じじぃの「科学・芸術_823_大統領とハリウッド・『フォレスト・ガンプ』」

解説・あらすじ フォレスト・ガンプ/一期一会 (1994) Yahoo!映画

監督 ロバート・ゼメキス
知能指数は人より劣るが、足の速さとその誠実さは天下一品という一風変わった主人公フォレスト・ガンプの半生を、時代を象徴する“事件”とヒット・ナンバーで綴った心暖まるヒューマン・ファンタジー
スペンサー・トレイシーに次いで、ハンクスが2年連続主演男優賞を取った他、アカデミー賞では当然のごとく、作品・監督・脚本といった主要部門を総嘗めにした。

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『大統領とハリウッド アメリカ政治と映画の百年』

村田晃嗣/著 中公新書 2019年発行

冷戦後の昏迷 より

1997年10月に、クリントンをめぐるセクハラ訴訟の過程で、彼と性的関係を持った可能性のある女性の名前が7人挙がった。そのうちの1人が、モニカ・ルーインスキーだった。95年に22歳の彼女がホワイトハウスインターンとして勤務した際に、2人は「親密な性的接触」を持つようになり、その関係が97年まで続いたというのである。だが、大統領は「性的関係」を一切否定した。ヒラリー夫人に至っては、「巨大な右派の陰謀」を指弾してみせた。ところが、ルーインスキーの青いドレスにクリントンの体液が付着していたことが確認された。大統領は若いインターンの性器に葉巻を挿入し、それを吸ったという。これでは、ほとんどポルノ映画である。ついに、大統領は彼女との間に「不適切な関係」があったことを認めたが、「性的関係」ではなかったと強弁した。つまり、オーラル・セックスは法的には「性的関係」に該当せず、家族や国民を欺いた点では謝罪するが、ルーインスキーとの関係はプライバシーに属するというのである。
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うって変わって、アラン・ゴールドスタイン監督『レスリー・ニールセンの2001年宇宙への旅』(2000年)は、タイトルからもわかるように様々なSF映画のパロディである。本作には実在の大統領たちの「そっくりさん」が登場する。火星で宇宙人がクリントン大統領のクローンを製造し、本物とすり変えて地球を征服しようとする。ニールセン演じるドジな宇宙捜査官が、これを阻止する。本物とクローンは、サクソフォンの競演までしてみせる。ブッシュ前大統領も登場し、クリントンの演奏を聴きながら「うちの息子のほうがうまいよ」と隣客に話しかける。また、以下はクリントン大統領とヒラリー夫人との会話である。「日本の代表団との会話は面白かったよ」と大統領。「どうだったの?」と夫人が問う。「寿司は好きかと訊かれたから、スージー(女性の名前)なら好きだと答えたんだ」。妻に睨みつけられて、「大丈夫、もう不倫はしないよ」と、大統領が頭を垂れる。クリントン時代には、日米経済摩擦がまだ争点だったし、不倫はほとんど流行語であった。ニールセンの映画はいつも、大統領の権威を明るく笑い飛ばしている。
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クリントン以外の実在の大統領が次々に登場する作品としては、『フォレスト・ガンプ』がある。

1994年のアカデミー最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞などを受賞している。トム・ハンクス演じる主人公は、知的障害のある善良な青年である。彼は俊足で卓球でも優れた才能を発揮し、またベトナム戦争に従事して大活躍する。そのため、ガンプはケネディ大統領やニクソン大統領に面会の機会を得るし、歌手のジョン・レノンとも共演する。CGを駆使して、これら実在の人物とガンプの姿が重ね合されている。この手法ならフィクションであることは明らかだから、『コンタクト』のような抗議は招かない(ただし、コストは膨大になった)。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズを手がけたゼメキス監督らしいノスタルジックな作品だが、1950年代から80年代にかけてのアメリカ社会を描きながら、この映画には黒人があまり登場しない。
逆に、同時期を黒人の視点から描いたのが、『大統領の執事の涙』である。また、『フォレスト・ガンプ』は60年代以降の対抗文化(カウンター・カルチャー)に批判的で、ガンプを捨てて都会に走ったヒロインは、やがてエイズに罹って戻ってくる。ハリウッド映画の中でも、保守とリベラルとの文化戦争が続いていた。