じじぃの「カオス・地球_190_ウイルスとは何か・第3章・インフルエンザウイルス・スペイン風邪」

Spanish Flu: a warning from history

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=3x1aLAw_xkY

スペイン風邪 1918年当時の米国陸軍基地の病院の様子

図3-1 A型インフルエンザウイルスの構造


永久凍土に眠るウイルス遺伝子から、100年前のインフルエンザパンデミックの謎を解く!?

人類との関わりの歴史 理化学研究所
1918~1919年のスペイン・インフルエンザのパンデミック

今から100年以上昔、第一次世界大戦の最中に、原因不明の病原体が人類を襲いました。
はじめは単なる風邪だと思っていたのに、症状が急激に悪化し肺炎を起こして、あっという間に死に至る。街は病人や死にゆく人々で溢れかえった・・・。まるでホラーじみたゲームや小説の中の出来事のように聞こえますが、これが1918~1919年に世界を大混乱に陥れたスペイン・インフルエンザの世界的な大流行(パンデミック)です。
スペイン・インフルエンザの最初の波(第1波)は、1918年春に米国の陸軍基地で発生したのち、米軍の移動とともにヨーロッパ戦線へと拡がり、劣悪な環境にあった兵士達を直撃しました。1918年秋に世界中でほぼ同時に始まった第2波では、原因ウイルスが第1波と比べて10倍以上致死性の高い”殺人ウイルス”へと変貌しており、多くの感染者が重篤な肺炎を起こして死亡しました。
https://www.ims.riken.jp/poster_virus/history/spanishflu/

ウイルスという存在

インフルエンザウイルスの進化

科学バー 文と写真 長谷川政美
スペイン風邪ウイルス
第一次世界大戦末期の1918年から始まり翌年まで世界中で猛威を振るったスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザは、5千万人もの命を奪ったという。これは大戦の戦死者の数を大きく上回るものであった。

●インフルエンザウイルスの遺伝子構造
インフルエンザウイルスを包む外被膜からは、スパイクたんぱく質という突起が出ている。このスパイクたんぱく質は、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類から成る(図18-1)。これがインフルエンザウイルスの抗原性を決める上で重要である。
https://kagakubar.com/virus/18.html

『ウイルスとは何か―生物か無生物か、進化から捉える本当の姿』

長谷川政美/著 中公新書 2023年発行

「ウイルス」という言葉を知らない人はいないだろう。ただし、その定義は曖昧である。目に見えない極小の存在で、ほかの生物の細胞内でしか増殖できないために、通常は生命体とはみなされない。だが、独自のゲノムを有し、突然変異を繰り返す中で、より環境に適した複製子を生成するメカニズムは、生物の進化と瓜二つだ。恐ろしい病原体か、あらゆる生命の源か――。進化生物学の最前線から、その正体に迫る。

第3章 インフルエンザウイルスの進化 より

1 100年前の流行り病

スペイン風邪ウイルス

第一次世界大戦末期の1918年から始まり、翌年まで世界中で猛威を振るった「スペイン風邪」は、5000万人もの命を奪ったという。これは大戦の戦死者の数を大きく上回るものであった。

スペイン風邪ウイルス」は極めて致死性が高いものであったが、間もなく終息した。しかし、その後もインフルエンザウイルスは変異を重ね、新しいタイプのインフルエンザウイルスが次々に出現してわれわれを脅かしている。

インフルエンザには、毎年のように現れる季節性インフルエンザとスペイン風邪のようにパンデミックを引き起こすものとがある。季節性インフルエンザの致死率は低いが、それでも毎年人口の5~15%が感染するので、世界中では1年でおよそ50万人が亡くなっている。

スペイン風邪の時代には、この病気の原因となるウイルスを解析する技術がなかった。しかもこの病気は地球上から消えていたので、1997年まではその実態が不明のままであった。この年、アメリカ陸軍病理学研究所のジェフリー・タウベンバーガーらは、スペイン風邪の犠牲者の肺の検体から、このウイルスのRNAゲノム配列の一部を決定することに成功した。この研究により、スペイン風邪ウイルスは現在も季節性インフルエンザの病原体として残っている「A型H1N1亜型インフルエンザウイルス」と同じゲノム構造をもつウイルスであることが明らかになった。スペイン風邪は消えたが、病原ウイルスは致死性の低い季節性インフルエンザウイルスとして残っていたのである。
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一般的な季節性インフルエンザウイルスは、鼻や喉など上部気道で増殖するが、スペイン風邪ウイルスは上部気道だけでなく、肺でも増殖できる。スペイン風邪ウイルスには病原性に関わる4つの特異な遺伝子部位があるが、これらの部位はウイルスが肺にとりついて増殖する際に重要な役割を果たしている。また、このウイルスの病原性は、感染した個体における異常な免疫反応によってもたらされるという。

亜型を生む遺伝子再集合
インフルエンザウイルスを包む外被膜からは、「スパイクたんぱく質」という突起が出ている。このスパイクたんぱく質は、「ヘマグルチニン(HA)」と「ノイラミニダーゼ(NA)」の2種類から成る(図3-1 画像参照)。これがインフルエンザウイルスの抗原性(体内に入り免疫反応を引き起こす異物の性質)を決める上で重要である。

A型インフルエンザウイルスは、HAとNAの違いによって亜型に分類される。ヒトで広く見られるのが、スペイン風邪ウイルスで代表される「H1N1亜型」、1957年にパンデミックを引き起こしたアジア風邪ウイルスの「H2N2亜型」、それに1968年パンデミックを引き起こした香港風邪ウイルスの「H3N2亜型」の3種類である。
それぞれの亜型のウイルスはパンデミックを引き起こした後も、症状の比較的軽い季節性インフルエンザウイルスとして生き残っている。

インフルエンザウイルスの遺伝情報は、たんぱく質ごとに8本の別々のRNAにコードされており、それぞれのRNA分節は独立に複製される。したがって、異なるインフルエンザウイルスが同じ細胞に感染すると、そこでRNA分節の交換が起こり、8本のRNA分節の新しい組み合わせをもったウイルスが生まれることがある。これを「遺伝子再集合」という。異種間の生物の交雑に似た現象だが、HAとNAもそれぞれ独立のRNA分節にコードされているので、遺伝子再集合によっていろいろな組み合わせの亜型が生まれるのだ。

またインフルエンザウイルスの突然変異率は非常に高く、ゲノムが複製を繰り返すたびに変異が蓄積するので、感染者ひとりの体内には、さまざまな変異をもったウイルスが混在している。そのために、抗体が産生されてウイルスが排除されそうになっても、それを逃れる新たな変異が生まれることがある。

インフルエンザウイルスの進化は、通常はたんぱく質遺伝子の突然変異によってアミノ酸が変化することによって起こる。これによってウイルスの抗原性が徐々に変化し、従来のワクチンが効きにくくなる。これが毎年季節性インフルエンザウイルスで起っていることである。

一方、スペイン風邪ウイルスなど世界的なパンデミックを引き起こしたウイルスは、複数のウイルスが遺伝子再集合を起こすことによって生まれたと考えられる。