じじぃの「三途の川・ようこそ地獄へ?パワースポットはここですね」

三途の川 (庚申谷川)

三途の川

富山地方鉄道立山線千垣駅からしばらく東へ行くと、道は庚申 谷川と交差します。
かつて、この川は「三途の川」ともいわれ、現在の道よりも下流にある旧道には、川の対岸に
  「此所 三づ川  是より しでの山」
と刻まれた大きな岩の道標があり、「立山曼荼羅」にも描かれています。
http://www.pref.toyama.jp/branches/3043/marugotohakubutu/sanzunokawa/sanzunokawa.htm

『パワースポットはここですね』

高橋秀実/著 新潮社 2019年発行

ようこそ地獄へ――三途の川 より

天国と地獄。
どちらにパワーがあるのかと考えると地獄である。天国は何やらリラックスして脱力しそうだが、地獄は火炙りにされたり、拷問を受けたりする。それこそチカラ(霊囚)が満ちているようでスポットとしてはパワフルだろう。実際、「そこに行けば癒される」などという話を聞いても「そうなんですか」という程度にしか感じないが、「そこには祟りがある」と言われると避けたくなる。あるいはこわいもの見たさで様子をうかがいたくなるわけで、それもチカラを感じている証拠である。世間で「パワースポット」と呼ばれる場所も、かつては忌み嫌われる場所だったことが多いらしく、となるとチカラは地獄の方面から湧いているのではないだろうか。

三途の川を渡る

記録上、日本で最も歴史の古い地獄は富山県立山である。平安中期の仏教書『大日本国法華経験記』(『往生伝 法華験記 日本思想大系7』岩波書店 1974年)に「かの山に地獄の原ありて」「近づき見るべからず」などと記されており、『今昔物語集』でもこう断言されている。
  昔ヨリ伝ヘ云フ様、「日本国ノ人、罪ヲ造テ、多ク此ノ立山ノ地獄ニ堕ツ」と云ヘリ。
             (『今昔物語集三 新日本古典文字体系35』岩波書店 1993年)
罪人が堕ちる地獄なのだ。同書には4編の立山地獄エピソードが収録されている。いずれも、ある僧侶が立山に就業に出かける。すると女性の亡霊が現われ、「苦ヲ受ル事量(はかり)無シ。昼夜ニ息(やす)ム時無シ」などと責め苦に喘ぎ、憐れんだ彼が読誦して救ったというストーリー。女性ばかりが堕ちる地極ということなのだが、そもそもなぜ立山が「地獄」とされたのだろうか。
「ひとつには都(京都)から見ると、立山は北東の方角、つまり鬼門にある。当時の陰陽道からすると、『これぞまさに地獄』ということになったんでしょう」
そう解説してきれるのは立山博物館学芸員の加藤基樹さん。もともと「地獄」とは中国伝来の仏教用語。教義によれば地獄は地下にあるはずなのだが、日本では地上に設定されたらしい。
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このたび私は江戸時代の立山登拝ルートのひとつ、富山県滑川市加島町から車で立山に向かった。視界を遮るものがほとんどない田園を走ること約30分。山懐につき進むと芦峅寺の集落が見えてくる。史料によると、この集落の入口には「三途の川」(現・庚申谷川)が流れており、かつては自然石の道標(現在は立山博物館に展示されている)が置かれていたという。石にはこう記されていたらしい。
  此処三づ川 是よりしでの山
「しで」とは「死出」。ここから入山することでいったん死ぬ。そして地獄を味わい、罪を滅ぼして下山する。当らな命に再生することで「現生の安穏や死後の浄土往生が約束された」(福江充著『立山信仰と布橋大潅頂法会』桂書房 2006年)そうなのである。死後に地獄に堕ちないように、生きているうちにあらかじめ堕ちておくというわけだ。
ここから、と言われても現在はどこにも目印がなく、わたしは車を降りて周辺をうろうろした。たずねようにも人がおらず、体感を頼りに同じ道を行ったり来たりしたのだが、「死出」というほどの変化はない。出直すか、と深い溜め息をつくと道路脇に土木事務所の「土石流危険渓流」標識。そこに「三途川橋」と記されていたので、ようやくそこが三途の川であることに気がついた。
橋に立って眺めると、チョロチョロと数本の川が合流しており、確かに「三途」のようではある。人は死ぬと、生前の罪の重さによって「橋」「山水瀬(膝ほどの深さの川)」「江深淵(流れが速く波立つ川)」のいずれかを渡らされることになっているので「三途」と呼ぶのだが、ここの「三途」はどれも変わらないように見えた。
案外そういうものかもしれん。
私はふと思った。厳罰を恐れるから激流を想像してしまうだけで、現物はせせらぎだったりすることもあるだろう。それに死ぬ時は本人も死んだことに気がつかないわけで、この橋のように知らずに通り過ぎてしまうのではないだろうか。

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どうでもいい、じじぃの日記。
新型コロナウイルス」が日本中で拡散中だ。
高齢者や基礎疾患のある人が新型コロナウイルスに感染すると、特に重症化する傾向があると言われている。
生き物は長く生きるのに従って、体が朽ちていく。
そろそろ、お花畑が見えてきた。
案外そういうものかもしれない。
「私はふと思った。厳罰を恐れるから激流を想像してしまうだけで、現物はせせらぎだったりすることもあるだろう。それに死ぬ時は本人も死んだことに気がつかないわけで、この橋のように知らずに通り過ぎてしまうのではないだろうか」
そうなのだ。