じじぃの「歴史・思想_203_人類と病・アメリカの参戦とスペイン風邪」

Reopening during coronavirus: Lessons from the second wave of the 1918 flu pandemic

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_x66GyHejVE

VIRAL WAVES Devastating second wave of coronavirus ‘inevitable’ and could hit during flu season

21 Apr 2020 The Sun
A SECOND wave of coronavirus is "inevitable" - but the big danger is it hitting at the same time as a flu outbreak, an expert has warned.
https://www.thesun.co.uk/news/11443270/second-wave-coronavirus-flu-outbreak/

楽天ブックス:人類と病 - 国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)

詫摩佳代(著)
【目次】
第1章 2度の世界大戦と感染症 025
1 第一次世界大戦感染症 026
  塹壕での生活
  マラリアの流行とキニーネの限界
  アメリカの参戦とスペイン風邪
  強大化したインフルエンザ
https://books.rakuten.co.jp/rb/16258112/

『人類と病』

詫摩佳代/著 中公新書 2020年発行

2度の世界大戦と感染症 より

塹壕での生活

1914年夏、ドイツ、オーストリアを中心とする同盟国と英仏露3国を中心とする協商国との間に第一次世界大戦が勃発した。
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塹壕での生活を余儀なくされた兵士たちの間には、塹壕足と呼ばれる、凍傷と水虫の複合した症状もよく見られた。塹壕足になると、患部が壊疽(えそ)を引き起こし、最悪の場合、患部を切断せねばならなかった。このほか、実際の戦闘では、砲弾によって受けた傷口から細菌が入り込むことによって引き起こされるガス壊疽(筋肉の感染症で患部からガスが発生する)と破傷風破傷風菌が産生する神経毒素により強直性痙攣を引き起こす感染症)も問題となっていた。

アメリカの参戦とスペイン風邪

第一次世界大戦感染症というテーマで多くの人の頭にまず浮かぶのは、マラリアよりもスペイン風邪であろう。ソニア・シャーによれば、マラリアも甚大な被害をもたらしたが、死者の数ではスペイン風邪がそれを凌(しの)いだため、マラリアの影響が霞(かす)んだという。1918年にアメリカで発生した新型のインフルエンザは、兵士や船の移動とともに世界各地に広められた。普通のインフルエンザとは異なり、死者の大半が20代・30代の若者だったこともあり、人類史上、最大規模の死者を出すこととなった。正確な死者数を把握することは困難であるが、ある統計によると、1918~23年の間に世界で約7500万人が犠牲になったとされる。
アメリカはもともと大戦に参戦していなかったが、ドイツの無制限潜水艦戦の攻撃を受けて、1917年4月、当時のウッドロー・ウィルソン大統領はドイツに宣戦布告した。アメリカが参戦した後の1918年初頭、アメリカのカンザスハスケル郡で新型のインフルエンザが発生し、ウイルスは州を東に横断し、広大な陸軍基地へと広がった。ジョン・バリーによれば、米陸軍基地からフランスへの兵士の移動に伴い、ヨーロッパにも感染が拡大し、南米、アジア太平洋、アフリカへとウイルスが蔓延したという。
フランスでの感染拡大は1918年4月に始まった。フランス北西部ブルターニュ半島に位置するブレストにアメリカ軍兵士が上陸した後、ブレストを起点としてヨーロッパ全体へ感染が拡大した。4月末にはパリを襲い、ほぼ同時にイタリアを襲った。同じ頃、イギリス陸軍とドイツ軍でも患者が発生した。しかし、アメリカをはじめとする多くの感染国では、兵士の士気を損ないかねないとして、インフルエンザが流行に関する報道は控えられていた。
他方、大戦で中立を維持していたスペインでは、1918年5月、国王アルフォンソ13世や首相、政府高官が次々とインフルエンザに感染し、新聞の報道はインフルエンザで埋め尽くされた。このようなスペインの新聞で特に取り上げられたことから、いつしか「スペイン風邪」と呼ばれるようになったという。
スペインを経由したインフルエンザは、ポルトガルギリシャを襲い、6月から8月にかけて、イギリス、デンマークとノルウエー、オランダとスウェーデンを襲った。さらに、船や兵士の移動とともに、インド、オセアニア、ロシアと北アフリカにも達した。

強大化したインフルエンザ

このように世界中を席巻するなかで、インフルエンザは1918年8月に変異し、未曽有(みぞう)の威力を持つインフルエンザの爆発的な流行が始まった。流行はシェラレオネのフリータウン、フランスのブレスト、アメリカのボストンという3つの港町で同じ週に始まった。アメリカでは9月にボストン近郊の陸軍キャンプで感染が拡大し、キャンプ全体が混乱状態に陥った後、同年秋にはフィラデルフィア、ニューヨークなどアメリカ全土に広まった。
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2020年3月にも世界各地で似た状況が見られることからは、感染症の威力がいかに不変であるかを示している。
終戦後もその影響は続き、1919年1月に始まったパリ講和会議でも、ウィルソン米大統領をはじめとするアメリカ代表団員が罹患した。その後もインフルエンザの流行は続いたが、感染の威力は落ちていった。ウイルスが変異して普通のインフルエンザのありようと同じになったからであり、また人々が免疫を獲得したからであった。