じじぃの「科学・芸術_824_大統領とハリウッド・『エアフォース・ワン』」

解説・あらすじ エアフォース・ワン (1997) Yahoo!映画

監督ウォルフガング・ペーターゼン
アメリカとロシアの協力によってカザフスタンの独裁者ラデクがついに逮捕された。
命令を下した合衆国大統領マーシャルは、モスクワでの会見でテロには決して屈しないことを宣言し大統領専用機(エアフォース・ワン)で帰途についた。だが、その機内にはロシアのTVクルーを装っていた6人のテロリストが潜入していた。テロリストのリーダー、コルシュノフは乗客乗員を人質に取り、アメリカ政府にラデク釈放を要求する。政府が決断を迫られる中、辛くも難を逃れた大統領は単身、テロリストへ戦いを挑もうとしていた!

                        • -

『大統領とハリウッド アメリカ政治と映画の百年』

村田晃嗣/著 中公新書 2019年発行

21世紀の大統領とハリウッド――9・11から11・9へ より

トランプは父の事業を継承して財をなしたが、行政経験は皆無であった。むしろ、彼はメディアで名を挙げた。トランプは20本以上の映画にカメオ出演しており、例えば、クリス・コロンバス監督によるヒット作『ホーム・アローン2』(1992年)にも、本人役で登場している。当時彼が所有していたニューヨークのプラザ・ホテルが舞台だったからである。いわば、ニューヨークの経済的成功の記号である。さらに、トランプはテレビのリアリティ番組(事前に台本や演出のない、素人が登場する番組)で司会を務め、「お前はクビだ!」の決め台詞で人気を博した。ジョン・デレク監督『ゴースト・ラブ』(1989年)では、栄えあるゴールデンラズベリー賞最低助演男優賞も獲得している。
こうした背景から、トランプとレーガンの類似性を語る声も少なくなかった。2人とも、その政治手腕を疑問視され、強い批判や嫌悪にさらされながら、メディアを巧みに利用してきたというわけである。本書で繰り返してきた議論に即して言えば、2人ともセレブ政治の流れに位置することは間違いない。
そもそも、「アメリカを再び偉大にしよう」という合言葉は、1980年大統領選挙でのレーガン陣営からの借用である。さらに言えば、レーガンは史上初の離婚歴のある大統領だったが、トランプはその記録を更新した(レーガンは1回、トランプは今のところ2回)。また、レーガンは就任時に69歳と市場最高齢の大統領だったが、トランプは70歳と記録を更新した。しかも、レーガン民主党から共和党に転向した以上に、トランプは民主党アメリカ合衆国改革党、無所属、共和党と正当を遍歴してきた。
もとより、両者には顕著な相違もある。まず、レーガンには全米最大の人口を擁するカリフォルニアの州知事を2期8年務めたという、行政経験がある。また、レーガン共産主義や「大きな政府」といった抽象概念を激しく攻撃したが、めったに個人攻撃はしなかった。ところが、トランプは敵を定めて個人を口汚く攻撃する。それは映画的というより、はるかにプロレスの悪役(ヒール)に近い。彼の必殺技は、「私のメガホン」と呼ぶツイッターである。また、リアリティ番組さながらに、閣僚や側近たちも次々に解任していく。人々の憎しみを煽る政治スタイルという点では、トランプはレーガンよりニクソンに近い、その抜く損がウォーター事件で失職したように、トランプはロシアとの不正な癒着を疑われるロシアゲート事件に悩まされている。さらに、レーガンは神を信じ、自由や民主主義といった理想を語ったが、トランプには信仰や理想に裏打ちされた語彙はない。何しろ、レーガンベルリンの壁を壊すよう呼び掛けたのに対して、トランプはメキシコとの国境線に壁を作ろうと訴えている。レーガンが包摂的であったとすれば、トランプは排他的である。今の共和党では、レーガンはとても大統領候補になれなかっただろうと、しばしば言われる。最後に、レーガンはカリフォルニアを中心とする「サンベルト」の繁栄を、トランプは衰退する「ラストベルト」の焦りと怒りを、それぞれの背景にしている。
しかし、本書のテーマである大統領とハリウッドの関係では、レーガンtトランプに再び2つの共通点を見出せる。
第1に、ハリウッドはレーガン同様に、否、それ以上にトランプを嫌っている。大統領選では、イーストウッドジョン・ヴォイト、スティーブン・ボールドウィンなど、トランプを支持するハリウッド・セレブもいるにはいた。だが、より多くの、そして、より著名なセレブたちは、トランプに批判的であり続けた。

エアフォース・ワン』に登場する大統領を好きだとトランプがか語ると、主演したハリソン・フォードは「彼が大統領(プレジデント)? 見習い(レジデント)かと思った」と皮肉った。

オバマの「親友」クルーニーも、トランプを「外国人嫌いのファシスト」痛罵した。ロバート・デ・ニーロに至っては、「あいつの顔を殴ってやりたい」とすら公言した。トランプの大統領当選後も、デ・ニーロやメリル・ストリープらと大統領との間で応酬が続いたことは、本書の冒頭でも触れたところである。
第2に、レーガン在任中に彼を描いた映画がほとんどなかったように、今のところ(2019年1月現在)トランプを描いた映画は登場していない。前者については、レーガン自身が誰よりも巧みに大統領を演じていたからである。後者については、いかなるエンターテイメントよりも、彼自身が奇抜で過激なエンターテイメントになっているからである。政治とエンターテイメントの融合は、トランプにおいてはほとんど完成の域に達した。ただし、彼は映画的というよりも、はるかにプロレス的である。