テキサス州国境地帯 1万4000人の移民殺到で混乱
川を渡って米国の国境に向かうベネズエラの人々(メキシコ)
米国境に再び大量の移民殺到、退去措置の失効で「ヘドロの川」「カミソリ入り鉄条網」越える
2023/10/03 読売新聞
米国に中南米などから大量の移民が押し寄せている。
新型コロナ対策として亡命申請も受理せずに国外退去させてきたトランプ政権時代の措置が今年5月に失効し、バイデン政権が移民に寛容とされることが影響しているようだ。メキシコ北部の米国との国境付近は過酷な長旅の末、米国に入ろうとする人々であふれていた。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231003-OYT1T50021/
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テキサス州 経済力・人口・面積が全米第2位の巨大州 より
面積と人口 面積も、人口も全米第2位
テキサス州の面積は69万6241km2にもなる。これは、日本の2倍近くに相当する面積だ。アラスカ州に次いで全米で2番目に大きな州であり、アメリカ本土では1番の広さだ。人口は3000万人程度で、これはカリフォルニア州に次いで全米第2位である。
地勢と気候 メキシコとの国境線が全州で最長
アメリカの南部に位置し、州の南はメキシコ湾岸となる。リオグランデ川を挟んで、メキシコと接している。メキシコとの国境線が最も長い州である。州の東部は平野だが、州の西部は山地となる。メキシコ湾岸地域は、亜熱帯気候にある。州の北は内陸性気候。
政治風土 共和党優勢だが都市部では民主党支持も
かつては民主党が強かったが、今は共和党の牙城(がじょう)になっている。保守的な気質が大きい。ただ近年はヒスパニックが流入し、都市部では民主党も盛り返している。
移民に手厳しいアボット知事
2015年からテキサス州の知事は、共和党のアボットが務めている。20代で下半身麻痺の障害を負ったアボット知事は、車椅子で業務をこなしている。彼はテキサス州ウィチタウォールズに生まれ、テキサス大学オースティン校を経て法曹界にはいり、テキサス州司法長官の実績をもとに、知事に当選した。テキサス一筋で生きてきた知事でもある。
アボットは、レーガンやトランプといった歴代大統領にも通じる、保守的な政治家である。逆にいえば、アメリカのリベラルな政治思想に対しては敵対的だ。アメリカではLGBT(性的少数者)を寛容に受け入れる政治家が多いが、彼はLGBTに否定的である。
気候変動の科学的合意も否定し、環境問題にも冷ややかだ。新型コロナ禍にあって、アボットのテキサス州はバイデン政権の意向を無視して、市民の行動を制限するのではなく、自己責任の問題であるとした。
なによりアボットは、移民に対して否定的である。アメリカ内でメキシコと接する州は、メキシコからの不法移民問題を抱えている。テキサス州もそうで、メキシコからの不法移民の対処に追われてきた。アボット知事はトランプ政権のもとで生まれた新たな規制をもとに難民の定住を拒否し、警察には不法移民の逮捕を命じている。
さらに、アボット知事はテキサス州に流入した不法移民を東部のワシントンやニューヨークに「転送」してしまっている。そこには、テキサス州と東部の州の政治家の移民に対する「温度差」がある。豊かな東部の州は、移民が直接には入りにくいため、移民問題を実感できず、移民に寛容になりやすい。一方、テキサス州にとって移民問題は、もともとの住人の仕事を奪う、失業問題と直結する大問題である。
アボットは、バイデン政権や東部の州に移民問題の難しさをわからせようと、嫌がらせのように移民を「転送」しているのだ。