じじぃの「歴史・思想_451_デジタル化する新興国・インターネットの自由・5G」

Mass Rapes. Sweeping Surveillance. Forced Labor. Exposing China’s Crackdown on Uyghur Muslims

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=pDezFj3CJm0

How Free Is the Internet?

Mar 12, 2019 Statista
The following chart, based on Freedom House’s findings, shows a world map of internet freedom, categorizing countries with respect to obstacles to internet access, limits on online content and violations of user rights.
According to the report, China was the worst abuser of internet freedom for the fourth year running as "censorship and surveillance were pushed to unprecedented extremes."
https://www.statista.com/chart/3942/internet-freedom-across-the-world-visualized/

『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

伊藤亜聖/著 中公新書 2020年発行

第5章 デジタル権威主義ポスト・トゥルース より

権威主義国家でデジタル化が進む理由

政治的な事由が制限され、インターネット上の言論の自由が制限されても、経済社会のデジタル化が停滞するとは限らない。情報が検閲される一方で、デジタル技術の利活用は進む。
第2章では、インターネットを通じた支払いの普及が一部の中・低所得国でも進んでいることを紹介した。ここでは政治的な自由と技術の普及の関係を見てみよう。図表は、横軸に政治的自由を、縦軸にインターネットを通じた決済の利用経験の関係を示している。ここでの政治的自由とは、世界銀行の関連プロジェクトが公開している国別データで。①政権選択の自由、②言論の自由、③結社の自由、④報道の自由、を考慮した指標である。
図表では2014年と2017年を比較している。2014年時点では、明確な右肩上がりの傾向が見られる。右上の国々は政治的に自由であり、かつインターネットを通じた支払いが普及した国々である。ノルウエーやデンマークスウェーデンといった北欧の国々が並ぶ。
2017年になると、国の左側中央部にも中国、ロシア、アラブ首長国連邦サウジアラビアといった国々が並び、U字型あるいはJ字型の傾向が見られる。つまり政治的な自由が制限されている国々でも、オンライン上での決済システムが普及したことを意味する。「デジタル権威主義のJカーブ」とでも呼びうる事態である。ただし、権威主義体制においてもデジタル化が進んでいる現象の因果関係を検証することは難しい。仮説的に考えられるメカニズムは、権力者にとって国民の個人情報を収集してビッグデータを構築するインセンティブ(誘因、報奨金)があることだ。それゆえにプラットフォーム企業(売り手と買い手の間に立ち、製品の開発環境を提供したり、情報を収集したりして、取引相手と引き合わせることによって付加価値を作り出す事業体)を政治的に優遇したり弾圧したりしながら、デジタル化を進めているという見立てである。

幸福な監視国家?

新興国のながで、特定政党による統治が法的に規定されつつ、なおかつデジタル化社会が急速に進み、監視社会の問題も深刻化しているのが中国である。上記のフリーダム・ハウスの「インターネットの自由」指数では、2016年から2019年まで4年連続で、最も不自由な国と評価されている。2020年の時点でも、中国では大多数の外国のプラットフォーム企業のサイトやサービスへのアクセスが制限されている。検索エンジンのグーグル、SNSツイッターフェイスブックは利用できない。このため中国大陸でウェブ検索をするためには一般に百度や捜狗(ソウゴウ)が利用され、ツイッターの代わりに類似サービスであるウェイボーが、そしてモバイル地図アプリでは百度地図やアリババの高徳地図といったサービスが普及している。まさに第3章で述べた「輸入代替デジタル化」が実現している。

中国の状況は「監視国家」の代表格として扱われている。全国の監視カメラの数は6億台とも言われ、近年では新疆ウイグル自治区における少数民族の監視のために、位置情報を補足する監視用のスマートフォン・アプリまでが導入されていることが報道された(Human Rights Watch,2019)。

