じじぃの「歴史・思想_279_ハラリ・21 Lessons・ポスト・トゥルース」

The True Cost of Crimea

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=v_5Z17qfXq4

Russian soldiers now patrol the Crimean Peninsula.

What in the World Is Putin Doing in Crimea?

March 5, 2014  Life, Hope & Truth
The global community has been stunned by recent geopolitical decisions by Vladimir Putin. How can we make sense of Russia’s actions in Ukraine?
“President Putin seems to have a different set of lawyers making a different set of interpretations, but I don’t think that’s fooling anybody.”
https://lifehopeandtruth.com/prophecy/blog/what-in-the-world-is-putin-doing-in-crimea/

『21 Lessons』

ユヴァル・ノア・ハラリ/著 柴田裕之/訳 2019年発行

17 ポスト・トゥルース――いつまでも消えないフェイクニュースもある より

私たちはぞっとするような「ポスト・トゥルース」の新時代に生きており、どちらを見ても嘘と作り事ばかりだと、近頃繰り返し言われている。例はいくらでも手に入る。たとえば2014年2月下旬、軍の徽章をつけていないロシアの特殊部隊がウクライナに侵入し、クリミア半島の主要な軍事基地を占領した。ロシア政府とプーチン大統領本人が、彼らがロシアの部隊であることを再三徒弟して、自発的に組織された「自警団」だとし、地元の店でロシア製のように見える装備を手に入れたかもしれないと主張した。この荒唐無稽な説明を口にしたとき、プーチンとその側近たちは、嘘をついていることを百も承知していた。
ロシアのナショナリストたちは、より高い次元の真実のためになると言い張って、この嘘を大目に見ることができるだろう。ロシアは正義の戦争を行なっていたのであり、大義名分のためには人を殺すことが許されるなら、嘘をつくことも当然許されるのではないか? ウクライナ侵攻を正当化するとされる、このより高次の大義名分とは、ロシアという神聖な国家の維持だった。ロシアの国家神話によれば、ロシアは神聖な存在で、不埒(ふらち)な敵たちが侵略して分割しようと何度も試みたにもかかわらず、1000年にわたって持ちこたえてきたことになる。モンゴル人、ポーランド人、スウェーデン人、ナポレオンのグランダルメ(大陸軍)、ヒトラードイツ国防軍に続いて、1990年代にはNATOアメリカとEUが、ロシアの一部を切り離してウクライナのような「似非国家」に仕立て上げて、ロシアを破壊しようと試みたという。ロシアの多くのナショナリストにとっては、ウクライナはロシアとは別個の国家であるという考え方のほうが、ロシアという国家を再統合する神聖な使命を果たす間にプーチン大統領が口にしたことのどれよりもはるかに大きな嘘となる。
ウクライナ国民や傍(はた)から見ている人や専門家の歴史学者がこの説明に呆れ返り、それをロシアの欺瞞の兵器庫から跳び出した「原爆級の嘘」と見なしたとしても当然だろう。
    ・
歴史にざっと目を通すと、プロパガンダや偽情報はけっして新しいものではないことがわかるし、ある国家や国民の存在をまるごと否定したり、似非国家を創り出したりする習慣さえ、はるか昔までさかのぼる。日本軍は1931年に自らに対して偽装攻撃を行なって中国軍の犯行とし、中国侵略の口実とした後、翌32年に満州国という似非国家を設立して、征服高位を正当化した。その中国にしても、チベットが独立国として存在したことをずっと以前から否定してきた。オーストラリアへのイギリスの植民は、無主の地という法原理によって正当化され、それによって5万年に及ぶ先住民の歴史が事実上消し去られた。

ポスト・トゥルースの種

実際には、人間はつねにポスト・トゥルースの時代に生きてきた。ホモ・サピエンスポスト・トゥルースの種であり、その力は虚構を創り出し、それを信じることにかかっている。自己強化型の神話は石器時代以来ずっと、人間の共同体を団結させるのに役立ってきた。実際、ホモ・サピエンスがこの惑星を征服できたのは、虚構を創り出して広める人間ならではの能力に負うところが何よりも大きい。私たちは、非常に多くの見ず知らずの同類と協力できる唯一の哺乳動物であり、それは人間だけが虚構の物語を創作して広め、厖大な数の他者を説得して信じ込ませることができるからだ。誰もが同じ虚構を信じているかぎり、私たちは全員が同じ法や規則に従い、それによって効果的に協力できる。
だから、新しい、ぞっとするようなポスト・トゥルースの時代をもたらしたとして、あなたがフェイスブックやトランプやプーチンを責めるなら、何世紀も前に何百万ものキリスト教徒が自己強化型の神話のバブルの中に閉じこもり、聖書の記述が真実かどうかをけっして問おうとしなかったことや、何百万ものイスラム教徒がクルアーンを疑うことなく信じ込んでいたことを思い出してほしい。何千年にもわたって、人間の社会的ネットワークの中で「ニュース」や「事実」として通ってきたことの多くは、奇跡や天使、魔物、魔女についての物語であり、想像力に富む報告書が奈落の底から直接、生中継したものだ。イヴがヘビに誘惑されたことや、異教徒はみな死ぬと地獄で魂が焼かれることや、宇宙の創造主はバラモンの人が不可触民と結婚するのを好まないことを裏づける化学的証拠はいっさいない。それにもかかわらず、何十億もの人がこうした物語を何千年にもわたって信じてきた。フェイクニュースのなかには、いつまでも消えないものもあるのだ。