリペイ(支付宝)」

The Alipay phenomenon and how it works | FT

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=NvEYhCW_v3g

支付宝に登録する方法

2013.11.04 上海人
●支付宝(アリペイ)に登録する方法
中国のネット通販に欠かせないもの、それは「支付宝」です。
日本ではネット通販の決済に、クレジットカードや銀行振り込み、代金引換などが使われますが、中国では主にこの支付宝という決済システムが使われます。
http://shanghai-zine.com/topics/260

『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

伊藤亜聖/著 中公新書 2020年発行

第2章 課題解決の地殻変動 より

プラットフォームがもたらす信用

第1章では、デジタル化がもたらしつつある変化として、『世界開発報告』が①検索と情報アクセスの改善、②自動化技術の普及、③プラットフォーム企業(売り手と買い手の間に立ち、製品の開発環境を提供したり、情報を収集したりして、取引相手と引き合わせることによって付加価値を作り出す事業体)の台頭、以上の3点を挙げていることを紹介した。このなかで工業化の時代に存在しなかったことは、情報アクセスの向上とプラットフォーム企業の登場である。
デジタル化が新興国の課題を解決するメカニズムの筆頭は、プラットフォーム企業の登場によるリスクの管理と信用の創出である。プラットフォーム企業とは、売り手と買い手の間に立ち、製品の開発環境を提供したり、情報を収集すたりして、取引相手と引き合わせること(マッチング)によって付加価値を作り出す事業体である。プラットフォームを分類する視点は複数あるが、アレックス・モザドとニコラス・ジョンソンはビジネスに近い立場から2つに分類している。
まず、アマゾンやアリババに代表される電子商取引サイトのように、取引費用の縮小に重点を置くタイプは「交換型プラットフォーム」、そしてアップルのiOSやブログ記事を投稿できるミディアムのような、コンテンツを開発・公開するすることができる環境を提供するタイプを「メーカー型プラットフォーム」と呼んでいる(モザド&ジョンソン2018)。
交換型プラットフォームは売買を成り立たせ、決済サービスを提供することで、新興国に欠けてきた個人間の信用を創出しつつある。

アリペイによるエクスローサービス

中国では電子商取引の普及の際に最大のボトルネックとなったのが、まさにこの点であった。通販において、「買い手は商品が届くまで現金を払いたくない」「売り手は代金が届くまで商品を発送したくない」という状況が生まれていた。このためインターネットがあっても、最終的には実際に対面して受け渡す取引が行われいた。
そこで登場したのがアリババによる支付宝(アリペイ)というサービスである(廉・辺・蘇・曹2019)。買い手がアリペイへ代金を預け、売り手から発送された商品を買い手が確認して以降にアリペイから売り手へと支払いがされる仕組みを提供した。これによって、買い手を売り手の間に信用が欠けている状況下でも第三者としてプラットフォーム企業が取引を保証し、またモニタリングすることで、見ず知らずの相手との取引が促進される。日本ではフリーマーケットアプリのメルカリで採用されているこの仕組みは、エスクローサービスと呼ばれる。仲介者を介在されることによって取引を担保するもので決してデジタル経済特有のものではないが、デジタル経済によってあらためてその効果が発揮された。

金融包摂と農村振興

持続可能な開発目標(SDGs Sustainable Development Goals)の観点から注目できるのは、デジタル技術を活用した包摂的なサービスの提供である。1つ目の領域は、これまで金融サービスの対象外となってきた人々にもサービスの利用を広めていく「金融包摂」(ファイナンシャル・インクルージョン)である。
これまで銀行をはじめとする金融機関のサービス対象外となってきた人々に向けて、金融サービスの範囲を広げる観点では、グラミン銀行に代表されるマイクロファイナンスが注目集めてきた。マイクロファイナンスとは、既存の銀行が顧客としないような貧困者に向けて小口の支援を行うことで、家計の改善を支援しようとする取り組みである。すでに確認したように、近年、携帯電話、スマートフォンの普及が進むことで、銀行口座は持たないが通信会社やプラットフォーム企業にアカウントを有する人が増えた。このようにデジタル化によってマイクロファイナンス潜在的顧客も大きく拡大している。
中国のアリババ集団の決済業務として2003年に出発したアリペイ(2014年にアントファイナンシャル・サービスグループとして別会社化)の場合、一貫して個人や小店主を主要な顧客としてきた。2019年10月までに世界でユーザー数が12億人に達し、個人の決済に加えて、少額の融資、分割払い、保健、資産運用といった各種金融サービスを提供するようになっている。このような事例は、中小企業の創業と成長の可能性を広げることと、同時に経済全体の生産性の改善にもつながる可能性がある(SDGsの目標8と9)。
2つ目の領域は、デジタル経済による農村・農業の振興である。農村の特産物を販売するチャネルとして電子商取引はどの程度の可能性があるだろうか。中国では「淘宝(タオバオ)村」と呼ばれる地域が注目を集めてきた。アリババ集団の電子商取引サイト「淘宝ドットコム」の運営担当者が、販売源のデータを整理していた際に、出店者が特定の地域、それもいくつかの村に集中していることを発見したことが命名の契機といわれる。農村地域の地域振興を考えるうえで、電子商取引の拡大は新たな雇用機会を創出する可能性がある(SDGsの目標8)。

「アナログな基盤」の重要性

もちろんデジタル技術が活用すれば新興国が直面するすべての課題が解決するほど、話は単純ではない。課題を解決するうえでのボトルネックとなる要因もある。
すでに1章で言及した世界銀行の報告書では、デジタル化がもたらしうる3つのリスク、すなわち①説明責任の欠如した情報統制、②技能教育なき自動化とそれによる不平等、③競争の欠如による独占を指摘する。そのうえで、これら3つのリスクへの対応策は、デジタル技術の外側に求められるため、「アナログな基盤」(analogue foundation)と呼んで、その補完的役割の重要性を指摘している(世界銀行2016)。例えば検索サービスの公正性の確保、技能教育の充実、そして競争当局(公正取引委員会等)によるプラットフォーム企業の行動のモニタリングが必要になる。
またデジタル技術の利用面は一足飛びに進むことが期待されがちだが、現場での丹念な取り組みとセットにならなければ課題解決につながらないことも多い。例えば水道管理の面では、無線基地局の整備のような通信インフラ以前に、村までの水道パイプが敷設されていて初めて、その先のデジタルセンサー等の活用した管理の効率化へと議論を進めることができる。またオンラインで教育環境を整備する動きも注目を集めてきたが、その限界も認識されるようになっている。
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本章では、デジタル化が新興国にもたらした新しい可能性として、プラットフォーム企業とベンチャー企業による課題解決を検討した。プラットフォーム企業は、新興国が長年にわたって直面してきた信用の問題を解決する糸口となっている。そして多数のベンチャー企業が生まれることで、より身近な課題の解決に向けて、新しい手段も開拓されることになる。このようなデジタル化による課題解決は、工業化が果たした雇用の創出と技能の熟練といった効果とは大きく異なる。一見、それぞれの課題解決は断片的に見えるが、十分な技能を持つエンジニアを国内で育成することができれば、国内で人々が直面するローカルな課題の解決にこうした人材が貢献することになる。