のん気なカエルのペペが極悪なヘイトシンボルに認定!?映画『フィールズ・グッド・マン』予告編
カエルのペペ
カエルが変わる…ヘイトの象徴に トランプ氏勝利にも貢献したネットの闇の力描くドキュメンタリー 12日公開
2021年3月10日 東京新聞
のんきなカエルがヘイトの象徴に―。漫画キャラクター「ペペ」が人気の画像としてネット上で拡散されるうちに作者の意図を離れ、「勝ち組」への怒りや差別思想のシンボルに変異する米国の社会現象を描いたドキュメンタリー映画「フィールズ・グッド・マン」が12日に公開される。インタビューに応じたアーサー・ジョーンズ監督(45)と、プロデューサーのジョルジオ・アンジェリーニ氏(38)は「ソーシャル・メディアは負の感情を増幅させる」と警告する。
あらすじ 若者の日常を描いた漫画「ボーイズ・クラブ」(2005年発表)の主人公、ペペ。にっこり笑う表情が特徴の能天気なキャラだが、匿名掲示板での人気をきっかけに、無断で改変された過激な画像がネット上にあふれるようになる。白人至上主義者らの差別的な主張の拡散にも使われ、米人権団体「名誉毀損防止同盟」は16年、ヘイト・シンボルに認定。作者のマット・フューリー氏は、友人とともにハッピーなペペの画像をネットに拡散するなど、本来のイメージを取り戻そうと悪戦苦闘する。タイトルはペペのせりふで「気持ちいいぜ」の意味。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/90636
『現代ネット政治=文化論――AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』
藤田直哉/著 作品社 2024年発行
安倍元首相銃撃犯・山上徹也の深層、「推し」に裏切られた弱者男性、インセル、陰謀論者、負け組、オタクたちの実存の行方、ニセ情報の脅威、倍速で煽られる憎悪…。揺らぐ民主主義と自由。加速するテクノロジー、そこに希望はあるのか!ネットネイティブ世代の著者が徹底検証。
Ⅴ 積極工作と陰謀論政治 より
陰謀論政治
このような「物語兵器(原始的な狩猟・採集をする生活)」は、陰謀論という形をとって現れることもあり、イデオロギーとして政治的な影響力を持つこともある。本節では、マイアミ大学教授ジョゼフ・E・ユージンスキ『陰謀論入門』を参照し、陰謀論とポピュリズム政治の結びつきを考察する。
ユージンスキは、トランプを「陰謀論を用いて政治方針や政府の行動を正当化する大統領(159頁)と断定し、「トランプの陰謀論は(……)反主流派のアウトサイダーには熱狂する人たち――の心にうまく入り込んだ」(165頁)と言う。
「陰謀論は敗者のもの」である
ユージンスキは、「陰謀論は敗者のもの」であると言う。実際、選挙で、負けた方の支持者は、選挙に対する陰謀論を唱えやすいという世論の調査の結果がある。
そして「無気力感、社会的疎外感、自信のなさ、不安感、コントロールができないという気持ちは、陰謀信念と相関関係がある」(108頁)。アンケート調査などによると、陰謀論は、社会的に劣位で弱い境遇に置かれた者が抱きやすい傾向がある。たとえばアフリカ系アメリカ人たちがそうである。その理由は、陰謀論は、実際の陰謀や暴力などの脅威に対する警戒のセンサーであるからだとユージンスキは言う。
ユージンスキはフェミニストの言う「家父長制」や「1パーセントの金持ちが支配している」というサンダースのロジックも「陰謀論」と呼ぶ。前者は、弱い立場に置かれた女性たちが、過剰なまでにあらゆることを「家父長制」のせいにしすぎる点が、陰謀論だということである。サンダースの標語の「1パーセント」も、金持ちに支配されているというある程度は事実であり、ある程度は事実ではない「物語」を用いた非エリート動員の戦術であるという点で、陰謀論と扱っている。
この「敗者」もしくは「衰退」の感覚は、弱者男性、ラストベルトの労働者たち、それからロシアや、「第二の敗戦」により自信喪失していた日本(あるいはITかやオタク文化の隆盛などで衰退していた「古き良き日本」)に共通している。ユダヤ陰謀論が跋扈したナチス・ドイツも、没落していく中間層が陰謀論や差別に誘引されやすかった。陰謀論によって、自身の敗北、屈辱などを誤魔化し、他人のせいにし、自身を正当化し、他責により心を楽にし不安や惨めさから身を守ろうとする心理が働くのは、よく理解できる。
そのような心理メカニズムを利用し集票するのが、政治的なポピュリズムの戦略なのだろう。トランプを支持したのも「負け組」が多く、選挙戦略において「カエルのペペ」という弱者男性のシンボルを活用するなど、「負け組」を取り込む戦略を使ったことを、選挙戦略を担当した会社が認めている(アーサー・ジョーンズ監督『フィールズ・グッド・マン』)。
「陰謀論を信じ、これを共有することはつまり、『序列が低下しつつある集団が、敗北から立ち直り、これを挽回し、結束を固め、敗北を食い止め、集団行動の問題を克服し、脆弱性に注意を向けるための手段』となる。負けたことの責任を認めたり、勝った側を褒めたりすることも、負けたことを策略のせいにする方が簡単だと感じる人もいる。世論調査では一貫してこの効果が示されている」(150頁)。
これは、2020年のアメリカ大統領で、トランプがジョー・バイデンに敗北した後、トランプ支持者たちが「不正選挙である」と主張していたことを思い出させる。