じじぃの「科学・芸術_641_土壌微生物・リン肥料」

Why do we need phosphorus? 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5NGNmnY5nSs
   リン (phosphorus

『土と内臓 (微生物がつくる世界)』 デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー/著、片岡夏実/訳 築地書館 2016年発行
ヒトの消化管をひっくり返すと植物の根と同じ働き より
すでに多くの農家が、ある種の根粒菌の培養株を種子にコーティングしたり、植え付けの際に畑に噴霧したりと作物に応用し、栄養の取り組み量を増やして収穫を引き上げている。過去数十年の研究は、さまざまな種類の有益細菌を導入すると、3大穀物――コムギ、トウモロコシ、コメ――をはじめ、オオムギ、キャノーラ、ソルガム、ジャガイモ、ピーナッツ、各種の野菜(レタス、トマト、トウガラシ、マメ錐)、果樹(リンゴ、柑橘類)などの成長と収量を著しく向上させされることを明らかにしている。こうした研究の中で、コムギの野外試験では10から43パーセントの収量増が報告されている。温室栽培と露地栽培のトウモロコシ(Zea mays)を使った実験では、リン可溶化能力が持つ細菌や、その他の植物成長株を種子にすると、接種していない植物に比べて、収量が64から85パーセントも増加することが示された。2009年のトウモロコシによる研究では、植物生長促進細菌は、収量を減らさずにリン酸肥料の使用を半分に減らすことができると報告されている。別の研究では、バキルスの菌株をコムギに追加接種して、燐灰土だけを施肥したものより最大35パーセント収穫を増加させた。生物肥料は、収穫量をすぐに増やすための数少ない手段の1つとなる。
細菌接種の営利事業化は、根圏生態学への理解の不足に阻まれてきた。だが、リンの取り込み量を増やすことが、細菌摂取によって作物の生長が促進される1つの理由であることはあきらかだ。世界中の耕作地の半分近くで、作物の生長の限界を決めているのは、利用可能なリンの量だ。リンはもっとも希少な微量栄養素であり、作物の生長を制限する要素としては、窒素に次いで2番目になるものだ。世界のリン埋蔵量のほとんどは、リン酸塩が豊富な特定の種類の岩と、比較的まれな鉱物に含まれている。土壌中でリンは、カルシウム、鉄、アルミニウムなどとすぐに結びついて不溶性の化合物を形作るので、植物は利用できない。しかしある種の細菌は、固定されたリンを遊離させて、植物が吸収できる水溶性の形に変えることができる。
微生物は、もう1つの供給源――有機物――から植物がリンを吸収するのも助ける。動植物の遺骸は通常、土壌中にあるすべてのリンの半分、時には95パーセントをも占める。土壌有機物を分解する微生物は、リンなどの鉱物由来の元素を放出して生物循環へと戻す。根圏にはたいていリンを可溶化できる細菌が、土壌全般よりもはるかに高い密度で含まれているが、これは不思議でも何でもない。リン可溶化細菌は滲出液に群がり、糖と交換にリンを渡しているのだ。
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ある推定によれば、地球上にある植物が利用できる土壌リン資源は2050年までに使い果たされてしまう。収穫量の増加が止まり、人口は増え続ける世界では、微生物の接種によってリンを遊離させ、作物の生長を促進することが、飢えたあすの世界に食料を与えるためにきわめて重要であるかもしれない。たとえばキューバでは、ソ連が崩壊し化石燃料の供給が大幅に縮小したときから、生物肥料の商業生産が始まった。その経験に学ぶことは、未来のために大きな意味があるだろう。世界の農地土壌に固定されたリンの蓄積量は、1世紀のあいだ農業生産を支えるのに十分だと推定されているからだ――少なくともそれを植物が利用できれば。
微生物は、私たち自身の排泄物からリンを掘り出すのにも役立つ。リンの量が限られており、世界の人口が増えていることを考えれば、早晩やらなければならなくなることだ。