じじぃの「人の生きざま_260_甲斐・知恵子」

甲斐知恵子 - あのひと検索 SPYSEE
http://spysee.jp/%E7%94%B2%E6%96%90%E7%9F%A5%E6%81%B5%E5%AD%90/1076684
感染症国際研究センター  東京大学医科学研究所
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/ggclink/
一般公開シンポジウム「エマージングウイルス感染症
http://157.82.98.20/imswww/event/symposium030808-j.htm
WHO 新種コロナウイルスで緊急委開催へ 2013年7月6日 NHKニュース
中東からヨーロッパにかけて感染が拡大している新種のコロナウイルスについて、WHO=世界保健機関は、来週、緊急委員会を開くことを決め、感染拡大の予防策などについて協議することにしています。
新種のウイルス「MERSコロナウイルス」は、2003年に感染が拡大した新型肺炎SARS」を引き起こしたのと同じコロナウイルスの一種で、中東やヨーロッパで感染が拡大しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130706/k10015849271000.html
『ビヨンド・エジソン 12人の博士が見つめる未来』 最相葉月/著 ポプラ社 2009年発行
ウイルス感染症のメカニズムに迫る (一部抜粋しています)
近年の地球環境の変化や人間の生活圏拡大によって、かって報告されたことのなかった新たな感染症が生まれている。1981年に発見されたエイズをはじめ、エボラ出血熱やラッサ熱、21世紀に入って中国で発生した新型肺炎SARS(サーズ)など、野生動物を宿主とする病原体が突如として人間社会に侵入する、人獣共通感染症だ。
世界保健機関(WHO)は96年、「かって知られていなかった、新しく認識された感染症で、局地的あるいは国際的に、公衆衛生上問題となる感染症」を新興感染症エマージングウイルス感染症)と定義づけ、その監視と対応を行う国内・国際間協力体制への支援を表明した。この新興感染症の大半を占めるのが、人間と動物の接触に起因する人獣共通感染症といわれている。
東京大学医科学研究所教授の甲斐知恵子は、90年にウイルスの研究を開始した。ちょうど、シベリアから北西ヨーロッパの海にかけて棲息するアザラシが犬のジステンパーに似た神経症状を示して大量死したことが報告され、野生動物の感染症に注目が集まっていた。その後、マレーシアやバングラデシュなどアジアで小規模な流行を繰り返しているニパウイルス感染症に取り込み、2005年には世界で初めてニパウイルスの人工合成に成功。種を越えて被害を拡大させる新興感染症のメカニズムの解明や、ワクチンの開発に取り組んでいる。
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甲斐は高校卒業後、東京大学理科2類に進む。東大は進学振り分け制度といって、2年になると学科を選ぶチャンスが与えられる。甲斐は生物系を希望していたが、生化学、生物、農芸化学などの研究室を回るうちに、どこも生身の動物を扱うわけではないことを知る。しかも、女性の就職については厳しい話ばかりが入ってきた。
ところが、獣医学の部屋に出かけたところ、たまたま対応した教授がいった。獣医学科はいいところだよ。おもしろいよ。就職はいくらでもあるよ――と。
「山内亮先生という繁殖学の先生だったのですが、当時、学生担当の先生が外出していたのでたまたま相手をしてくださったんです。獣医学科の新歓コンパで、え、ぼくそんなこといったっけ、といわれました。先生の思い込みだっただけで、獣医学科も女性の就職状況がいいわけではなかったのですが、勘違いで決まるのも運命です。もちろん悪気はないですよ。獣医学の先生はみなさん、人間が大きくて優しくて、楽しかった」
獣医になりたい。できればアフリカの国立公園で働いてみたい。そんな夢を抱く学生は多い。だが、現実は甘いものではない。甲斐のように大型動物を扱いたいという場合、獣医学では家畜を意味し、そこでは、生かすよりも殺すことが中心となる。たとえ骨折程度のけがでも、馬や牛を治療して回復させるまでの時間と経済的な負担を考慮すれば、殺処分を選ばなければならない場合が多い。
「大学で獣医学教育を受けたとき、一番最初に悩んだことです。マウスを最初に殺したときは本当にショックでした。いつか誰かを助けるための教育というけれど、他の動物とマウスの命がどう違うのか。人間って、なんてエゴイスティックなのかと悩みました。人間の医者のほうがよっぽどいい。助けることに一直線になればいいですし、人に尊敬される。シュバイツァーがうらやましいと思うこともありました。結局は自分で線を引いたというか、心の中で折り合いをつけただけだと思います」
大学院を修了して以降、動物を殺処分する研究からは遠ざかっている。だから、慣れたというわけではない。時が忘れさせてくれただけ。甲斐はそう考えている。
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それまでの私は免疫学者でしたので、ウイルスはツールとしてしか扱っていなかったのですが、教授からウイルスをやってほしいといわれたこともあって考え方を変え、それからはウイルス感染症に取り組みました。ウイルス感染症には免疫を壊したり、脳神経にダメージを与えたり、持続感染させたりする病気があるのですが、まだ原因やメカニズムがわかっていないものが多い。とくに山内先生が研究するモービリウイルスの感染症にそういう症状を起こすものが多いんですね。そういった生体反応につながる研究ができればと思って、牛疫や犬のジステンパーの基礎研究に取り組み始めたのです」
ちょうどそのころ、シベリアから北西ヨーロッパの海にかけて棲息するアザラシが犬のジステンパー様の症状で大量死したことは先述したとおりだ。感染はあざらしだけでなくイルカやライオンにまで広がり、感染症に対する監視と対策は新たな局面を迎えていた。
「たまたま流行に巻き込まれてしまったんですね。野生動物に感染が広がっていましたし、種を超えて人間にもやってくる。扱いやすいジステンパーなら自分にもできるかなと思って、そこからウイルス研究に入っていきました。学部には若い学生がたくさんいましたので、彼らの相談を受けましたし、学生がどんどん化けて成長していくのを見るのは本当に楽しかった。教育もいいものだと思いました」
そして、99年、甲斐は東大医科研初の女性教授となり、現在に至る。