じじぃの「ちょっと怖い話・気分転換のソロキャンプ!短編小説」

小川のせせらぎ

「超」怖い話K(カッパ)』

平山夢明/著 竹書房文庫 2007年発行

ソロキャンプ より

人嫌いというわけではなかった。
ただ同僚や後輩と比べてみても自分は極端にストレスに弱いのではないかと思うと田部さんは言う。
「昔からわりと人に言われたことが気になるタイプで。なんだろう……マイナス思考なんですよ、全体的に」
田部さんは都内の食品会社で営業をしている。
「新規の飛び込みなんかはないけれど、その代わり、長年取引しているところばかりだからね。自分のせいで関係が悪くなったりすると大変なことになっちゃうんだよ」
彼は他の仲間のように酒やカラオケ、麻雀でストレスを発散するということが苦手なタイプだった。
「そういうのは逆に疲れちゃってストレスが重なってしまうんですよ」
ひとりで映画を見たり本を読んだりするほうがストレス解消になるのだそうだ。
「しかも、うちの営業部は代々、体育会系のノリだからね。それにもついていけなくって」
故に彼はストレスが目一杯溜まると、たったひとりでソロキャンプに出かけた。
「好きな場所が4ヵ所ぐらいありましてね。その中のひとつを選んで……」
2、3泊して帰ってくるのがたまらないのだという。
「もちろん、仕事に関係のあるもの、東京に関係のあるものは全部、部屋に置いてきちゃう。そういったものから自由になりたいんです」
去年の初夏、彼は有休をとると自分を癒す旅に出かけた。
「丹沢の川沿いを上ったんです」
    ・
気がつくと朝になっていた。
全身がバラバラになりそうなほど痛んだ。顔を上げると無意識に吐き戻した跡がある。
体中、泥だらけだった。
朝靄が河原全体を覆っていた。
体が氷のように冷たくなっていた。
「不思議なことにどこも骨折していなかったんです。砂地の上に落ちたのが幸いしました」
あと50センチほどズレていれば頑丈な河原の岩がごろごろ並んでいる。そんなところにぶつかれば即死だったろうと思った。
ゾっとした。
体が動くように見計らって、彼は泥を落とそうと顔を洗いにあの岩に寄った。
その下には落下した水が作った小さな淵ができていたのだ。
    ・
岩の上で動くものがある。
田部さんが立ち上がると同時にそれが淵へと落ちてきた。
ベキャ。
水音と一緒に骨の折れる音がした。
人だった。抜けた髪の間から白い頭皮を覗かせ、袖から覗く指は半ば白骨化していた。
「警察の話だと自殺した人だったらしいです。服の中に遺書があったとかで。あの岩の上で水に浸かっていたから顔の皮が残っていて身元確認に役立ったって聞いたときには正直、吐き気がしました。だって、その水を下で溜めて飲んでいたんですから」

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どうでもいい、じじぃの日記。
久しぶりに古本屋に寄った。
何か、犯罪もので読んでスカッとするものはないか。
「超怖い話」か。
山で小川のせせらぎを見ると、その清涼感に水を飲みたくなる。
清らかに見える水でも、生き物の糞とか、混じっている。
それが、自殺死体の腐ったのが混ざって、ということもあるかもしれない。
「抜けた髪の間から白い頭皮を覗かせ、袖から覗く指は半ば白骨化していた」
もう、いくつ寝ると、白骨化です。