じじぃの「歴史・思想_286_現代ドイツ・フォルクスワーゲン」

Behind The Nazi Origins Of The Volkswagen Beetle

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=u6bOkQkMFJU

フォルクスワーゲンの歴史 - 国民車から世界一の自動車メーカーへ

2015年11月27日 ドイツBizGuide
フォルクスワーゲンの発足は1937年であるが、そのきっかけは1934年に遡る。
http://bizguide.jp/de/article/vw-000646/

『現代ドイツを知るための67章【第3版】』

浜本隆志、高橋憲/編著 明石書店 2020年発行

自動車づくりのポリシー――ベンツ、フォルクスワーゲン、ポルシェ より

自動車づくりはドイツ社会と深いかかわりがあった。かつてドイツは階層社会であり、近代においても上流階級と下流階級という身分は、はっきりと区分されていた。そのドイツ社会は、車の製造のポリシーにも反映し、まず上流階級用にはメルセデス・ベンツがつくられた。自動車はもともと馬車から発達したが、これは高価な車両だけでなく、ウマを養い、御者を雇うという、想像以上に経費がかかった。それを賄えるものだけしか馬車を所有することができなかったので、王侯貴族や金持ちの専用物であった。馬車を車として代替したのが、メルセデス・ベンツであったのだ。
あの有名な星型のマークは、ステータス・シンボルにもなっており、名車メルセデスのオーナーになることは、一昔前までに憧れでもあった。今日、状況は多少なりとも変化したが、高級車としてのイメージは今なお健在である。
次に一般庶民用としては、かつての初代フォルクスワーゲンが構想された。国民車という名称がそれを裏づけている。第三帝国の時代、ヒトラーの命によりフェルディナント・ポルシェ(1875~1951)が大衆の広範な利用を目的に開発したこの車の歴史は知られている。スタイルは斬新であったが、実用性を重視したので、車の部品も必要最小限度にそぎ落とし、低コストを実現させた。
フォルクスワーゲンはいわゆる「かぶと虫」(Kafer)という愛称で知られ、モデルチェンジを30年近くもおこなわなかった。戦後、一車種生産をおいて2100万台の世界記録を樹立したが、流行を追わず実質剛健をモットーにし、いわゆるドイツ精神を主張した車であった。フォルクスワーゲンは、第二次世界大戦後の高度経済成長期の文字どおり牽引車となって、ドイツの復活に貢献したといえよう。
そのフォルクスワーゲン社が2015年9月、ディーゼルエンジン車の排ガス規制逃れの不正をおこなったことが発覚し、ドイツ社会を揺るがす事態を招くことになった。排ガス試験に際して、ディーゼル車に不正ソフトを搭載し、排ガス浄化装置を作動させていたのである。今回の事件は、同社が世界制覇を掲げた強引な拡大路線と無縁ではないようだ。フォルクスワーゲン社への信頼の失墜は販売不振につながり、雇用への影響も出てきている。自動車産業はドイツの基幹産業であり、戦後ドイツ(旧西ドイツ)経済復興の象徴であった。それゆえ責任感が強く、法令を遵守するドイツ人、というイメージが揺らいでいる。
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ドイツ人の「モノづくり」に対する考え方は、安全性にもっとも色濃く反映されている。一般的にいって、日本の車と比べるとドイツ車は頑丈で、安全対策に格別の配慮がなされていることは衆目の一致するところである。日本でも後部座席を含めたシートベルトの着用が義務化されているが、ドイツはその着用率が世界でもトップであるという。かれらは、交通事故を起こすかもしれないというリスクマネージメントに敏感である。
メルセデス・ベンツは車検の合格率も高く、また車輌の寿命も長い。廃車までの走行距離も他車に比べて長いことに定評がある。さらにそのメルセデス・ベンツ神話を支えているのは、ユーザーのきびしい目であることも指摘しておけなければならない。ドイツではTUV(技術監査協会)やADAC(全ドイツ自動車クラブ)などがメーカーや車種ごとに厳格な調査をおこない、結果を公表している。これは自動車品質維持にたいへん貢献しているといえる。
ドイツの高級車はかならずといってよいほど運転席が後部座席よりもりっぱな仕様になっている。安全への配慮も運転席と助手席が最優先に考えられており、ドイツでは大企業の役員もみずからハンドルを握るか助手席に座る。日本人には不思議に思われるが、ドイツでタクシーに乗ると助手席に座らせられることが多い。日本の通常の座席マナーと異なるのは、安全性への自信に裏づけられたものだ。
かつてのアメリカ車はよくバタくさいといわれ、派手な大型乗用車が多かった。日本車は、燃費のよさ、使用しやすさ、内装への気配りに至るまで細やかにつくられている。そう見ると、グローバル化時代といえども、自動車づくりのポリシーはやはり国民性を反映していることが分かるだろう。