じじぃの「歴史・思想_299_現代ドイツ・ドイツの宗教比率」

The Rise of Germany’s Far Right

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other (無宗教37.7%)

『現代ドイツを知るための67章【第3版】』

浜本隆志、高橋憲/編著 明石書店 2020年発行

キリスト教の世俗化とイスラームの敬虔化――相反するベクトル より

かつてのキリスト教国ドイツは、南北でカトリックプロテスタントがシェアを半分ずつ分かち合っていた。ところが近年、無宗教がどんどん増え、2017年では人口の37%を占めるようになってきた。人数でいえば3061万人となり、一昔前にはとても考えられない状況である。これには若者が多く含まれ、根底にはキリスト教の教会税が深くかかわっている。
教会税は長い歴史を有し、教会運営などの財政基盤を支えてきた。誕生の際、洗礼を受けてキリスト教徒になったり、住民登録の際にキリスト教と書いたりすれば、納税の義務が生じる。昔は、教会離脱をすれば無宗教、すなわち無神論者とみなされ、白眼視されたり、教会の基地に埋葬を許可してもらえなかったりして、肩身の狭い思いがしたのは事実であった。
しかしこれだけ圧倒的な無宗教の数を前にして、かつての状況は大きく変化し、世間では無宗教をあまり問題にしない風潮が生まれてきた。また現代では市営墓地があり、教会抜きでの葬式も容易になった。こうなると、もはや若者は教会税を払わず、出費を節約するために脱会するのは自然の摂理である。無宗教は都市部だけでなく、宗教教育をしてこなかった旧東ドイツ地域でも多い。
もちろん教会税は現在でも存続し、州の税務署が徴収し、教会に配分している。
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ただし無宗教といっても、教会税を払いたくないというのが最大の理由であるので、すべての人びとが無神論者というわけでない。敬虔とはいえないが、一応信者であるけれども、無宗教に分類されている事例も一定数存在している。クリスマスには教会税を払っていない者もミサに来るので、教会税を払っている信者は、それを排除しようという動きすらある。いずれにしても宗教に対する地殻変動が起きていることは明らかだ。その結果、教会の運営がますますきびしくなり、財政難に陥った教会の「身売り」のニュースもよく報道される。
歴史的にはドイツを二分し、宗教戦争を引き起こしてきたカトリックプロテスタントは、カトリックが2018年では2330万人(人口比27.7%)で、プロテスタントは2114万人(同25.5%)である。比率は拮抗しているが、絶対数はずいぶん低下してきた。いうまでもなく、キリスト教はドイツ文化の基底であり、国民のメンタリティを形成していることに変わりはない。しかし移民の受け入れやグローバル化によって、その内実はかなり変化が見られる。
さて2018年現在、ドイツのイスラームは約425.5万人で、内訳はトルコ出身者がもっとも多く、続いてバルカン半島、トルコ以外の中近東、北アフリカ地域出身者となっている。さらにイスラームに宗派のうち、スンニ派が多数を占める。かれらはドイツ社会のなかでイスラームに目覚め、宗教にアイデンティティを見出す傾向が見られる。アンケート結果では、3分の1は敬虔でたいへん熱心な信者である。これはキリスト教から無宗教への離脱現象と対照をなし、ドイツ移民のイスラーム回帰の特徴を示す。すなわち宗教心からみれば、相反するベクトルになっている。
かつてイスラーム信者は目立たぬところで礼拝していたが、近年では大規模なモスクの建設が進み、それによってイスラームの可視化が顕著になってきた。モスク建設をめぐるトラブルは、ケルン、ベルリン、ミュンヘンなど大都市各地で生じている。たいていは建設をめぐり、行政当局は建設を許可するが、地元住民がそれに反対し、紛争になるという経緯をたどる。
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今のところドイツでは小康状態を保っているが、過去の歴史はいうまでもなく、現代でもイスラーム原理主義のテロは各地で発生している。2013年に結党された「ドイツのための選択肢」は反移民の傾向をもち、極右政党といわれることがあるが、移民をこころよく思っていない人びとの支持を得ている。宗教と移民問題が結びつくと、いつ暴走するかもしれないので、相手の価値観を容認する文化的・宗教的相対主義や寛容の精神が21世紀でも問われているのである。