じじぃの「カオス・地球_415_大絶滅時代とパンゲア・第3章・海洋の脱酸素化(1)」

【ゆっくり解説】ペルム紀末の大量絶滅

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=88vqnb-ErGA

堆積物が示す環境情報


高知大学 海洋コア総合研究センター:研究活動の概要

堆積物が示す環境情報
海洋は、二酸化炭素などの温室効果ガスの吸収域として重要です。
大気から海水中に溶け込んだ二酸化炭素は、光合成によって植物プランクトンに取り込まれます。作り出された有機物や遺骸(殻)は、その後、沈降しながら酸化分解し、二酸化炭素や栄養塩を中・深層水に付加します。また、有機物や遺骸の一部は深海底に埋積し、堆積物中に保存されます。陸起源物質やエアロゾルなども大気や河川を通して海洋に運搬され堆積するため、堆積物の化学組成や微化石群集、同位体比などを詳細に解析することによって、炭素を中心とした物質循環プロセスや海洋環境変動の実態を復元することができます。
https://www.kochi-u.ac.jp/marine-core/old/research/index.html

『大絶滅時代とパンゲア超大陸――絶滅と進化の8000万年』

ポール・B・ウィグナル/著、柴田譲治/訳 原書房 2016年発行

パンゲア超大陸の存在と生物多様性の関係が最大の原因とする、古生物史と地球環境史をかけあわせたサイエンス・ノンフィクション!

第3章 死の海 ペルム紀――三畳紀大絶滅 より

キャピタニアン期は生命にとって安寧の時代ではなかったが、2億5200万年前ペルム紀末を襲った大破局にくらべれば小さなしゃっくりのようなものだった。この次なる災害では無事にいられる生物はいなかったし、パンサラッサ海の深海部からパンゲアの内陸部まですべての環境で、膨大な種が失われた。地質学者はこの原因を解明しようと、20年以上かけて重要な研究領域としてこの空前の危機にとりくみ、その努力のかいあっていったい何が起こっていたのかがようやくわかってきた。ひとつの側面ははっきりしている。その原因はずっと私たちの目の前にあった。あのシベリア・トラップである。峨眉山(エイメシャン)トラップと同じように、やはり玄武岩洪水溶岩流が積み重なっているのだが、その規模はシベリア・トラップがずば抜けて巨大だった。
侵食されたこのトラップの名残はいまだにシベリア北西部の広大な面積にわたってみることができ。さらにずっと巨大な溶岩流がいまでは西シベリア堆積盆の新しい岩石の下に埋まっている。ちょっとわかりにくいがもっと重要なのは、シベリア噴火もやはり膨大なガスを放出し、他に類を見ない最悪の気候状況をもたらしていたということだ。

シベリア・トラップ

シベリア・トラップはシベリア北西部を広く覆い、何百もの洪水玄武岩流が次々に重なって広大な高原を形成し、針葉樹林帯に襞のように広がっている。峨眉山(エイメシャン)トラップの場合と同じように、2億5000万年の間に浸蝕された溶岩もあれば埋もれてしまった溶岩もあるため、もともとの噴出量を決めるのは難しい。とくに推定に重要になるのはおそらく埋もれた溶岩の分だろう。このトラップの西側には西シベリア堆積盆があり、堆積岩のほとんどはジュラ紀の岩石で重要な産油地帯となっている。一帯に掘られた深い試掘孔から、新しい堆積岩の下には三畳紀玄武岩があることがわかっていて、おそらくはシベリア・トラップが延々と西側へ張り出しているのだろう。この埋もれた溶岩まで考慮すれば、このトラップのもともとの規模は500立方平方キロ以上あっただろう。決定的なのは、この膨大な量の溶岩はペルム紀末頃、極めて短い間に噴出したらしい点だ(100万年以下)。ガスが豊富で極めて激しい爆発的噴火によって発生する凝灰岩(ぎょうかいがん)がこの噴火の初期段階でよく見られることから、この事象が最初の絶滅パルスと強い相関があるようだ。第2の絶滅パルスつまり三畳紀の初頭には大規模な洪水玄武岩噴出がみられた。このようにシベリア・トラップはふたつの絶滅とまさにジャストタイムで噴煙を上げていた、極めて巨大な文字通りの決定的証拠(スモーキング・ガン)なのである。

海洋の脱酸素化

ペルム紀三畳紀大絶滅については絶滅の甚大な規模の他に、この危機のもうひとつの異常な側面として、海洋無酸素化の規模と激しさがある。海洋無酸素化は過去数十億年の間に数回起きているが、2億5100万年前の事例はとてつもなく強烈で、おそらく海洋水柱のほぼ全層が脱酸素化した唯一の事例だろう。なぜそんなことが起きたのか? 急激な地球温暖化と同時に発生していることがその原因のひとつで、水温が高くなるといくつかの理由で無酸素化の状態が生じやすくなるのだ。
1番直接的な理由は、温度が上昇するにつれて酸素の溶解度が低下することだ。そういうわけで、魚を飼っている水槽は窓辺に置かない方がいい。天気のいい暖かい日には、水槽の魚は息苦しくなったことに気付くだろう。第2にもう少し間接的な理由として、温度が上昇すると有機物が腐る速度が速くなることがあげられる。わたしたちは食品を保存するのに温めたオーブンではなく冷えた冷蔵庫に入れているので、この点については暗黙のうちに理解している。有機物が腐るときには酸素を消費するため、腐敗が急速に進むようになれば、酸素を急速に使い切ってしまうことになる。

ペルム紀末の世界における有機物の腐敗と酸素消費の重要性について考察するには、まず今日の海のような通常の海洋の特徴について知っておかなければならない。海洋の有機物の大部分は、表層水域で光合成をしている植物プランクトンによって形成される。動物プランクトンという小さな生物はこの植物プランクトンを食べては微細な糞の塊を大量に生産し海中に「糞の雨」を降らす。この糞が海水中を降下していく間に、バクテリアがその有機物を酸化するため海中の酸素濃度が低下する。この「糞の雨」が多い場合、水深数百メートルほどのところで、低酸素濃度帯が生じるポイントに到達する。海洋学者はこれを「酸素極小層」(OMZ Oxygen Minimum Zone)と呼んでいて、非常に生産性の高い表層水の下で、酸素濃度が非常に低くなっている海域が世界に数ヵ所存在する。OMZが海底まで達するような環境だと、海底の堆積物は、動物プランクトンの糞の一部分解された遺物からなる有機物が豊富になる。OMZの下方では有機物はほとんど分解されてしまっているし、循環する海流のおかげで深海にも十分すぎる酸素が供給されている。したがって、いくらか逆説的ではあるけれども、OMZより深くなると酸素レベルが上昇し、今日では海洋の最深部でも通気が保たれているのである。

他に堆積物中に有機物を発見できる重要な場所として、水深数百メートル以下の浅海域がある。こうした場所では小さな糞塊が表層水からそれほど深くまで時間をかけて沈むわけではないので、それほど分解されずに堆積するからだ。したがって海洋では、堆積岩に見られる有機物の大部分は、浅海域(水深数百メートル以下)で堆積したか、OMZでの酸素欠乏が激しい条件にある深海域で堆積したことになる。