じじぃの「科学・芸術_754_白血病・WT1をがん治療に」

羽鳥慎一モーニングショー 「血液がんの治療に光明をもたらしたキラーT細胞とは」

2019年2月14日 テレビ朝日
【司会】羽鳥慎一宇賀なつみ 【コメンテーター】玉川徹、高木美保
●そもそも急性骨髄性白血病をiPS細胞を使って治療するってどういうこと?
急性骨髄白血病に有効な治療法として、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の河本宏教授を取材した。
iPS細胞を使った免疫治療について玉川徹がスタジオ解説。
河本教授が注目したのは獲得免疫細胞のひとつである「T細胞」というもの。
T細胞には、攻撃指令を出す「ヘルパーT細胞」、その攻撃が過剰にならないよう制御する「制御性T細胞」、感染細胞やがん細胞などにとりついて排除する「キラーT細胞」の3つがある。河本教授は、この3つ目のキラーT細胞を使ったがん治療法を研究している。
キラーT細胞を使った治療法は今後続々登場する可能性が高い。がんを攻撃する細胞を増やす必要があるため。また白血病細胞の「WT1」抗原を利用し、「WT1」抗原を見分けるキラーT細胞をストックするという治療法の先には抗がん剤の良いところも利用しつつ再発を少なくする見通しも。
免疫の暴走で免疫疾患に陥るが、制御性のT細胞を使うことでアレルギー疾患なども抑えられるのではないかと考えられている。
河本教授、「まだ大規模な実験に3~4年程度かかり、そのうえで臨床試験の申請をすることになる。早ければ4年後ぐらいを目指しているが、詳しいことは今後の状況を見なければ分からない」
https://www.tv-asahi.co.jp/m-show/contents/detail/0377/

『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』

岸本忠三、中嶋彰/著 ブルーバックス 2016年発行

成人T細胞白血病との戦いの物語 より

米国で始まったがん抗原発見競争の熱気は、やがて日本にも及んだ。大阪大学教授の杉山治夫もまた、がん抗原の魅力にとりつかれ、従来の研究テーマだった免疫遺伝子の再編成から離れ、がんワクチンの研究を開始した一人だった。
杉山の研究成果を最初に語っておこう。それは「WT1」というたんぱく質が、世界でトップクラスのがん抗原であることを突き止め、白血病の検査薬として確立したことだ。日本の医療現場でがんワクチンの効用が希薄なものにとどまっている中では、屈指の成果である。
白血病の患者から採取した検体に、ウィルス腫瘍遺伝子が異様に多く表われていることを杉山がわが目で見たのは、1990年代初期のことだったろうか。ウィルス腫瘍とは商事がかかる腎臓がんの1つで、WT1と名づけられた遺伝子が変異して起きる。

杉山はこの遺伝子が発現してできるWT1たんぱく質を、白血病細胞の表面で大量に発見したのだ。

このとき、杉山は直感的に「これほど多くあるのなら白血病腫瘍マーカー(目印)に使えると思ったのだという。
研究を重ねた杉山は、急性骨髄性白血病急性リンパ性白血病、慢性骨髄白血病など、ほとんどすべての白血病細胞にWT1が高頻度で現われていることを突きとめ、1994年、血液分野の論文誌『ブラッド』に論文を発表した。タイトルは、「急性白血病の検出のための新しいマーカーWT1」である。
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白血病の治療で、杉山の検査方法は大きな効果を発揮した。ここに白血病にかかった人がいて、抗がん剤による治療を受けたとしよう。治療が効果を発揮し症状が好転したら、やがて医師はこう告げるだろう。「よかったですね。寛解状態になりましたよ」と。
だが、楽観は禁物だ。抗がん剤の投与によって、当初、患者の体内にあった膨大な数の白血病細胞は急速に減っていく。しかし杉山によると、たとえ寛解にいたったとしても、体内にはなお少なからぬ白血病細胞が残っている、という。
従来は容態が好転したように見えるとき、医師はカンと経験を動員して「もう少しこれまでの治療を継続したほうがいい」だとか「もう治療をやめてもいい」などと判断していた。しかし、そうしたやり方は、実は裏づけに乏しいものだったのだ。
それに比べて、杉山の開発した方法は科学的で実践的だった。患者の体内に残っている白血病細胞がどれほどあるのかを定量的に把握し、治療の継続・中止を判断できる的確なデータを現場の医師に提供できたからだ。
杉山の研究成果には製薬会社大手の大塚製薬が注目した。急性骨髄性白血病の検査薬として厚生労働省に製造承認を申請し、2006年に異例の速さで認められた。翌年には医療保険も適用された。現在では「白血病を治療するために不可欠で、特に病気の再発を早期に診断するのに最適」との評価が固まり、海外にも利用が広がりつつある。