じじぃの「神話伝説_119_イシュタル(メソポタミア神話・女神)」

Sumerian Mythology and Human History 動画 YouTube
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Easter | Mother Goddess "ISHTAR" (originally pronounced "Easter") Goddess of Love and War 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=GUS3DL5pxZU
シュメール神話 イシュタル

イシュタル ウィキペディアWikipedia)より
イシュタル(新アッシリア語: DINGIR INANNA、音声転写: ishtar)は、古代メソポタミアメソポタミア神話において広く尊崇された性愛、戦、金星の女神。イシュタルは新アッシリア語名であり、シュメール神話におけるイナンナに相当する。

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ギルガメシュ叙事詩 矢島文夫/著 筑摩書房 1998年発行
イシュタルの冥界下り より
[エレシュキガルの]領域なる冥界にむけて
シンの娘イシュタルは彼女の心を[さだめた]
シンの娘イシュタルは、まさに[彼女の]心を[さだめた]
イルカル[ラ]の住まい、[暗黒の家]へ
解説 より
この神話はニップル出土のシュメール語版(イシュタルはここではイナンナという名で現れる)のほか、アッカド語のものが2つ知られており(ニネヴェ版とアッシュール版)、起源が古く、かなり広くに流布していたものと考えられる。この神話は、全世界的な豊饒の女神の信仰、そして植物の年ごとの再生という神話と関係をもっている。
女神イシュタルはシュメールのイナンナの系譜をひき、のちにフェニキアのアスタルテ、それからたぶんギリシャアフロディーテー、ローマのウェヌスになる愛と美の女神であるが、がんらいは豊饒の女神であり、大地母神の血をひくものであった。
イシュタルの弟、あるいは配偶者はタンムーズで、冥界の番人ともされる。これはシュメール神話のドゥズ、あるいはドゥムズ(より正確にはドゥム・ジ・アブズ、すなわち深淵の神エアの息子)のなまったものであり。生命を育てる役割をもつ神で、半年は下界にあり、半年は天界ですごすとされていた。アッシリアバビロニアに入ってタンムーズと呼ばれたこの神も同じ職能をもっており、半年間下界にあるあいだは地上の植物が繁茂し、動物が成長するが、彼が地下に姿を消すと(ここでは天界が地界になっている)すべてが止まり、人間の喜びは悲しみに変わった。そこで女たちは地上に坐り、髪をふりみだし、胸をたたいて涙を流し、タンムーズがふたたび地上に戻るようにお願いするのであった。
それはごく古い時代から、春の少しまえに行なわれる儀式としてオリエント一帯に広く知られていたにちがいない。『旧約聖書』の「エゼキエル書」(8・14)には「見よ、そこには女たちがすわってタンムーズのために泣いていた」という章句があり、その情景をしのばせてくれる。
ところがシュメールのタンムーズ神は地下に戻ったまま、ついに地上には帰らなかったのだという説が一時現れた。すなわちシュメールのタンムーズ神であるドゥムズは冥界に下ってからイナンナによって力ずくで引き留められてしまい、ついには蘇らなかったのだというのであって、クレーマーらの有力なシュメール学者によって唱えられた。しかしこの説は、当時シュメール語の「タンムーズ神話」が前半の部分しか見つかっていなかったために現れた説であって、それ自体が不自然なものであった。のちファルケンシュタインにより、書板の後半が発見され、本来の姿が浮かび上がって来た。従って、ここに紹介したアッシリア語版も、その起源を辿ればシュメール語版にさかのぼることはほとんど疑いをもちえないことのように思われる。
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冥界の描写は『ギルガメシュ叙事詩』にも記されており、とくに本神話の第4ー9行目は、『ギルガメシュ叙事詩』第7の書版第4欄(ニネヴェ版)第33ー39行目に対応しており、ギルガメシュが夢のなかで見た冥界の情景がこの部分からさらに14行ばかり続いて述べられている。
ついでながら、前述のタンムーズ神話はギリシャに入ってアドニス神話となった。アドニスはキュプロス王キニュラスと実の娘ミュラの不倫の子とされ、東方起源であることを暗示しているが、実はアドニスというのはセム語(ここではたぶんフェニキア語)で「わが主」を意味する「アドニ」あるいは「アドーナイ」がなまったもので、タンムーズを呼びかえすために女たちが涙を流しながら発した叫び声が伝わったものと思われる。ギリシャ神話によると、アフロディーテー(女神イシュタルに対応する)が美少年アドニスを愛したが、これをペルセフォネにあずけたことでのちに争いが起こり、結局、半年ずつともに暮らすことにしたという。ここにもタンムーズ神話の原型が認められる。なおアドニスはのちに森でイノシシに殺され、その血からアネモネが生じたとされるが、これはタンムーズ信仰の盛んだったレバノンで春さきにアネモネの赤い花が原一面に咲き乱れるところから現れた神話であろう。