じじぃの「カオス・地球_406_46億年の地球史・第4章・酸素と地球」

【ゆっくり解説】植物?細菌?「シアノバクテリア」とは何者なのか?を解説/生物の誕生と進化に重要な役割を果たした藍藻とは

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=T5ioY0nXKLM

嫌気性生物出現から好気性生物(真核生物)誕生の歴史


地球科学と生命の誕生・進化(8)<原生代の地球環境と生命活動(2)>

2023年6月1日 ネオマグ通信
[原生代の地球環境と生命活動(2)-1]地球の大酸化イベント

冥王代や太古代の地球大気中にはもともと酸素がほとんど含まれていませんでした。ところが、原生代初期の約24億5000万年前から約22億年前にかけて、大気酸素濃度が急激に上昇したらしいことが知られています。これは「大酸化(酸素化)イベント」と呼ばれています。

大気中の酸素濃度は、25億年前以前の太古代においてもわずかに上昇するということが何度かあったことが最近分かってきました。このことは、4月号でもお話をしましたように、シアノバクテリアによる酸素発生型光合成が太古代から始まっていた可能を示唆しています。しかし、大気中の酸素濃度がはっきり上昇するのは原生代になってからでした。
https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter202306.html

たった1日でわかる46億年の地球史

【目次】
プロローグ――地球学への招待状
1. 化学と地球――地球はどのように生まれたのか
2. 物質と地球――地球はどのように形成されたのか
3. 生命と地球――地球に広がる生命

4. 酸素と地球――呼吸できる空気はどこから来たのか

5. 動物と地球――大型化する生命
6. 植物と地球――植物と動物の世界
7. 災害と地球――絶滅が生命の形を変える
8. 人間と地球――地球を変える人類

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『たった1日でわかる46億年の地球史』

アンドルー・H・ノール/著 鈴木和博/訳 文響社 2023年発行

私たちの身の回りにある山や海、動植物、資源、空気や水はいったいいつ、どのように誕生したのか?
ハーバード大学の名誉教授(自然史学)で、NASAの火星探索ミッションにも参加している著者が、地球という奇跡の星の誕生から現在に至るまでを、地質学、自然史学的な視点でエキサイティングに読み解く一冊。

4. 酸素と地球――呼吸できる空気はどこから来たのか より

答えは鉄が知っている

はるか昔の風化層からも、24億年前の地球で起きた変化を確認できる。酸素に触れた岩石は化学的に風化して岩石の表面が変質し、やがて土になる。ここで再び取りあげることになるのが鉄だが、その理由は先ほどと同じだ。酸素のない空気や水のもとで鉄を含む鉱物が風化すると、そこに含まれる鉄は溶けて雨や川によって運ばれる。このような状況では、もとの岩石の鉄分と風化した表面の鉄分を比較すると、風化した層には鉄が少ないことがわかる。
一方、酸素が存在する場合は、風化によって分離した鉄はすぐに酸化鉄鉱物になるため、その場所に残ることになる。では、古い風化層のうち、初めてO2接触した証拠が見られるのはいつごろのものだと思うだろうか。24億年前という声が聞こえてきそうだが、まさにそのとおりだ。

さらに、古い黄鉄鉱や石膏に含まれていた硫黄同位体の詳しい分析結果から、24億年以前の地球の硫黄サイクルで重要な役割を果たしていたのは、大気の化学プロセスであることがわかっている。このプロセスは、24億年前を境に止まっている。化学モデルから、この同位体は大気中の酸素レベルが極端に低い場合(現在の10万分の1以下)しか発生しないことが示唆されている。

酸素の生みの親は何者か

しかし、いったいどういうわけで地球は24億年前にここまで劇的な変化を遂げたのか。地質学者の間では、いつごろO2が蓄積しはじめたのかは共通認識になっているが、現在のところ、どのように蓄積しはじめたのかについては意見が分かれている。ここでは、違う説はあることは承知の上で、ポイントになる部分をまとめてみよう。

