じじぃの「科学・芸術_702_トッド『最後の転落』」

【紹介】グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命朝日新書エマニュエル・トッド 動画 YouTube
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ソ連の崩壊

最後の転落 -〔ソ連崩壊のシナリオ〕 エマニュエル・トッド(著) 2013/1 amazon
ソ連の崩壊、アメリカの金融破綻を預言したE・トッドの処女作の完訳!
'76年弱冠25歳にしてソ連の崩壊を、乳児死亡率の異常な増加に着目し、歴史人口学の手法を駆使して預言した書。本書は、'90年、ソ連崩壊1年前に新しく序文を附し、新版として刊行された書の完訳である。“なぜ、ソ連は崩壊したのか"という分析シナリオが明確に示されている名著の日本語訳決定版!

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文藝春秋 2015年10月号
幻想の大国を恐れるな 歴史人口学者 エマニュエル・トッド より
次に、現在の中国が抱えている大きな問題点を見ていきましょう。まず1つは、私の専門分野である人口の問題です。中国では現在、猛スピードで少子高齢化が進んでいます。まだ国家全体が豊かになっていないために、年金をはじめとする社会保障制度の整備もできないまま、高齢化を迎えてしまった。これが近い将来、社会不安を増大させることは間違いありません。
それに加えて、中国では、男女の出生数に著しい差があります。国連の統計によれば、中国では女子の出生を100とすると、男子の出生は117。世界の平均は女子の出生100に対して男子の出生は105か106。107を超えると不均衡とみなされますから、この数字がいかに歪かということがよくわかります。
これだけ男女の差が生じているのは、女子を妊娠したことがわかると選択的に堕胎を行なっているか、出生しても当局に申告していないのか、どちらかの理由が考えられます。
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私は、人口学的見地からソビエトの崩壊を予想して以来、「予言者」のように言われることがありますそんな人生を望んでいませんでしたが、多岐にわたる問題について、人口学的、家族構造的、社会学的な観点から20年先を「予言」することを結果としてしばしば求められてきました。しかし、現時点で中国の今後に関して確定的なことは何も言えません。数えきれないほどのシナリオが考えられるからです。ただひとつ断言できるとすれば、最良のシナリオだけは想像ができないということです。最良のシナリオとは、安定成長を持続し、国内消費が増え、権力は安定し、腐敗も減っていく――こういう素晴らしい未来だけは考えられないのです。したがって、中国の未来の姿は、この最良のシナリオを除外して、それに次いで良いシナリオとカタストロフィーのシナリオの間にある。逆に言えば、カタストロフィーも考えられるということです。
ですから我々は、中国が抱える矛盾について、今まで以上に関心を払う必要があります。

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『本当にわかる現代思想 フシギなくらい見えてくる!』 岡本裕一朗/著 日本実業出版社 2012年発行
エマニュエル・トッド(1951 -) 「識字化」と「出生率」で民主化を予言 より
エマニュエル・トッドは、フランスの歴史人口学・家族人類学の専門家である。『アデン・アラビア』を書いたポール・二ザンの孫だそうだ。トッドが世界的に有名になったのは、彼の予言力による。最初の予言は、若干25歳のときに、つまり1976年にソ連の崩壊を予言したものだ。また。2002年には、アメリカ「帝国」の衰退を予言し、さらには2008年には「イスラム民主化」を予言している。彼の予言がどうして重要かといえば、当時の状況下では、トッドとはまったく反対の議論が主流をなしていたからだ。
たとえば、トッドがアメリカ「帝国」の衰退を予言したのは、9.11同時多発テロの1年後だったが、そのころ一般のメディアでは、アメリカの強大さばかりが強調されていた。ネグリとハートの『帝国』が話題を呼び、アメリカの一国中心主義が目立っていた。ところが、トッドはアメリカ「帝国」が絶頂期にあるように見えるとき、その崩壊を予言したのである。
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トッドはどのようにして、歴史的な予言を行なうことができたのだろうか。トッドによれば、歴史的な変化を引き起こす重要なファクターは、「識字化」と「出生率」である。「識字化」についていえば、「読み書きの習得、基本的計算の習得」は経済的な発展と政治的な民主化を生み出す。また、「識字化」が進むことによって、受胎調整が始まり、出生率が低下する。トッドによれば、「識字化=革命=出産率低下というシークエンスは、全世界に普遍的とは言えないまでも、かなり標準的である」。
トッドは、こうした観点から、ソ連の崩壊や現在のイスラム革命について、鮮やかに預言したのである。