じじぃの「カオス・地球_389_死因の人類史・第1章・死とは何か?」

半昏睡状態から目覚めた患者が最初に言った言葉 | レナードの朝 | Netflix Japan

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=gN9hiIrAJX0

昏睡状態 突然の脳損傷によって長期的な意識障害に陥ることがある


昏睡状態のUAE女性、27年ぶりに目覚める

2019年4月24日 BBC NEWS
27年間にわたり昏睡状態だったのは、ムニラ・アブドゥラさん。32歳だった1991年、車で学校に息子を迎えに行った際、バスと衝突し、脳に深刻な損傷を負った。

当時わずか4歳だった息子のウマルさんは、ムニラさんと一緒に車の後部座席に座っていたが、衝突の直前にムニラさんが抱きかかえたため無傷だった。車を運転していたのはムニラさんの義理の兄弟だった。
ムニラさんは昏睡状態はその後27年間続いたが、ドイツの病院で昨年、意識を回復した。https://www.bbc.com/japanese/48033282

死因の人類史

【目次】
序章 シエナの四騎士

第1部 さまざまな死因(死とは何か?;『死亡表に関する自然的および政治的諸観察』 ほか)

第2部 感染症黒死病;ミルクメイドの手 ほか)
第3部 人は食べたものによって決まる(ヘンゼルとグレーテル;『壊血病に関する一考察』 ほか)
第4部 死にいたる遺伝(ウディ・ガスリーベネズエラの金髪の天使;国王の娘たち ほか)
第5部 不品行な死(「汝殺すなかれ」;アルコールと薬物依存 ほか)
結び 明るい未来は待っているのか?

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『死因の人類史』

アンドリュー・ドイグ/著、秋山勝/訳 草思社 2024年発行

疫病、飢餓、暴力、そして心臓、脳血管、癌…人はどのように死んできたのか?
有史以来のさまざまな死因とその変化の実相を、科学的・歴史的・社会的視点から検証した初の試み、壮大な“死”の人類史。

第1部 さまざまな死因  第1章 死とは何か? より

死の定義は脳死

救急救命の講習では、たとえば溺れて心臓や呼吸が停止した場合の蘇生法を学ぶ。このようなとき、一旦始めた蘇生措置は決してやめてはならず、かならずや医療従事者が到達するまで続けなければならない。死亡したと誤って判断し、マウス・トゥ・マウスや心臓マッサージを早すぎるタイミングでやめたケースが少なくないのだ。医学的な訓練を受けていなければ、人が死んだと判断することは不可能で、かりに長時間呼吸しておらず、心拍が確認できなかった場合でも死んだと決めつけてはならない。人工呼吸や心臓マッサージを続けることで、脳が生きている状態が保たれているかもしれないのだ。

現在、死の定義は呼吸や心拍の有無、痛覚反応、瞳孔散大ではなく、脳死という考え方が中心になっている。血流量や自発呼吸の喪失は、酸素の欠乏が脳を不可逆的に破壊するのに十分な時間が経過した場合にかぎって死を引き起こす。通常は6分程度である。
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まれにではあるが、このルールにも例外がある。頭部が胴体から切り離されときで、この場合にかぎって医学の心得がない素人でも、患者は創造主に召されて旅立ったと自信をもって判断がくだせるだろう。もっとも、フランス革命の時代、ギロチンで首を切り落とされながら、10秒程度は生きた頭部あったと報告されている。

死亡の判定になぜ脳幹が使われるのだろう? 脳のほかの部位ではだめなのだろうか? 脳幹は脳の下部中央にある。運動神経と感覚神経は脳幹を通り、上部の脳と脊髄をつないでいる。脳から身体に送られる運動制御信号を調整しているのは、意識と覚醒に必要だからで、さらに呼吸や血圧、消化、心拍などの生命を維持する基本的な機能を脳幹は制御している。脳幹が機能しなければ、意識や身体の基本的な機能を維持できないのだ。

また、脳幹には10本の重要な脳神経が直接つながっているので、これらの脳神経を介した反射が機能しているかどうかで脳幹の活動が把握できる。たとえば、瞳孔は明暗に反応して収縮・拡大し、角膜に触れるとまばたきをする。頭を左右に素早く動かすとその動きに合わせて目も動く。喉をつつくとむせたり、咳き込んだりするはずだ。いずれも脳幹が機能しているから生じる反応であり、瞳孔は意識して収縮させることはできない。脳死の診断はMRI(磁気共鳴映像)で脳血流の消失を確かめ、さらに脳波検査で脳波が平坦であることによって確定される。

脳死判定の難しさ

ただ、脳死と脳幹の活動で人間の生死を判断することに問題がないわけではない。脳はほかの臓器とは明らかに異なる臓器であるからだ。脳のある部分は機能してるが、ほかの部分はそうではないとしたらどうだろう? 意識がある状態と脳がまったく活動していない状態の中間にある場合、死を定義するのはとても厄介なことになる。

「昏睡」とは覚醒させることができない意識状態をいう。睡眠と覚醒のサイクルが機能しておらず、言葉や痛みなどの刺激に身体は反応しない。覚醒するには大脳皮質と脳幹が機能していなくてはならないのだ。大脳の表面を覆う大脳皮質は言語、理解、記憶、注意、知覚などの脳の高次な思考をつかさどっている。昏睡は薬物などの人工物質や自然界にある物質による中毒や脳卒中、頭部外傷、心臓発作、失血、グルコース欠乏など多くの原因によって引き起こされるが、このようなダメージを受けると、回復するために昏睡状態に入る。なた、脳損傷の回復を助けるため、薬物を用いて意図的に昏睡状態を誘導する場合もある。通常、昏睡は数日から数週間続くが、何年も経過してから回復するケースもある。

植物状態にある人は、目は覚めているが意識はない。眠る、咳をする、飲み込む、目を開けることはできても、複雑な思考処理はできない。動くものを目で追ったり、言葉に反応したり、感情を表したりすることもない。ケガによる脳の損傷やアルツハイマー病のような神経変性疾患が原因の場合もある。長期間におよぶ植物状態から回復する可能性はきわめて低い。

閉じ込め(ロックイン)症候群は、眼球以外は何も動かせないが、感覚や意識ははっきりしているという恐ろしい状態だ。不眠症療法薬の「ゾルピデム(広く睡眠薬として使用されているベンゾジアゼピン系に近い薬)」に回復をうながす可能性が認められるものの、一般には不治の病態とされている。最悪の場合、眼球運動さえできなくなる。脳幹は損傷しているが、大脳皮質を含む脳の上部はダメージを負っていない。昏睡とまちがわれやすいが、患者は覚醒していながら無力であるため、直面している体験は昏睡状態にある患者とはまったく異なる。現在、真性の閉じ込め症候群は、脳画像診断によって特定することができるようになった。たとえば、患者にテニスをやっていると想像してもらうと、脳の特定の部分が反応して光を発する。

以上のような意識生涯を負っている人たちが置かれている状況については、いまも議論が続いており、その領域は医学のみならず法律や倫理にもおよび、意見の一致を見ることはなかなか容易ではない。「ヒルズボロの悲劇(1989年に英シェフィールドのヒルズバラ・スタジアムで行われたFAカップ準決勝で観客96人が圧死した事故)」で障害を負ったトニー・ブランドの場合も、そうした難題の一例にほかならないのだ。