監視カメラによる直接的な監視、SNSサービス上での言論の監視と検閲に加えて、近年注目を集めてきたのは社会信用スコアである。社会信用スコアは、原理的には米国を含む国々でも採用されてきた金融スコアと類似したものだ。
アリババが提供する社会信用スコアサービス・芝麻信用(セサミ・クレジット)を事例として見よう。芝麻信用は350点から950点までのスコアが個人の履歴から算出される。高いスコアを持つ場合には、関連サービスを利用する際にデポジット(預け金)が不要になる、不動産賃貸の際に敷金が減額になる、といったわかりやすい優待を受けられる。
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中国ではデジタル技術を応用した監視を強化しながら、同時に、人々の行動を「より良い」方向へと誘導するアプローチも採用されている。中国の一部地域で2019年頃から採用され始めた「道徳的な信用スコア」は、社会信用スコアとは異なって、スコアの運営側、すなわち政府が「望ましい」と考える行動に対してポイントを付与し、「望ましくない」行動ではポイントを減点することで、ゆるやかに人々の行動を誘導するアプローチが取られている。このような誘導は、目的はまったく異なるが、行動経済学の分野で「ナッジ」と呼ばれるような行動変容を促す取り組みによく似ている(梶谷・高口2019)。
道徳的な信用スコアの取り組みは、いまだ試行錯誤段階にあり全国的な普及には至っていないが、いずれにしても中国はますます治安が良く「お行儀のよい」社会になりつつある。中国の「道徳的な信用スコア」には、国家による行動介入の「最先端」が示されているのかもしれない。

デジタル領域での中国の影響力

中国企業の海外展開をめぐっては、米国をはじめ各国で警警戒感が高まっている。
では中国が影響力を拡大することで、地域の秩序は変貌していくのだろうか。白石隆とハウ・カロラインは『中国は東アジアをどう変えるか』で、「一帯一路」構想の始動以前の時期について、拡大が続く中国の経済的・政治的影響力を検討している。(白石・ハウ2012)。重要な指摘は、東南アジア諸国のなかでも、国際的な経済・貿易体制へと深く統合されている国は、中国以外の経済大国との関係を維持することで、中国から影響力を限定ぢけ、回避する(ヘッジする)一方で、国際貿易との結合が深くない国々、例えばカンボジアラオスミャンマーといった国々では中国の影響力は相対的に強まる、というものだ。既存の製造業分野や貿易財分野では、日本や欧米企業の役割が大きく、こうした想定が成り立ちそうである。
ただしデジタルの領域に目を向けた場合、新興国(あるいは第三世界)における中国の影響力は製造業や一般的なインフラ建設よりも強く現れる可能性がある。なぜなら、とりあけデジタルの物理層(通信ネットワーク、物理サーバー、記憶装置、演算処理装置)ではファーウェイ、ZTEが、そしてアプリケーション層およびミドルウェア層ではアリババ、テンセント、バイとダンス(字節跳動)、シャオミといった企業が、世界でも指折りの有力な選択肢を提供しているからだ。
例えば、5G通信システムの設備の場合、ファーウェイの基地局は小型かつ高性能だとの評価を得ている。また携帯電話の領域でもシャオミやファーウェイの端末は新興国市場に食い込んでいる。アプリケーション層では、バイとダンスのショート・ムービー・アプリTikTokは、2020年4月時点までに全世界130ヵ国以上に展開し、利用者は8億人に達した(月に一度は利用する月間アクティブユーザー、MAU)。道路建設や一般的な建設資金の調達であれば中国以外の選択肢を容易に選べるのに対して、5G基地局の建設や電子商取引、決済システムの導入といった領域では選択肢が限られる。このために中国企業が提供する設備やサービスが魅力的な選択肢の1つとなるのである。
中国共産党はそのゲリラ戦の経験から「農村から都市を包囲する」戦略を学んだ。

1960年代にはアジア、アフリカ、南米を「世界の農村」と捉え共産主義を輸出し、「世界の都市」たる北米と西ヨーロッパを「包囲」しようとの構想があった。当時の中国の経済力からすれば限界は明らかであったが、2020年代の中国の経済力と技術力を考えると、デジタル領域での影響力の拡大は不可避だろう。