じじぃの「科学・芸術_518_植物の根と微生物」

ヤマカワプログラム講演21 2017/11 2/4根面と根圏 窒素同化 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=zrexyMVnSiI
植物の根と微生物

謎いっぱいの地底世界「根圏」 北大第一農場
また病気に関係する菌はよく調べられていますが、役に立つ菌は、これまであまり研究の光があたってきませんでした。大量の化学肥料を撒けば、微生物の力を借りなくても、植物は養分を取り込むことができるからです。
さらに根は、土や微生物に対して、フラボノイドのような様々な化合物を出しています。その数200種類ぐらいと言われていますが、どのような物質なのかわかっているのは、ごく一部にしかすぎません。
こうした微生物と根との物質がやり取りされるのは、根からわずか0.1〜1mmの範囲の領域で、この領域のことを「根圏」といいます。根圏は、様々な謎に満ち溢れている地底世界なのです。
植物の根が分泌する化合物の他に、人間が古くなった皮膚細胞をアカにして捨てるように、根はそのまわりに、不要になった細胞を脱落させます。その量は合わせて光合成で養分に代えた炭素の量の10%から40%にもなるともいわれており、微生物にとっては、願ってもない食環境になっています。しかし、根が水分や養分を取り込むので、それらが不足しがちな領域でもあります。そんな環境の中で、植物の根と微生物たちは、共存したり、敵対したりしながら、一生懸命生きているのです。
http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20070321
『土と内臓 (微生物がつくる世界)』 デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー/著、片岡夏実/訳 築地書館 2016年発行
地下の協力者の複雑なはたらき より
20世紀の初頭、また一人ドイツ人科学者が、植物研究の世界に名を響かせた。農学者で植物病理学のローレンツヒルトナーは、植物の抵抗力に関するいくつかの重要な――だが長く無視されていた――発見をした。1902年、ヒルトナーはミュンヘンに創設されたバイエルン農業植物研究所(ドイツ南東部の支援を主な目的としていた)の初代所長に就任した。イギリス人農学者サー・アウルバート・ハワードのように、ヒルトナーは圃場試験を根気強く行い、微生物個体群が植物の健康に及ぼす影響を明らかにした。ヒルトナーは、自分の研究が一般の人々にも役に立ち、利用できると強く感じて、園芸家や農家(つまり当時のバイエルン授民ほとんど全員)向けに冊子を書いて配布することまでした。
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土壌の炭素の量は微生物の数に大きく左右される。植物は炭素を、炭水化物の豊富な滲出液の形で根圏に流しこみ、ほとんど尽きることのない食欲を持つ有益微生物に餌を与える。微生物にとっては、まるで誰かが作物を育てて収穫し料理を作って運ぶところまで、すっかりお膳立てをしてくれるようなものだ。それは植物には、いともたやすいことだ。何しろ大気から直接炭素を取り入れて、光合成で炭水化物を一から作れるのだから。地下経済のために紙幣を印刷するようなものだ。
滲出液に含まれるのは炭水化物だけではない。そこにはあらゆる栄養が混ざっている。根圏の微生物は滲出液に含まれるアミノ酸、ビタミン、フィトケミカルをもごちそうになる。人間もフィトケミカルを食べている。植物には特有の色や味をつける分子がある。たとえばナスの皮の紫色や芽キャベツなどアブラナ科植物のぴりっとした風味のように。もっともよく研究されている植物の1つ、タバコは、2500種を超えるフィトケミカルを作りだす。
植物が根から滲出液を放出すると、細菌や菌類が根圏に群がる。地下の食堂のメニューに滲出液だけにとどまらない。根は成長するにつれて粘液を放出し、死んだ細胞を落とす。根圏の微生物にとって、これらもやはりすぐ食べられる炭水化物だ。
初めのうち科学者は、滲出液は根から消極的に漏れだしてくるのだと考えていた。ところが根の表面の細胞をさらにくわしく調べると、ほかの細胞より多くのミトコンドリア、細胞内膜構造、小胞が詰まった、いわゆる境界細胞がみつかった。こうした余剰の細胞器官は、境界細胞が滲出液を作り、根から根圏へ押し出すのを助けていることがわかった。言い換えれば、根の細胞は資源をだらだら垂れ流しているわけではないのだ。生き残るために必要なものを手に入れる上で、植物も動物と同様それなりに抜け目なく戦略的なのだ。
植物が栄養豊富な滲出液を土壌に放出していることを発見して、土壌科学者は驚嘆した。ある調査では、植物が光合成した炭水化物の30から40パーセントを、根滲出液が占めることがわかったのだ! それはまるで、脳かが収穫の3分の1ほどを畑の端に置いて、道行く人に持っていかせるようなものだ。なぜ植物はこんなに気前がいいのだろう?
気前がいいわけではない。植物は自分では作れないもの、できないことと滲出液を交換しているのだ。腹を減らした微生物が頼りにする炭素固定は、決してただではないのだ。
微生物を糖などの物質でおびき寄せるというと、無駄なように聞こえるかもしれないが、それは植物界の防衛戦略の中心だ。