意見が共通する部分は、少なくとも2つある。そもそも、私たちが呼吸に使う空気中の酸素は、生命がなければ存在できない。地球の大気に酸素を供給できる唯一の方法は、酸素発生型光合成、つまり水が電子を供給し、副産物としてO2が生成される光合成だ。地球の大酸化イベント(Great Oxidation Event 略してGOE)はまさに大変革と呼べる出来事で、その主役となったのが、酸素発生型光合成を起こせる唯一の細菌であるシアノバクテリアだ。そう考えれば、単純な説が思い浮かぶ。シアノバクテリアの進化的起源が誕生したことが、直接GOEにつながったという説だ。確かにこれはわかりやすい説だが、2つの問題がある。1つは地質学的な問題、もう1つは生態学的な問題で、実際にはそこまで話は単純ではない。

24億年前より前の堆積層には、酸素がほとんどなかったはずの地球で、一時的に酸素が生成されたと解釈できる多くの化学的証拠が含まれている。同じように、24億年前の環境変化が記録された化学的証拠の中には、それ以前にも限定的、局所的一時的に酸素が蓄積して可能性を示すものがある。異なる解釈も存在するが、この「わずかな酸素」を示す証拠はたくさんあり、今も見つかりつづけている。その中に1つでも解釈が正しいものがあれば、酸素発生型光合成はGOEの数億年前から始まっていたことになる。分子生物学に基づく推論でも、酸素を生成するシアノバクテリアは、生態系を支配するほど繁栄するずっと前から存在していた可能性を示唆されている。
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酸素が大気や海水面に蓄積されはじめrずっと前にシアノバクテリアが誕生していたと考えられる理由は2つある。初期の海ではガスやイオンが少なかったため、シアノバクテリア以外の光合成細菌が有利だったのかもしれない。あるいは、総合的な光合成のスピードがかなり遅かったため、初期のシアノバクテリアが生成した酸素ガスは火山ガスや鉱物の風化によって失われた可能性もある。おそらく、両方とも正しいのではないだろうか。

現在では、一般的に光合成のスピードに限界をもたらしているのは、太陽光や二酸化炭素、水ではなくリン(DNAや細胞膜、細胞のエネルギー通貨であるATPに含まれる)や窒素(DNAやタンパク質の両方に必要)はじめとする栄養素だ。細菌や古細菌の中には、塩素ガスを生物が利用できる分子に変換できるものもいる(量は限られるが、雷も同じことができる)ため、リンに注目して初期の生物圏を見てみることにしよう。リンを含む岩石が風化すると、そのリンは川に運ばれて海に流れ込む。光合成を行う生物は、そのリンを生体分子に取り込む。その他の生物は食物を通してリンを獲得し、それが食物連鎖を通して受け渡される。最終的にほとんどのリンは、海面からゆっくりと沈降する有機物の粒子として海底に沈む。その多くは堆積物中に存在する細菌によって解放sれ、深海流によって海面に戻されて、当たらな光合成に使われる。

初期の海では、海面から顔を指している岩石はほとんどなかったので、陸地から新たに供給されるリンは少なかった。さらに、リンの循環が活発でなかったため、深海の上昇流によって海面に戻されるリンも限られていたはずだ。私も含め、いくつかの研究室が初期の海で光合成微生物がどのくらいのリンを利用できたかを化学の基本原理を使って推定する試みを行っているが、いずれも結果は「多くはない」というものだった。実際には、初期の生命が利用できる栄養素も大きな制約になっていたはずで、シアノバクテリアなどの細菌による光合成は地球全体を変化させるほどの規模にはならなかったに違いない。

時が経つにつれて、安定した大きな陸地が現れるようになり、侵食されて海に運ばれるリンの量も増加した。やがて別の電子供給源を上回るだけのリンが出回ると、生態系でのシアノバクテリアの重要性も増加することになった。それとともに、世界は変わりはじめる。太陽光が降り注ぐ水中では、生成された酸素が他の電子供給源に取って代わり、生物圏は酸素発生型光合成と酸素が多く含まれた空気に向かいはじめた。シアノバクテリアが生成した有機物が堆積物に埋もれて呼吸できなくなると、O2の蓄積が始まり、もう後戻りはできなくなった。

この見方によると、大酸化イベントは単に地球が物質的に作られた延長線上で起きたわけではなく、生物の進化だけによるものでもない。地球と生命との相互作用こそが、地表の変化をもたらしたのだ。