【1950年~2100年】世界の高齢化率(65歳以上人口)
文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド 著
本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ
Ⅰ 老人支配と日本の危機
1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ
『老人支配国家 日本の危機』
エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ より
私は意に反して「予言者」としてしばしば評されてきましたが、今の世界を見ていて強く感じるのは、将来を安易に予測するよりも、時代の不確かさに耐えること、行動する前に従来の常識や方針もゼロから疑うことが求められている、ということです。
中国の急速な少子化
米中の対立が今後も長く続き、世界の2極化が進むだろう、という点で、多くの識者と私も同じ意見です。その上で、まず人口学者として断言できるのは、中国が米国を凌(しの)ぐ大国となり、世界の覇権を握るようなことはあり得ない、ということです。
10年に一度の中国の国勢調査が今年(2021年)5月に公表されました。1ヵ月ほど公表が遅れ、データを改竄(かいざん)するためではないか、と疑われましたが、発表された2020年の合計特殊出生率は1.3人という衝撃的な数値でした。いつからこんなに低い出生率だぅたのか、しっかり検証する必要があります。
女性1人あたりの出生率は2.0に近い水準でなければ、その社会は現状の人口規模を維持できず、数十年後に多大な影響を影響を被ります。1.3人ということは、少子高齢化が急速に進むことを意味し、中国の人口規模からして人口減少を他国からの移民で補うことも原理的に不可能です。
さらに懸念されるのは、出生児の男女比です。106人(男子)対100人(女子)が通常値であるのに、今日の中国では、118人(男子)対100人(女子)という異常値を示しています。出生前の性別判断が技術的に可能になり、女子の選択的堕胎が行なわれれいるからで、必ず将来の人口規模に大きな歪みをもたらします。
こうした点から、中国の将来を楽観視する人口学者など1人もいないのです。
しかし、さらなる問題は、こうした統計すら、どこまで信頼できるか信頼できるかわからないことです。中国当局発表の統計データは、その信憑性が常に疑われているからです。
「経済統計は嘘をつくが、人口統計は嘘をつかない」が、人口学者としての私の研究の出発点です。1976年に「今後、10年、20年、もしくは30年以内にソ連は崩壊する」と断じたのも、2016年にトランプ当選の可能性を強調したのも、それぞれ「人口統計」(ソ連崩壊は乳幼児死亡率の上昇、トランプ当選は中年白人人口の死亡率の上昇)に基づく判断でした。人口統計は、日々のニュースが伝える政治の動きや経済統計以上に、社会の根底にある動きを捉えているからです。しかし、その人口統計自体が信頼できないというのは、研究者として初めて直面する事態です。
「直系家族病」としての少子化
しかし、日本には、それ以上(日本の核武装)に、自国の存亡に直結する問題があります。「人口減少」と「少子化」です。国家が思い切って積極的な少子化対策を打つこと、「日本人になりたい外国人」を移民として受け入れることこそ、安全保障政策以上の最優先課題なのです。
・
日本の「少子化」は「直系家族の病」と言えます。日本の強みは、「直系家族」が重視する「世代間継承」「技術・資本の蓄積」「教育水準の高さ」「勤勉さ」「社会的規律」にありますが、そうした「完璧さ」は、日本の長所であるとともに短所に反転することがあり、今の日本はまさにそうした状況にあるのではないでしょうか。
移民を受け入れない日本人は「排外的」だと言われますが、私が見るところ、そうではなく、仲間同士で摩擦を起こさずに暮らすのが快適で、そうした”完璧な”状況を壊したくないだけなのでしょう。しかし出生率を上げると同時に移民を受け入れるには、”不完全さ”や”無秩序”をある程度、受け入れる必要があります。子供を持つこと、移民を受け入れることは、ある程度の”不完全さ”や”無秩序”を受け入れることだからです。