じじぃの「カオス・地球_452_哺乳類の興隆史・第7章・クジラの進化」

A Blue Whale's Tongue Weighs More Than An ELEPHANT! | Wild Bites | BBC Earth Kids

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=mdCa20EKTcY

Whales


Whales Lost Their Teeth Before Evolving Hair-like Baleen in Their Mouths

November 29, 2018 Smithsonian Institution
Rivaling the evolution of feathers in dinosaurs, one of the most extraordinary transformations in the history of life was the evolution of baleen-rows of flexible hair-like plates that blue whales, humpbacks and other marine mammals use to filter relatively tiny prey from gulps of ocean water. The unusual structure enables the world’s largest creatures to consume several tons of food each day, without ever chewing or biting. Now, Smithsonian scientists have discovered an important intermediary link in the evolution of this innovative feeding strategy: an ancient whale that had neither teeth nor baleen.
https://www.si.edu/newsdesk/releases/whales-lost-their-teeth-evolving-hair-baleen-their-mouths

『哺乳類の興隆史――恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで』

ティーブ・ブルサッテ/著、黒川耕大/訳、土屋健/監修 みすず書房 2024年発行

約3億年前に爬虫類の祖先と分かれたグループが、幾多の絶滅事件を乗り越えて私たちに至るまでの、途方もない歴史を描く書。

第2章 哺乳類が出来上がるまで より

ペルム紀末、現在のロシアに当たる地域には多くの獣弓類が生息し、火山地帯からそう遠くない場所で暮らしていた。ゴルゴノプス類がディキノドン類に犬歯を突き立て、キノドン類がシダ種子植物の森に身を潜めていた。それらの動物が噴火の直接の被害者となったにちがいなく。多くは低俗な災害映画よろしく文字どおり溶岩に飲み込まれただろう。
しかし被害はこれに留まらず、溶岩よりずっと恐ろしい火山の潜在的な脅威が露わになった。「サイレントキラー」と呼ばれる二酸化炭素やメタンなどの有害なガスが溶岩とともに湧き上がり、大気に放出され世界に拡散したのだ。これらは温室効果ガスであり、赤外線を吸収して地表に送り出すことで熱を大気に留める。おかげで急激な温暖化が起き、気温が数万年で5~8度ほど上昇した。
いま起きていることに似ているが、実は現在の温暖化よりはペースが遅かった(現代人に現状の再考を迫る事実だ)。それでも海洋を酸性化・貧酸素化させるには十分で。殻を持つ無脊椎動物やその他の海棲生物が広範囲で死滅した。

第7章 極端な哺乳類たち より

クジラの進化は、どの生物学の教科書でも、大進化の代表例として紹介されている。ある生物が外見も行動もまったく異なる別の生物に進化し、その身体を新しい生活様式に適したものに変化させた例だ。これは仮説などではなく、バシロサウルスやドルドンを含む一連の骨格化石が現に存在し、クジラが変貌した過程を逐一示している。「化石記録には”中間種の化石や”失われた環(ミッシングリング)”が存在しない」と訴える輩がいたら、歩くクジラのことを教えてあげよう。

クジラの歴史の学ぶ前に、ちょっと面倒な問題を片づけて、当たり前のことを確認しよう。クジラは魚に似ている。クジラを巨大な魚だと思っていた人も恥じることはない。何を隠そう私も、学校に通いはじめて何年のしてからクジラが哺乳類だと知った。クジラが魚に似ているのは収斂進化が起きたからで、双方の身体が同じ生活様式(水中で泳ぎ、食べ、繁殖する生活様式)に適したものに変化したからだ。
逆に、クジラは他の哺乳類とはあまり似ていない。始新世(およそ5600万年前から3390万年前までの時代をいう。気候は現在よりも著しく温暖で、高海面期にあたる)に陸から海に進出したときに、いかにも”哺乳類”的な身体の特徴や行動の多くが消失したり転用されたりしたからだ。そういうわけでクジラはどの哺乳類よりも哺乳類らしくない――が、それでも哺乳類なのだ。クジラの巨体をじっくり観察すれば、あちこちに哺乳類の証しが見つかる。単一の骨から成る下顎骨と3つの耳子骨という哺乳類の定義形質を備えているし、乳腺から出る乳で子供を育てるし、皮膚に体毛はないがその痕跡は保持している(一部の種では乳児の時だけ口の周りに頬髭がある)。そのうえクジラは有胎盤類であり、胎盤を使ってしっかり育てた大きな(しばしば非常に大きな)赤ちゃんを産む。あなたが信じられなくても、腹部にヘソがあるのが何よりの証拠だ。子宮内ではそこに胎盤から伸びる臍帯がつながっていたのだから。
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始新世末までに、歩くクジラは残らず姿を消した。移行が完了し、陸棲の動物が完全な遊泳動物に進化して、どんな目的(捕食者からの逃避、食事、出産、睡眠など)のためにも陸に上がれなくなった。この先クジラはあらゆることを水中でこなすようになる。しかし進化が改変の手を止めることはなかった。改変は永遠に続く。始新世が明け漸新世が始まる頃(3400万年前)に、クジラの進化が次の段階に入った。今度はこれらの水棲のクジラが水棲動物としての極致を目指すときだった。

この時期、クジラはのちに現生クジラの2大グループとなる2つの系統に分かれた。ハクジラ類とヒゲクジラ類だ。どちらも、海中での生活に見事に適応した独自の特徴が身体や行動に数多く存在する。化石が産出しはじめるのは始新世と漸新世の境界辺りからだ。それ以降、それらの現代型のクジラはプロトケトゥス類やバシロサウルスの限界を超え、どんなに緯度の高い海にもどんなに水温の低い海にも分布を広げた。沿海にも沖合にも、極域にも熱帯域にも、浅瀬にも深海にも、さらには淡水環境にも進出した。カワイルカ(そう、イルカもクジラの仲間だ)などがかつて祖先がたどった道をさかのぼr、インドヒウス(カバの祖先)やパキケトゥス(クジラの祖先)が棲んでいた川岸の環境に戻ったのだ。かくしてクジラは正真正銘の世界帝国を築いた。
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しかし、いったんヒゲによる濾過食が進化すると、ヒゲクジラ類は大型化の一途をたどった。イカや魚、他のクジラを食べるハクジラ類が獲物の個体数に常に翻弄されるのに対し、ヒゲクジラ類にはプランクトンというほぼ無限の食料があり、さして体力を消耗せずにたらふく食べられる。漫然と過ごしていてもシーフードのビュッフェにありつくことが可能で、ましてやプランクトンが大増殖する時期や、深海からの栄養分が届きオキアミが大発生する湧昇流の発生海域では、まさに食べ放題だ。シロナガスクジラ――現生最大のクジラであり、史上最大のクジラでもある――もヒゲクジラである。同種はクジラの大型化という長期的な傾向の極致にいる。この傾向は始新世/漸新世境界付近に始まり、現在に至るまで衰えることなく続いてきた。陸棲哺乳類の進化の物語とは大違いだ。本章でmなんだように、ゾウやサイは始新世/漸新世境界付近で大型化の限界に達し、それ以上大きくなることはなかった。

ということは、シロナガスクジラを超える巨大海獣が、いつか進化するのだろうか? これらの極端な哺乳類がいっそう極端になることはあるのか? 可能性はそれなりにあるように思える。ただし、シロナガスクジラや他のヒゲクジラの仲間が現在起きている気候や環境の変動を生き抜き、絶滅を免れて、なおかつ未来の海で十分な量のプランクトンにありつければの話だ。