中国「デジタル人民元」実験加速 来年の五輪に向け (2021年4月23日)
北京冬季オリンピックに「デジタル人民元」を使用する計画
中国のデジタル人民元のテストは最終局面に、北京や香港でも開始へ
2020年9月2日 CoinChoice
中国の中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)のテストは、いよいよ本格的な最終段階に入ります。中国商務省が8月14日発表したもので、このデジタル人民元のテスト計画は、北京のほか香港、マカオなど9都市を含むグレーターベイエリア(GBA)などで開始されます。
一方で易綱行長は、2022年北京で開催される冬季オリンピックにデジタル人民元を使用する計画であることを明らかにしました。このためのCBDC運用・流通に関する法律を作成中であることはすでに確認されています。
中国共産党機関紙である人民日報系列の「環球時報(Global Times)」は易綱総裁の会見直後、米国による中国への経済制裁の脅威を踏まえ、デジタル通貨電子決済(DCEP)の開始予定を速めることを考慮していると伝えています。
https://coinchoice.net/china-digital-yuan-trial-is-in-last-phase/
中国と戦うときがきた日本
著者 渡邉哲也
日米「経済安全保障」により、経済的集団的自衛権が発動! 中国企業の出資を受ける楽天は日米政府の共同監視対象に、対中情報管理が甘かったLINEは体制改善を迫られ、ユニクロや無印良品などはウイグル人強制労働との関連を内外から追及されるなど、中国ビジネスはもはや最大のリスクとなった。
次に危ない企業はどこか。米国「2021年 戦略的競争法」施行で日本の対中政策は180度大転換が必至、そこで何が起こるのか。気鋭エコノミストが解説!
第1章 中国にかかわることが最大のリスクとなった日本
第2章 超弩級の中国経済大破滅がやってくる
第3章 経済安全保障で中国と対決する世界
第4章 日本は中国にどう勝つか
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アメリカのドル基軸体制の転覆を狙って自滅する中国
今も世界の金融はドルを基軸に動いている。世界各国に投資をしたければドルが必要であり、ドルがなければ石油も資源も購入できない。
中国からすれば、このドル基軸体制を壊せなければ、中国が覇権を握ることができない。そこで中国は、2008年のリーマンショック後のアメリカ弱体化のなかで、国連やWTO(世界保健機関)など国際機関への影響力を拡大し、人民元の国際化を進めていった。
しかし、ここで壁になったのが、アメリカによってつくられた国際機関である。たとえば、IMF(国際通貨基金)は加盟国が振り込むクオータ(出資割当額)が主な融資財源となっているが、そのクオータにより各国の議決権が決まる仕組みである。
そのような国際機関では、重要な決定に際し、85%の議決権が必要になる。一方で、アメリカは17.40%の議決権を保有しており、アメリカが否決すれば85%の議決権に届かない。つまり、アメリカは単独で拒否権を保有している構図になっているわけだ。
これに対して、中国は繰り返しクオータの見直しを要求しているが、アメリカがそれに反対すれば見直しすらできない。もちろん、アメリカが単独拒否権を捨てるような選択をするはずもないだろう。こうした構図は、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)、WTOなども同様である(アジア開発銀行は日本とアメリカが15%を超える議決権を保有しており、日本にも拒否権がある)。
そのため、中国は代換えの機関の創設に走った。それがBRICS銀行であり、AIIB(アジアインフラ投資銀行)であった。しかし、それも世界銀行やADBの壁に阻まれている。アメリカや日本が参加しない機関では信用が低いため、安価にドルの資金調達ができないからだ。
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いいかえれば、これに反するような(投資の透明性など)インフラ投資については、世界銀行などは資金を拠出しないということだ。つまり、前述したような中国のインフラ投資には資金は出さないと宣言したわけだ。
ちなみに、アメリカの国防予算を決めるために議会が毎年提出する法律「国防権限法」の2021年度版においても、中国による世銀を利用した開発を禁じる事項が含まれている。
このため中国は世銀など国際的な資金を使えなくなり、自国資金だけの投資に投資形態を変更しなければならなくなった。
そして2019年、中国が参加するG20においても、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が採択され、これまでのように自由に相手国を拘束することが難しくなっている。
「デジタル人民元」が絶対に失敗する理由
ただし、これは(人民元の決済で紙幣や硬貨を使わないデジタル人民元では)大本の人民元そのものの価値が担保されていることが大前提であり、デジタル化されようとも人民元そのものに価値がなくなれば意味がない。
また、中国政府が簡単にこれに踏み切れない理由も存在する。人民元の国際化、海外決済の自由化は、国内からの資金流出を促進する側面もあるからだ。
現在、中国からの資本移動には事実上の制限がかけられている。「外資企業は、中国国内で人民元を外資に交換することはできない。外資を必要とする場合は、国家外貨管理局の許可が必要で、対外的に外貨支払を行う場合は、輸出取引などにより自ら調整することが求められている」(JETROのHPより)
このため、海外企業などが稼いだ利益を中国政府の許可なく他国に持ち出せない状態になっている。両替規制と持ち出し規制があるため、日本企業なども出た利益を中国国内に再投資している。
しかし、デジタル人民元が誕生すれば、国境を超えた送金や資本移動が容易になる。もしも中国当局がデジタル人民元に送金規制をかけたならば、デジタル人民元は普及しない結果になる。自由に利用できない通貨に価値はない。
そして、ここには「国際金融のトリレンマ」問題も絡んでくる。国際金融のトリレンマとは、一国が対外的な通貨政策を取るときに、
①為替相場の安定管理
②金融政策の独立性
③自由な資本管理
の3つのうち、必ずどれか1つをあきらめなければならない、というものです。
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現在の中国は、中国共産党の一党独裁であり、民主主義国のように民意を問うシステムがない。前述したように、中国の憲法序文には、「国家は中国共産党の指導を仰ぐ」と明記してあり、憲法よりも中国共産党の指導のほうが上位なのだ。
したがって、中国共産党および中央指導部は「絶対に誤らない」ことが、中国を統治することの正当性になる。だから、中国では政権批判はタブーなのだ。政権批判は、中国共産党が中国を統治する正当性に疑義を突きつけるものだからだ。
したがって、中国としては、自分たちのコントロールが効かなくなる為替の自由化や、資本移動の自由化は認めることができない。
中国が先進国と同じ条件で国際金融に参画するのは、固定相場制をやめて、「為替の自由化」を受け入れると同時に、「中央銀行による独立した金融政策による物価安定」と「外国との資本移動の自由」を成し遂げるしかない。
習近平国家主席は、社会主義強国をめざすと宣言しているが、いうまでもなく、それは為替の自由化や外国との資本移動の自由とは真逆の方向である。にもかかわらず、国際金融のメンバーとして人民元の国際化をめざすということ自体が二律背反である。
いずれにせよ、共産党一党独裁の維持が至上命題である現在の中国において、自由化は諸刃の剣であり、とはいえ、中途半端な自分に都合のいい「自由化」では国際社会が許すはずもない。