じじぃの「カオス・地球_451_哺乳類の興隆史・第6章・サルのイカダ乗り」

The WEIRD Way Monkeys Got to America

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=W6LnB4kVJ84

South America Monkeys


When Monkeys Surfed to South America

February 5, 2015
Long ago, about 36 million years before today, a raft of monkeys found themselves adrift in the Atlantic. They’d been blown out to sea by an intense storm that had ripped up the African coast, and now a mat of floating vegetation was the closest thing to land for miles in all directions. But luck was with them. Thanks to a favorable current, they were thrown onto the beach of a new continent - South America.
https://www.nationalgeographic.com/science/article/when-monkeys-surfed-to-south-america

『哺乳類の興隆史――恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで』

ティーブ・ブルサッテ/著、黒川耕大/訳、土屋健/監修 みすず書房 2024年発行

約3億年前に爬虫類の祖先と分かれたグループが、幾多の絶滅事件を乗り越えて私たちに至るまでの、途方もない歴史を描く書。

第2章 哺乳類が出来上がるまで より

ペルム紀末、現在のロシアに当たる地域には多くの獣弓類が生息し、火山地帯からそう遠くない場所で暮らしていた。ゴルゴノプス類がディキノドン類に犬歯を突き立て、キノドン類がシダ種子植物の森に身を潜めていた。それらの動物が噴火の直接の被害者となったにちがいなく。多くは低俗な災害映画よろしく文字どおり溶岩に飲み込まれただろう。
しかし被害はこれに留まらず、溶岩よりずっと恐ろしい火山の潜在的な脅威が露わになった。「サイレントキラー」と呼ばれる二酸化炭素やメタンなどの有害なガスが溶岩とともに湧き上がり、大気に放出され世界に拡散したのだ。これらは温室効果ガスであり、赤外線を吸収して地表に送り出すことで熱を大気に留める。おかげで急激な温暖化が起き、気温が数万年で5~8度ほど上昇した。
いま起きていることに似ているが、実は現在の温暖化よりはペースが遅かった(現代人に現状の再考を迫る事実だ)。それでも海洋を酸性化・貧酸素化させるには十分で。殻を持つ無脊椎動物やその他の海棲生物が広範囲で死滅した。

第6章 哺乳類、現代化する より

メッセル(ドイツのメッセル・ピットから、コウモリ、ネズミ、鳥、ウマなど比較的大きな哺乳類の化石が採集されている)の哺乳類群集はニューメキシコ(や他の地域)の暁新世(6500万年前~5500万年前までをいう。地質時代には長期的な海洋酸性化が起きたことが報告されている)の哺乳類群より種類が多く、生体、食性、体のつくり、行動面でもより多様だった。暁新世が白亜紀よりも多様だったように、始新世は暁新世よりも多様だぅた。またメッセルの哺乳類は2つの点でとりわけ際立っていた。

第1に、私の物語に出てきた哺乳類はすべて有胎盤類だ。メッセルの密林には後獣類(有袋類の一族)も棲んでいたが、あえて取り上げる価値のない端役ばかりだった。太古のメッセル湖から引き揚げられた数万点の骨格化石のうち、後獣類のものは5点しかない。それらは雑食性で、物をつかめる尾と力強い足でオポッサムのように枝にぶら下がっていたが、樹上性のニッチから締め出されたことは明らかで、齧歯類と霊長類の占有を許していた。この構図はもっと壮大な進化の物語にも当てはまる。白亜紀末の大量絶滅で打撃を受けた後獣類は、それでもその後の数千万年前、ヨーロッパ、アジア、北アメリカで持ちこたえていたが、やがて北半球からは姿を消した。その命脈は南アメリカとオーストラリアに拡散することで保たれ、そこで再び繁栄を謳歌することになる。
では多丘歯類はどうなったのか? 白亜紀に大いに隆盛し、、大量絶滅に耐え、暁新世に大型化したあの一大勢力はどうなったのだろう? メッセルにはその気配すらない。骨格や顎はおろか、独特のレゴブロックに似た臼歯さえ出てこない。メッセル湖が化石の宝庫になりつつあった頃、多丘歯類は衰退の一途をたどっており、始新世末の約3400万年前までには絶滅していた。

メッセルの動物相の第2の要点は、有胎盤類が私たちとそれと分かる姿になっていた点だ。いずれも現生哺乳類の主要なグループに分類できる。主役のエウロピップスはウマ、尾がフサフサのアイルラブスは齧歯類、枝をつかんでいたダーウィニウスは霊長類、といった具合だ。恐竜絶滅後の1000万年間にいた暁新世の哺乳類ではこうはいかない。
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ダーウインの有蹄類の存続期間は優に6000万年を超える。現代まであと少しのところまで来ていたが、最後の生き残りが約1万年前の最新(最終)氷期の絶滅事件に巻き込まれた。ヒズメで大地を駆ける種が多かったが、飛び跳ねたり穴を掘ったりする種や、ショコウ性で鈍重な種、半水棲の種もいた。
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南アメリカの)霊長類と齧歯類である。本物の、つまりは有胎盤類の2グループのことで、風変わりな有袋類版のことではない。ではこの2グループはどこからやって来たのか?

DNA解析が明らかにしたその答えは驚くべきものだった。両グループはアフリカから来ていたのだ。DNAと化石の証拠をもとに系統樹を描くと、南アメリカの霊長類と齧歯類はアフリカの多様なグループの内側に収まった。要するに、南アメリカから遠く離れた大陸からの移住者だったわけだ。その数千万年前の白亜紀南アメリカとアフリカは分裂し、始新世――両グループの移住が起きた時期――には両大陸のあいだに幅1500キロ以上の大西洋が横たわっていた。

アフリカもまた始新世には島大陸として存在し、ゾウなどのアフリカ獣類から成る独自の有胎盤類相を擁していた。そこにPETM(約5600万年前に発生したとされる、急激かつ短期的な地球温暖化現象。 暁新世と始新世の境界で、数千年の間に地球全体の平均気温が5度から9度上昇した。 原因として、海底のメタンハイドレートの融解、北大西洋における火山活動などが挙げられる)に地球が温暖化してからしばらくあとに、霊長類と齧歯類がアジアから移住してきた。当時、両大陸を隔てていたのは幅の狭いテチス海(地中海の前身)だけで、ヨーロッパの島々が飛び石として機能したはずだから、この移住には納得がいく。
納得がいかないのは、アフリカにいた霊長類と齧歯類がどうやって南アメリカに渡ったかだ。陸路は一切なく、移住者は大西洋を横断する必要があったはずだ。おそらく腐りかけの植物で出来たイカダ”に乗り、嵐の日にアフリカの海岸から放り出され、南アメリカの海岸に漂着したのだろう。その途上でいくつかの島を経由したのかもしれないし、あるいは終始イカに留まっていたのかもしれない。いずれにしろ直射日光にさらされながら、ほぼ飲まず食わずで、何週間も波間に揺られていたに違いない。移住者たちは、移住者一般がそうであるように、強壮でたくましい個体だったはずだ。そういう性質を備えていたからこそ異境の地を新たな故郷にして繁栄できたのだろう。