じじぃの「科学・芸術_227_オランダ人気質」

自転車王国オランダ 動画 YouTube
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1000ギルダー紙幣 スピノザ

スピノザ 人と思想58』 工藤喜作/著 清水書院 1980年発行
【表紙より】
17世紀のヨーロッパにおいて最も繁栄し、信仰において最も自由で、寛容な国とみなされたオランダ。スピノザはこのオランダにユダヤ人として生まれたが、聖書研究によってユダヤ教が批判的となり、ついには教団から破門される。その後、いかなる教会・宗派にも親しまず、自由な哲学者として独自の道を歩む。
無神論者と烙印をおされた彼は、なるほど伝統的な神の概念を否定したけれども、決して神の存在を否定したわけではない。彼にとって問題なのは、純粋な哲学の立場で理性の批判に耐えうる神の概念を確立することであった。すなわち、この世界で人間の自由がいかに達成されるかが彼の哲学の根本問題であったのである。人間の自由、それは社会的には言論・思想の自由、市民の自由であり、哲学的には人間の救済を意味した。彼はこれを主著『エチカ』で達成しようとした。
この時代に、自由を哲学的思索の全面に展開し、倫理・宗教的深みに達したのは彼のみである。

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『オランダ人のまっかなホント』 ロドニー・ボルト/著、玉木亨/訳 マクミランランゲージハウス 1999年発行
カルヴィン強し より
オランダにはプロテスタントの価値観がしっかり根づいているので、人口の35パーセントがローマ・カトリック教徒だと聞くと、たいていの人は驚く。伝統的にカトリック教徒が多いのは南東部で、それ以外の地方では(すべての大都市をふくめて)プロテスタントが主流だ。だが、カルヴィン主義が何百年もがっちりと支配してきたこの地においては、ローマ・カトリック教会といえども、プロテスタント影響を免れることはできない。その結果、オランダではカトリック教徒までもが、よきピューリタンとおなじように勤勉と質素な生活を好む傾向を見せている。
昔からオランダでは、カトリック教徒は大目に見られていた。(寛容の精神だ。)だが、礼拝はふつうの民家を真似て建てられた教会で、扉を閉じたまま、ひっそりとおこなわれなければならなかった。カトリックの学校やテレビ局が存在するいまでも、彼らが強大なプロテスタントの陰に隠れて生きているという印象は、あまり変わっていない。とはいえ、目立たないからといって、彼らはけっしておとなしくしているわけではない。オランダのカトリック教徒は、離婚と堕胎と神父の結婚を認めるよう求めて分派を結成し、ローマ教皇庁も震撼させたりしている。
安息日は、オランダ人があまり罪の意識を感じずに仕事を休める日だ。おおかたの人は、テニスをしたり、サッカーの試合を見たり、犬を散歩させたりして過ごす。だが、田舎では、村人全員が連れだって教会へとくりだす。ふたりづつ腕を組み、帽子をかぶり、地味な安息日の晴れ着をきて、自転車に乗ったり芝を刈ったりしている不届きものに、相手が縮みあがるようなまなざしをむけるのである。
軍配はいつも自転車に より
オランダには、自転車が1,300万台もある。(なんと、国民ひとりにつき、ほぼ1台!)街なかをいけば、若者、老婆、学生、会社の重役がところ狭しと自転車で走りまわっているし、田園地帯に自転車でくりだす人の数も、そうとうなものだ。(とくに、祝日にあたる自転車の日ともなると、すさまじい。)議会は専用の自転車修理人を住み込みで雇っているし、ある大学には自転車学の教授までいる。
オランダの自転車は黒くてがっしりしており、こぐには上体を起こして懇願するような恰好になる。(おねだりする犬を想像してもらいたい。)オランダでよしとされているのは、ツール・土・フランスよりミス・マーブル向けに作られた自転車だ。それゆえ、フレームは鋳鉄をつかっているのかと思われるほど頑丈で、それこそありとあらゆる付属品がくっついている。そのなかで。唯一、絶対に使用されない付属品がある(そもそも、ついていればの話だが)――フロントライトだ。だが、たとえフロントライトがなくても、それが問題となることはない。なぜなら、オランダの公道における原則は、たとえ真夜中に無灯火で一方通行を逆に走っていようとも、つねに自転車のほうが正しい、というものだからだ。自転車のドライバーはその点をよく心得ており、じゅうぶんに用心して運転している。
オランダ人は、自転車を単なる移動手段というより、身体の一部と考えている。したがって、サドルの上でも、地面に足をつけているときとおなじようにふるまう。恋人たちは手をつなぎながらハンドルを操作するし、雨の日には傘をさしてペダルをこぐ人の姿が見られる。犬の散歩は、はしゃいだ犬が紐の先で軽やかに走るのを横目に、自転車でおこなわれる。
自転車に乗っていて赤信号を守ろうとするオランダ人は、ひとりもいない。(それをいうなら、ほかの交通標識も。)誰もが、自分は適用外、と考えているのだ。だが、実際には、オランダの厳格な飲酒運転法では、自転車に乗っている人は歩行者ではなく、自動車のドライバーとおなじとみなされる。その結果、自転車の飲酒運転で告発された場合、運転免許証をとりあげられる可能性もある。