じじぃの「科学・芸術_562_O・ヘンリー・『警官と賛美歌』」

Charles Laughton & Marilyn Monroe - 'The Cop and the Anthem' ('Full House') 動画 YouTube
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O・ヘンリー 警官と賛美歌

警官と賛美歌 第4幕 NHKラジオで学ぶ英会話 Get The Dream
今週のラジオ英会話は、ずっとラジオ英語ドラマです。
オー・ヘンリーの警官と賛美歌 今日は第4幕です。
https://get-the-dream.com/2017-072702
『生きるための101冊』 鎌田慧/著 岩波ジュニア新書 1998年発行
『警官と賛美歌』 新潮文庫  O・ヘンリー より
アメリカのモーパッサン」と呼ばれているO・ヘンリーもまた、日本ではよく読まれている小説家である。とりわけ、『最後の一葉』は、知らないひとがいないほどによく知られている。一編の小説が、ひとびとに人生のやさしさと生きていく希望をあたえうるということを、O・ヘンリーの短編が示している。
『警官と賛美歌』も、映画化されたこともあって、よく知られている作品である。これは落語のような語り口であり、ホラ話口調にも似ている。モーパッサンの落ちはどこかペシミスティック(厭世的)だが、O・ヘンリーには、庶民の哀感がより深くにじんでいる。しかし、刑務所に希望を託す小説を書くなど、刑務所に3年3ヵ月もいれられていた著者の強靭な神経を示す。苦い想いがユーモアに味わい感をつけていたのは想像に難くない。
この小説は、主人公の動きを時間的な経過のままに追っていて、小説のプロットづくりとしては、もっともシンプルなものである。
「マディソン・スクエアのいつものベンチで、ソーピーは、もぞもぞと身体を動かしていた。雁が夜かん高い声で鳴き、あざらしの香川のオーバーをもたぬ女たちが亭主にやさしくなり、そしてソーピーが公園のベンチでもぞもぞ身体を動かすと、もう冬も間近いことがわかるだろう。」書き出しで、主人公のソーピーが、ホームレスであることが紹介される。
「1枚の枯れ葉がソーピーの膝におちてきた。それはジャック・フロスト氏(訳注=霜の意)の名刺である。ジャックはマディソン・スクエアの常連たちに親切で、毎年ここを訪れるときには、ちゃんと予告してくれるのである。四つ辻の角のところで、彼は「青空壮」の玄関番である北風氏に名刺をわたす。おかげで屋敷の住民たちも冬支度ができるのである。」
一転して、擬人法に変わり、秋が深まってきたことを伝える。ソーピーにとって、越冬対策が緊急のテーマになる。その方法として刑務所にはいる道を実践する。「法律のほうが、博愛よりも、ずっと親切だった」。刑務所で悲惨をなめた、著者の皮肉がこの小説の隠し味だ。
刑務所志願のソーピーは、無銭飲食など、考えつくだけの軽犯罪を冒すのだが、警官はとりあってくれない。題名に「賛美歌」がつけられているのは、静かな月夜の晩、教会の前を通りかかったソーピーは、なかからもれてくるオルガンの音色をきいて、もう一度やり直そうとの決意をうながされたものだったからだ。
ところが、それを決意した瞬間、彼はなにもしていないのに逮捕される。人生は皮肉である。O・ヘンリーは警官ばかりか賛美歌も信用していなかったようだ。