じじぃの「カオス・地球_417_大絶滅時代とパンゲア・第3章・海洋の酸性化(1)」

【海洋酸性化の脅威】海の生き物についての影響を解説!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=NIVMYuqbgRQ

海洋酸性化とは?


海洋酸性化とは?原因や生物に与える悪影響、現状からわかる対策を簡単解説

2023年12月20日 Spaceship Earth
現在、海の生態系バランスの崩壊やサンゴ礁の破壊などの問題が起きています。その原因の一つが海洋酸性化です。海の酸性化は、私たち人間の活動によって加速しつつあります。
二酸化炭素の増加で海水のpH値が低下
海に二酸化炭素(CO2)が吸収されると、その一部が炭酸(H2CO3)になります。さらに炭酸が分離し、結果的に水素イオン(H+)が増加します。この水素イオンが酸性を示すものなのです!
https://spaceshipearth.jp/ocean_acidification/

『大絶滅時代とパンゲア超大陸――絶滅と進化の8000万年』

ポール・B・ウィグナル/著、柴田譲治/訳 原書房 2016年発行

パンゲア超大陸の存在と生物多様性の関係が最大の原因とする、古生物史と地球環境史をかけあわせたサイエンス・ノンフィクション!

第3章 死の海 ペルム紀――三畳紀大絶滅 より

キャピタニアン期は生命にとって安寧の時代ではなかったが、2億5200万年前ペルム紀末を襲った大破局にくらべれば小さなしゃっくりのようなものだった。この次なる災害では無事にいられる生物はいなかったし、パンサラッサ海の深海部からパンゲアの内陸部まですべての環境で、膨大な種が失われた。地質学者はこの原因を解明しようと、20年以上かけて重要な研究領域としてこの空前の危機にとりくみ、その努力のかいあっていったい何が起こっていたのかがようやくわかってきた。ひとつの側面ははっきりしている。その原因はずっと私たちの目の前にあった。あのシベリア・トラップである。峨眉山(エイメシャン)トラップと同じように、やはり玄武岩洪水溶岩流が積み重なっているのだが、その規模はシベリア・トラップがずば抜けて巨大だった。
侵食されたこのトラップの名残はいまだにシベリア北西部の広大な面積にわたってみることができ。さらにずっと巨大な溶岩流がいまでは西シベリア堆積盆の新しい岩石の下に埋まっている。ちょっとわかりにくいがもっと重要なのは、シベリア噴火もやはり膨大なガスを放出し、他に類を見ない最悪の気候状況をもたらしていたということだ。

シベリア・トラップ

シベリア・トラップはシベリア北西部を広く覆い、何百もの洪水玄武岩流が次々に重なって広大な高原を形成し、針葉樹林帯に襞のように広がっている。峨眉山(エイメシャン)トラップの場合と同じように、2億5000万年の間に浸蝕された溶岩もあれば埋もれてしまった溶岩もあるため、もともとの噴出量を決めるのは難しい。とくに推定に重要になるのはおそらく埋もれた溶岩の分だろう。このトラップの西側には西シベリア堆積盆があり、堆積岩のほとんどはジュラ紀の岩石で重要な産油地帯となっている。一帯に掘られた深い試掘孔から、新しい堆積岩の下には三畳紀玄武岩があることがわかっていて、おそらくはシベリア・トラップが延々と西側へ張り出しているのだろう。この埋もれた溶岩まで考慮すれば、このトラップのもともとの規模は500立方平方キロ以上あっただろう。決定的なのは、この膨大な量の溶岩はペルム紀末頃、極めて短い間に噴出したらしい点だ(100万年以下)。ガスが豊富で極めて激しい爆発的噴火によって発生する凝灰岩(ぎょうかいがん)がこの噴火の初期段階でよく見られることから、この事象が最初の絶滅パルスと強い相関があるようだ。第2の絶滅パルスつまり三畳紀の初頭には大規模な洪水玄武岩噴出がみられた。このようにシベリア・トラップはふたつの絶滅とまさにジャストタイムで噴煙を上げていた、極めて巨大な文字通りの決定的証拠(スモーキング・ガン)なのである。

