じじぃの「歴史・思想_206_人類と病・ポリオ(小児麻痺)根絶への道」

WHO: The Polio Surveillance System (Short version)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=lhPkiUrug1c

quickly paralyze children

Study Points to Virus as Culprit in Mystery Polio-Like Illness That Paralyzed Hundreds of Children in U.S.

KTLA
Scientists have found the strongest evidence yet that a virus is to blame for a mysterious illness that can start like the sniffles but quickly paralyze children.
https://ktla.com/news/local-news/study-points-to-virus-as-culprit-in-mystery-polio-like-illness-that-paralyzed-hundreds-of-children-in-the-u-s/

楽天ブックス:人類と病 - 国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)

詫摩佳代(著)
【目次】
第2章 感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア 057
3 ポリオ根絶への道 080
  2つのワクチンの登場
  生ポリオワクチン実用化に向けた米ソ協力
  ポリオワクチンをめぐる問題
  ポリオ根絶に立ちはだかる壁
https://books.rakuten.co.jp/rb/16258112/

『人類と病』

詫摩佳代/著 中公新書 2020年発行

感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア より

第二次世界大戦後に設立された世界保健機関(WHO)は、設立当初から国際政治と密接な関わり合ってきた。設立のイニシアティブをとったのは、第二次世界大戦の連合国、なかでもアメリカであったし、現在に至るまでアメリカや日本など大国が多くの資金を分担している。
しかし注意すべきは、WHOの活動が国際政治の流れに受身的ではなかったことだ。たとえば、第二次世界大戦中、国際連盟保健機関の専門家はたちは早々に戦後の国際保健機関構想を作製し、そのアイデアはWHO憲章の土台となった。戦後のWHOは米ソ冷戦など、国際政治の影響に晒されつつも、専門家たちを中心に、各国の関与をうまく活用しながら、地道な実績を積み上げてきた。すなわち戦後の保健協力は、国際政治の影響を受けつつも、そのなかで、いかにその本来の目的――可能な限り最高水準の健康を達成する――を確保していくかの闘いでもあった。
本章では、WHO設立の過程を見た後、WHOの下で展開された3つの感染症対策プログラムの様子を追う。なぜ、天然痘は根絶に成功し、マラリアとポリオはまだ根絶されていないのか? その背景には、ワクチンや治療法の発見といった問題に加え、国際政治上の要因も関係している。天然痘、ポリオ、マラリアという3つの感染症に焦点を当てて、戦後の保健協力の行方を追っていきたい。

ポリオ根絶への道

天然痘の根絶は他の根絶事業への筋道を作った。そして天然痘の次のターゲットとされたのがポリオであった。ポリオは20世紀初頭、多くの産業国家で、子供の身体麻痺を引き起こす病気として恐れられた。天然痘と同じく、人にしか感染せず、媒介物が存在しないため、ワクチンの接種によって有効に感染を予防できるという特徴がある。ポリオウイルスは口から人の体内に入ると、リンパ節を介して血液中に入る。その後に脊髄を中心とする中枢神経系へ達し、四股の麻痺を引き起こす。
他方、ポリオウイルスに感染したすべての人が発症するわけではなく、そのなかで典型的な麻痺型ポリオを発症するのは0.1~2%である。麻痺型ポリオの症状としては、四股の弛緩性麻痺のほか、合併症として発語・呼吸障害が現れることがある。全面的に根治できる治療法はなく、ワクチンによる予防と、個々の症状に対する対症療法が中心となる。

ポリオ根絶に立ちはだかる壁

ポリオ根絶に向けた世界的な対策が1988年に始まった当初、世界では毎日1000人以上の子供たちがポリオによる麻痺症状に陥っていたが、WHOによるポリオプログラムの開始以降、大幅に患者は減少した。2000年に予定していた世界的な根絶宣言は延期せざるをえなくなったものの、ポリオの自然発生率は確実に減少していった。国立感染症研究所ホームページによれば、WHOの6つの地域局のうち、西太平洋地域は2000年、アメリカ地域では1994年、ヨーロッパ地域では2001年のそれぞれ根絶宣言がなされている。