China Out for World Domination? I ARTE Documentary
中国の夢
『ニューズウィーク日本版』
2020年9.1号
中国との「離縁」で損するのは誰か より
【執筆者】ミンシン・ペイ(Minxin Pei)
親密な関係の解消を「デカップリング」と呼ぶ。現在の米中両国の地政学的バトルを形容するにふさわしい言葉だが、トランプ米大統領と政権内の強硬派は一歩進めて、この戦略で中国パワーをそぐつもりらしい。
デカップリングの始まりは一昨年来の貿易戦争だ。これで両国間の貿易は大幅に縮小した。今は情報通信技術が主戦場で、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)などの中国企業を次々に排除しようとしている。アメリカ市場に上場する中国企業に対し、過去の監査記録を開示しなければ上場を廃止するとの意向も示しており、金融のデカップリングも始まっている。
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ジャーナリズムも断ち切られた。今年2月、米紙ウォールストリート・ジャーナルが中国は「アジアの病人」だとする論評を載せると、中国は同紙の特派員3人を国外追放した。するとアメリカは米国内にいる中国メディアの従業員60人に国外退去を命令。対抗措置として、中国も米主要3紙の米国人職員のほぼ全員を追放し、これら3紙の中国における取材活動を事実上不可能にした。
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米紙特派員3人の追放に対し、60人の中国人ジャーナリストを国外追放したのは過剰反応だった。厄介なアメリカ人記者を追放する絶好の口実を、中国側に与えることになったからだ。中国内で取材する有能なアメリカ人ジャーナリストがいなくなれば、アメリカの政治家は中国の内情を探りにくくなるはずだ。
それだけではない。科学技術系の中国人学生がアメリカで博士号を目指す道を閉ざされたら、彼らはアメリカ以外の先進諸国で研鑽を積み、その後はおそらく母国に戻って働くことになるだろう。
今までは、アメリカで博士号を取得した中国人学生の約90%は、少なくとも10年間はアメリカで働いていた。こんなに長くアメリカのために働いてくれる外国人留学生は、ほかにいないのだ。かくしてアメリカでは、せっかく育ててもらった頭脳の流出が起き、中国は育ててもらった頭脳の逆輸入で恩恵を受けることになる。
『コロナ後の世界』
大野和基/編 文春新書 2020年発行
独裁国家はパンデミックに強いのか 『執筆者』ジャレド・ダイアモンド
21世紀は中国の時代か? より
21世紀は中国の時代だという声も聞きますが、ありえません。中国は壊滅的なディスアドバンテージを抱えています。中国は4千年に及ぶ歴史のなかで、一度も民主主義国家になったことがないのです。
民主主義国家にも、もちろん弱みはあります。みんなで議論をするので、何かを決めるまでのスピードが遅いのもそうです。中国では政府が何かをすると決断すれば、すぐに実行できる。市民の議論を待つ必要がないからです。私が住んでいるロサンゼルスでは地下鉄の建設を15年前から計画していますが、中国ならあっという間に開通するでしょう。中国はたった1年でガソリンから鉛を除去しましたが、アメリカは同じことに10年以上かかっています。
新型コロナの封じ込めは、中国のような独裁国家が得意とするところだという指摘もあります。ただし、中国は新型コロナの発生当初、その情報を隠蔽しようとしました。前に指摘したように、これも独裁政権だからこそできたことです。
また、歴史上、いいことだけをした独裁者というのは存在しません。中国も例外ではないのです。
たとえば文化大革命。このとき中国は、教育システムを破壊しました。教授や教師を田畑に送って農作業をさせるという”名案”を思い付いたのです。日本の首相がどれだけ愚かでも教育システムをいきなりゼロにすることはできません。それは日本が民主主義国家だからです。
また大躍進政策では破壊的な経済的実験をして、一説には3500万人を餓死させました。日本の首相が3500万人を餓死させるような経済政策をとることは不可能です。