じじぃの「科学夜話・コウモリに近縁な生き物はウマだって?コウモリのふしぎ」

The Evolution of Bats

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=tK7g-8B-b1k

群れて飛ぶコウモリ

コウモリに近縁な生き物はウマ?

Bats Flying High Resolution Stock Photography and Images

Alamy
https://www.alamy.com/stock-photo/bats-flying.html?page=8

コウモリの起源

東京工業大学 二階堂研究室
クジラ類と同等か、もしくはそれ以上に劇的な形態的特殊化を遂げた哺乳類としてコウモリ類(翼手目)が挙げられます。
コウモリ類は前肢を翼へと変化させ、その一部の種は体重を哺乳類最少に匹敵するまでに軽量化させることで完全なる空中飛翔能力を獲得しました。一般に、このように劇的な形態進化を遂げた種の系統推定は極めて難しいのが常ですが、さらにコウモリ類の分類を難しくさせたのが、進化的な中間段階を示す化石記録が存在しないことでした。つまり最古のコウモリ類の化石として記載されているIcaronycteris indexはすでに完全なコウモリ様の形態を獲得しており、コウモリ類とその他の哺乳類をつなぐようなグループは見つかっていないため、コウモリ類がどの哺乳類と近縁なのかを推定するのは困難を極めたのです。
そこで我々は、哺乳類の目間レベルでの包括的な系統解析に適したミトコンドリア全長配列を、大コウモリについて決定し、それらを他哺乳類のものと合わせて最尤法を用いて解析をおこないました(図1: Nikaido et al. 2000 JME )。その結果、大コウモリ類と小コウモリ類の単系統性は高い信頼度によって支持されました。つまりPettigrewらの主張する「空飛ぶ霊長類仮説」は、十分なデータ量を用いた我々の解析により完全に否定されたことになります。また、さらに重要なこととしてコウモリ類は有蹄類(ウシやイヌ、ウマなどのグループ)に近縁であり、伝統的にその近縁性が支持されてきた霊長類やヒヨケザルとは近縁ではないことが十分な信頼性を持って示されたのです。つまり、ヒヨケザルとコウモリ類は近縁であると考えられてきましたが、それらは滑空と飛翔によってもたらされた表層的な類似性によるものである可能性が高く(図2)、ここであらためてコウモリ類の形態に基づく系統推定の難しさが明らかとなったわけです。
http://www.nikaido.bio.titech.ac.jp/research_past.html#origin_bat

『コウモリのふしぎ (知りたい!サイエンス)』

船越公威、福井大、河合久仁子、吉行瑞子/著 技術評論社 2007年発行

コウモリに近縁な生き物はウマ? より

6つに区分される哺乳類のうち、完全な胎生を発達させた有胎盤類であるローラシア獣類、ユーアルコントグリレス、異節類、アフリカ獣類のグループの間の関係、及び各グループ内の関係については、いろいろな意見が出されてきました。
分子系統学で主に取り入れられているのは、遺伝子配列をできるだけ沢山調べ、その配列の相同性から類縁関係を推定する方法です。しかし、この方法による有胎盤類内4グループの関係をはっきりと示す分子系統樹の報告は、多くはありませんでした。
それに対して2006年に、遺伝子配列の相同性を比較する方法ではなく、全く別の方法を用いて、この4グループの関係が調べられました。この方法は、決まった配列を持ち、ゲノム上に散らばっているレトロポゾンが、特定の場所にあるかないかでグループ分けをして系統樹を構築する方法で、SINE法と呼ばれます。
この系統樹では、ユーアルコントグリレスとローラシア獣類が北方獣類(ポレオユーテリア)という1つのグループを作ることが支持されました。さらに、ユーアルコントグリレスとローラシア獣類の単系属性がそれぞれ支持されました。
ローラシア獣類は、初めに真食虫類が、次いで鯨偶蹄類(ウシ、クジラ、カバなど)が分かれ、その内側に翼手類(コウモリ)、奇蹄類(ウマなど)、食肉類(イヌやネコなど)が位置づけられました。翼手類は奇蹄類、食肉類と分かれ、この2つのグループが単系統群であることが示されたのです。奇蹄類が鯨偶蹄類とは単系統群を作らないこと、そして翼手類の系統学的位置が新しく提案されました。そしてこの論文の筆者らは、翼手類、奇蹄類、食肉類、そして食肉類に近いセンザンコウを合わせたグループ名として、ペガサスにちなんでPegasoferaeと名付けています(コウモリとウマが近縁ということから、ウマに翼が生えたイメージでこの名が付いた)。つまりコウモリは、食肉類や奇蹄類と共通祖先を持つ可能性が示されたのです。
しかし、これによってすべてが解明されたわけではありません。”コウモリみたいな”化石が見つかっていない現状では、この分子系統樹によって、コウモリの進化の謎はさらに深まってしまったのかもしれません。
レトロポゾンによる系統樹構築方法・・・東京工業大学の岡田教授らは、DNAの中で自分自身の複製を増やしていくレトロポゾンと呼ばれる小さな配列を使い、進化の道筋を調べた。レトロポゾンは1回、染色体に入り込むと抜けずに子孫に伝わるため、レトロポゾンの位置を調べることで、枝分かれした順序がわかる。その結果、コウモリ、ウマ、イヌ、ウシ、クジラの枝分かれの順序は、まずウシとクジラのグループが分かれ、その後、コウモリが分かれたとわかった。