海洋の脱酸素化

ペルム紀三畳紀大絶滅については絶滅の甚大な規模の他に、この危機のもうひとつの異常な側面として、海洋無酸素化の規模と激しさがある。海洋無酸素化は過去数十億年の間に数回起きているが、2億5100万年前の事例はとてつもなく強烈で、おそらく海洋水柱のほぼ全層が脱酸素化した唯一の事例だろう。なぜそんなことが起きたのか? 急激な地球温暖化と同時に発生していることがその原因のひとつで、水温が高くなるといくつかの理由で無酸素化の状態が生じやすくなるのだ。

その他の協働作用

こうしてわたしたちは、ペルム紀三畳紀大絶滅の死の海が、酸素の消失と温度上昇が協働的に作用するストレスの高い状態だったことで説明可能なところまで到達した。その原因となるガス放出は、おそらくほとんどはシベリアの噴火による二酸化炭素だろうが、ハイドレードからのメタン放出もいくらか寄与していた可能性もある。しかし、大気中の二酸化炭素が増加すると、海中でもこの酸性ガスの濃度が上昇するため、第3の協働作用という不安材料、つまりもうひとつの大量絶滅の要因として海洋の酸性化が浮上してくる。

海洋酸性化の現場証拠を初めて探索したのがジャクソン州立大学のエザット・ヘイダリだ。ヘイダリはイランにあるペルム紀三畳紀境界の地層断面を集中的に調査した。ここでは連続する石灰岩の単層の間に石灰質の泥岩層が挟まっている。泥岩はごく普通の堆積岩なのだが、ヘイダリはこの境界泥岩には炭酸塩が少ないことから、それは酸性の海で激しく溶解したことが原因だと主張し、この泥岩の重要性を指摘した。しかし、泥岩単層だけでは、酸性海域が存在したことの決定的な証拠にはならない。降雨量がわずかに増加すれば、大量の泥が海に流れ込み、やはりこうした泥岩が容易に形成されるからだ。しかし絶滅の特徴による証拠もある。たとえば腕足動物とサンゴなど、厚い殻をもつ動物が過酷な壊滅状態に見舞われたことは酸性化による死の証拠だとしばしば提起されている。というのも、これらの動物は少しでも海水が酸性化すれば炭酸カルシウムの殻を作ることが難しくなるからだ。

酸性化の原因に関しては、深海の無酸素状態の海水が浅海域に上昇し、それとともに溶存硫化水素ガスも表層水に輸送され、それがもとで硫酸が生じ酸浴による死に至ったとする説もある。
しかしこのシナリオでは、硫化水素そのものがあらゆる動物にとって致死的物質なのだから、それだけで生物を殺せただろうと考えざるを得ないし、さらにこの説で大きな問題となるのがそのタイミングだ。深海の硫化水素レベルは最初の絶滅段階と同時に増加を初めているので、深海に十分な硫化水素が蓄積できる時間はほとんどない。実際、酸性化による絶滅メカニズムを支持する他のほとんどの研究者は、PHの低下の原因は二酸化炭素濃度の上昇によるものと考えている。

海洋酸性化はどれほど致命的なのだろうか? 酸性化はペルム紀末の多くの苦境のひとつだったのだろうか、それともせいぜいたいして重要でない(あるいは無関係でさえある)ストレスにすぎなかったのだろうか? そして酸性化が絶滅因子になるといえるだけの十分な証拠はあるのだろうか? 厚い殻をもった生物が選択的に消失したことは、ほんとうに酸性化による絶滅を意味しているのだろうか? これらの生物群が実際に壊滅状態になったことは確かだが、これらの生物は温度上昇や溶存酸素の減少に対しても同様に敏感で、このふたつの現象が大量絶滅の間に実際に生じていたこともわかっている。ひとつの危機において、それと関係する海洋生物の運命を見るには、特定の仮説に都合のよい細切れの証拠を拾い上げるだけではなく、幅広い視野を持つことが重要になる。注目しなければいけないのは、ペルム紀三畳紀大絶滅危機にはほとんどすべての生命が打ちのめされ、そこには酸性化で溶解しやすくなる炭酸塩の殻がないため酸性化ストレスを容易に凌(しの)げたはずの放散虫や蠕虫(ぜんちゅう)まで含まれていたことだ。同じように、膠着質殻有孔虫(周囲の堆積物などをくっつけて殻を形成する)もペルム紀の終わりにはかつてない最悪の危機に見舞われたが、これらの生物も現代の海ではとくに酸性化に強いグループだ。