じじぃの「科学・芸術_870_数学的な宇宙・ミクロの世界(原子核)」

Where does gold come from? - David Lunney

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jf_4z4AKwJg

Structure of matter flow diagram

『数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて』

マックス・テグマーク/著、谷本真幸/訳 講談社 2016年発行

宇宙を構成するレゴブロック より

原子核というレゴブロック

原子仮説の成功は皮肉なことに、「原子」という名前の正当性に疑問を投げ掛けることになった。巨視的物体がすべて原子と呼ばれる小さなレゴブロックでできているというなら、原子そのものも同じように、もっと小さなレゴブロックでできているのではないか。そしてそれらを組み替えることで、異なる原子ができるのではないか。そんな疑問が持たれるようになったのだ。
そして実際、その通りだった。周期律表に載っている原子すべて、プラトンの理論にでてくる4種類(土、水、空気、火)よりさらに少ない、わずか3種類のさらに小さなレゴブロックからできていることが分かったのだ。これは非常にエレガントな事実だ。第3章でもちょっと登場したこれら3種のブロック――陽子、中性子、電子――は、図(画像参照)のように、小さな太陽系のような系を構成している。すなわち、中心に陽子と中性子がコンパクトに詰まった「原子核」と呼ばれるボールがあり、そのまわりを電子が回っている。地球は太陽の重力に引っ張られて太陽のまわりを回っているが、電子は陽子との間に働く電気力に引っ張られて(電子と陽子はそれぞれ負電荷と正電荷を持ち、正負の電荷は引かれあう)原子核につなぎ止められている。電子は近くの他の陽子からも引っ張られるので、これが原子どうしを結合させる力となり、原子よりもっと大きな「分子」と呼ばれる構造ができる。分子を構成する原子核と電子は、配置が組み換えられることがあり、これは化学反応と呼ばれる。この反応は山火事(樹木を構成する炭素と水素が空気中の酸素と結合して二酸化炭素と水分子に変化する反応)のように速いものもあれば、木の成長(山火事と逆の反応で、太陽をエネルギー源として起こる)のようにゆっくり進行するものもある。
錬金術師は鉛などの安価な原子から金などの貴重な原子へ原子の種類を変えようと、何世紀にもわたって努力をつづけたが、結局成功しなかった。なぜ成功しなかったのだろう? 原子はそれに含まれる陽子の数によって名前がつけられている。たとえば、陽子1個を含む原子が水素、79個含む原子が金だ。したがって錬金術師ができなかったことというのは、陽子というレゴブロックピースを、ある原子から別の原子へ移しかえることだった。ではなぜ、それができなかったのか。今では理由が分かっている。錬金術師は絶対不可能なことをしようとしていたわけではなく、単に使用するエネルギーが足りなかったのだ。それはこういうことだ。
同符号の電荷は電気力のために反発するので、原子核中の陽子がこの反発力のためにバラバラになってしまわないためには、それよい強い力で結合されている必要がある。「強い核力」または単に「強い力」というもっともな名前で呼ばれる種類の力がこれを行っていて、この力は十分短距離にある陽子と中性子を1つにまとめて原子核をつくる「マジックテープ」のような役割をしている。この力は非常に強く、この力に打ち勝って陽子を引きはがすためには、途方もない衝撃を加える必要がある。たとえば、水素分子(2つの水素原子が電気力で結合されたもの)を2つの水素原子に分離するのは、2つの水素分子を秒速50キロで互いに衝突させればよいが、ヘリウム原子核(陽子2つと中性子2つが強い力で結合されたもの)を個別の陽子と中性子に分離するには、2つのヘリウム原子核を秒速3万6000キロもの高速で互いに衝突させる必要がある。この速度は光速の約12パーセントに相当し、ニューヨークからサンフランシスコまで0.1秒足らずで到達できる速さだ。
自然界では何百万度という以上に高温になれば、このような厳しい衝突が実際も起きる。初期宇宙は非常に高温だったため、陽子や中性子がより重い原子核の形に結合しても、すぐに他の粒子に衝突されて分離してしまった。そのため、水素プラズマ(結合していない単独の陽子)以外に原子はなかったのだが、宇宙が膨張してだんだん温度が下がってくると、途中、ほんの数分間だけ特別な時間があった。衝突が陽子間の電気的反発力に勝てるほどには強く、しかし陽子と中性子をヘリウム原子核にまとめる強い力に抗えるほどは強くない期間だ。これが第3章で説明したガモフのビッグバン元素合成の時期だ。太陽の中心核でもおんどがこの魔法の範囲にあり、水素原子核どうしが融合してヘリウム原子核ができている。
経済学の法則によると。高価な原子は希少な原子であり。物理学の法則によると、希少な原子は生成するするのに尋常でない高温を必要とする原子である。したがって、もし原子に口があったら、最も値の張る原子が1番おもしろい話を語っていれるだろう。炭素、窒素、酸素(これらは水素と合わせてヒトの体重の96パーセントを占める)などの月並みな原子は私たちの太陽のような月並みな恒星がその一生を終えるときに作られ、そのため非常に安価である。なお、これらの原子はリサイクルされてまた寄り集まり、新しい太陽系が作られる。一方、非常に高価な原子の1つである金は、恒星の超新星爆発で作られる。超新星爆発は、観測可能な宇宙に含まれる他のすべての恒星のエネルギーほどのエネルギーがわずか数分の1秒間に放出されるという。非常にまれで、非常に激しい現象だ。錬金術師に金が作れなかったのもむべなるかな、といったところだろう。