じじぃの「歴史・思想_296_現代ドイツ・EV戦国時代」

Will Germany's car industry survive? | DW Documentary

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=hcXjVxaKzv4

世界的なEVの販売台数は圧倒的にテスラ! それでも日産が負け組ではない理由

2019年8月9日 WEB CARTOP
2018年の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数において、世界でもっとも多かったのは、テスラのモデル3であった。
日産リーフは、3位。2位は、中国の北京汽車のECシリーズである。
https://www.webcartop.jp/2019/08/411206/

『現代ドイツを知るための67章【第3版】』

浜本隆志、高橋憲/編著 明石書店 2020年発行

EV(電気自動車)戦国時代――ドイツの現状と展望 より

EV(電気自動車)に今大きな関心が集まっている。識者はガソリンあるいはディーゼル内燃機関は早晩、時代遅れのエンジンになることを予測しているからだ。もちろんEVは、環境保護の観点からCO2削減が見込まれることがまず挙げられる。しかしそれだけではない。電気自動車を制する国は世界の経済を制し、さらに石油依存の経済体制から脱却できることも大きい。今やEV戦国時代といっても過言ではない。
2018年の世界のEV販売順位を見ると、ここではメーカー別の集計であるが、国別ではトータルで中国、アメリカ、日本、ドイツの順になる。モデル別トップはアメリカのEVテスラ3で、生産が間に合わないという状況である。この分野の中国の伸長も目覚ましく、自国だけでも巨大な市場をもつという強みもある。日本はハイブリッド車とEVにシフトしているのはご承知のとおりである。この図(画像参照)ではその点明確ではないが、世界の主流はEVである。ドイツは現在のところこれらの国々の後塵を拝しているといわざるを得ない。
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さてEV促進のためのドイツの政策を確認しておきたい。ドイツでは2020年末までに電気自動車(EV)、プラグインハイブリッドカーあるいは水素自動車の新車を購入した場合、最高4000ユーロ(約48万円)まで補助金が支給され、さらに向こう10年間は自動車税非課税という特典がある。またノルトライン=ヴェストファーレン州ザクセン州では、家庭用充電設備を設置する場合、最高1000ユーロ(約12万円)の補助金が州から得られ、充電ステーションを新設する場合にも補助金を支給する自治体が少なくない。
こうした取り組みが功を奏して、現在ドイツ国内に充電ステーションがステーションが急速に増えており、2017年に6381基であったものが、2019年第2四半期には1万5310基に増加した。これは充電ステーション1基にあたり、電気自動車が平均4、5台使用できるという計算となり、日本の1基あたり10台よりも待ち時間がすくなくなり、充電しやすい状況にある。
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今まで述べたのは、行政の側の電気自動車(あるいはハイブリッド車)シフトである。これには輸入車を含めた話であるが、問題は自動車王国と自負してきたドイツの自動車メーカーのEV対応である。多くの人びとは、ドイツがEVの分野でも世界をリードする立場にあると誤解しているかもしれない。しかし引用した図にあるように、実際はそうではないのである。
もちろんこれまでにドイツはEVも製造してきた。ドレスデンにあるフォルクスワーゲン車の「ガラス張りの自動車組み立て工場では、かつて高級車フェートンを製造していたが、2017年4月からe-Golfの製造ラインになり、工場内の一部が見学可能である。しかし1日の製造台数は35と、高級車製造時並みの手仕事である。2020年に発売予定のBWM社のiX3やフォルクスワーゲン車のID3も開発しているが、EVは高級車感覚がある。
そうこうしているうちに、2018年のアメリカ市場で主力のメルセデスが人気のEVテスラ3に敗退、ダイムラー社はことの深刻さを実感した。ポルシェの販売も同様であった。地元のヨーロッパでもアメリカのテスラ3の人気は高く、ノルウエーではこのEVが全車種の売り上げトップになった。ようやくドイツメーカーも地殻変動が起きていることに気づき、危機感を募らせた。そこでフォルクスワーゲンダイムラー、BMW3社は連携して、EVに特化した車づくりに大転換することにした。その象徴的な出来事は、2019年7月10日に80年の歴史を誇ったフォルクスワーゲンの「ビートル」の生産終了というニュースであった。
歴史的にドイツには方向転換を誤った前例がある。1975年には当時のダイムラー・ベンツ社が、その翌年にはフォルクスワーゲン社がすでにEVを開発していたにもかかわらず、IT革命でドイツが乗り遅れたときに同様に、EV実用化にも前車の轍を踏んでしまった。ドイツには伝統的技術を大切にする文化があり、ガソリン車やディーゼル車にこだわり続けた。ことの挙句に排ガス不正にまで手を染めた。
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いずれにせよドイツの自動車メーカーは必死になって巻き返しを図り、生き残りのためにEV開発に全力を挙げるであろう。いったん方針を決めると、ドイツ人は大きな低力を発揮するので、EV戦国時代の勝者は誰かの判断はまだ下せないが、2020年代にももう決着がつくであろう。