じじぃの「科学・芸術_995_脳死・脳血流SPECT検査」

意思疎通ができない場合でも、脳の血流や脳波を計測してヒトの意思を読み取りたい。

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=UAjxcb9pagE

循環器画像技術研究会

m3.com学会研究会
●脳血流シンチ検査
1.臨床的意義
 TIAなどのCTにおいて組織学的変化が生じていない症例や発症直後の脳梗塞など、他のモダリティーにて変化を示し難い状態において有用な検査
 アルツハイマー病、てんかん
2.種類
・安静時検査
・DIAMOX薬剤負荷検査(血管を拡張した状態)
・起立負荷検査
http://citec.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=25650

脳死

立花隆/著 中公文庫 1988年発行

脳死の脳は本当に死んでいるのか より

ここまでに見てきたところでわかるように、同じ患者が、脳幹死説をとるか、全脳死説をとるか、あるいは全脳梗塞説をとるかによって、脳死と判定されることもあれば、まだ生きていると判定されることもある。脳死判定とは、脳死の定義によって大きく左右される。
脳死をどのように定義するかで、その判定基準も、検査の方法も、判定時期もちがってくるのである。
    ・
脳梗塞説に従えば、脳血流が全面的に停止し、脳細胞のトータルな壊死が開始されることが脳死である。
脳細胞は、前に述べたように、血流によってその生命を維持している。血流から酸素というエネルギー源と、グルコースという物質代謝の基とを受け取ることで脳細胞の生命は維持されている。脳細胞のエネルギー消費は激しいから、血流が停止すれば、ほぼ数分以内に脳細胞の死がはじまる。ただちに「すべての細胞が同時に」死ぬわけではないが、血流が全面的に停止すれば、やがてほどなくして、脳細胞はすべて死なざる得ないのである。
死んだ脳細胞は、自己融解という現象を起こす。卑俗な表現を用いれば、脳がドロドロに融けていくという現象である。ひどい場合には、解剖して脳を取り出そうとしても、指の間から流れ落ちてしまうほどであるという。これは、脳細胞の中にある蛋白分解酵素が、細胞の死によって活性化するためであるといわれる。自分で自分を融かしてしまうので、自己融解といわれるのである。
自己融解は、脳細胞が死んでから起る死後現象である。細胞の死はその前に起きている。そして、細胞の死が起る前に、脳の機能喪失が先だっている。
    ・
細胞の中に、リソソームという直径1ミクロン程度の小さな球体が250個ばかりある。この中に、実は消化酵素が入っている。リソソームは細胞内の消化器官なのだ。何を消化するのかといえば、細胞の内部に侵入してきた異物とか、病気や熱、化学作用などで破壊された細胞の一部など、細胞にとって不用、無用、有害なものを消化して取り除いてしまうのである。この消化酵素は働きが強いので、ふだんはリソソームの膜の中に閉じ込められおり、必要なときだけ、必要なものに対してだけ働きかけるという精妙な仕掛けになっている。ところが、血流が停止し、血流が運んでくる酸素とグルコースのみを頼りに生きていた細胞がそのために死んでしまうという事態にたちいたると、リソソームの膜が破れて、中から消化酵素があふれ出し、死んだ細胞全体を消化してしまおうとする。これが自己融解なのである。人間の胃や腸の中に閉じ込められていた消化酵素が、人の死とともに胃腸の壁を突き破って外に流れ出し、肉体を内側からどんどん融かしていってしまうというような光景を想像していただければ、この現象の異様さがわかるだろう。
    ・
ともかく、神経細胞として信号伝達という機能は停止してしまっているが、細胞としては生きているという状態があることは確かである。
この眠れる森の美女が後に生き返れば問題はないのだが、眠ったままでやがて死んでしまったときには、どの時点で眠りから死に移行したのかは、判定が難しい問題なのである。脳死とのかかわりでいえば、脳死判定が正しく眠りから死に移行した後でおこなわれるか、それとも眠りのうちにおこなわれてしまうのか、判定が難しいということである。
このように、微小循環が残れば、判定が難しくなる。脳血流測定といっても、微小循環を充分にはとらえきれないというのであれば、確かに脳血流測定も、それだけでは、脳死を説明する充分な方法とはなりえない。
    ・
核医学の専門家である飯尾正宏・東大教授に聞いてみた。
「SPECTの利用技術がすすみましてね。前はPETでしかできなかったようなことが、だいたいこれでできるようになりました。脳血流がどうなっているか、脳代謝がどうなっているかというようなことが、全部わかる。いま頭がボケる病気でいちばん恐れられているアルツハイマー病ね、これは脳全体の移植が原因だといろんなことがいわれていたが、そうではなくて、頭頂葉から側頭葉にかけての代謝血流がごっそり抜けるのが原因と、わかるようになった。あるいは、ブドウ糖アイソトープを入れて代謝を見ると、言葉を用いているときに人の頭は左脳がもっぱら働いているとか、ウツ病の人の頭は右の前頭葉と側頭葉の間の代謝が欠損しているとか、テンカンの発作時はこれが亢進するとか、そういうことがわかるようになった」
――その代謝血流が抜けるとか、欠損するとかいうのは、脳細胞がなくなってしまうということなのですか。
「いや、細胞はあるけれど、脳の刺激伝達物質を受容しなくなってるんですね。細胞は生きているけれども、働きがない。SPECTの強みはここなんです。X線CTはそこにものがあるかないかという解剖情報しか与えてくれない。しかし、こちらは脳の中でどういう化学作用がおこなわれているかという化学情報を与えてくれる。どういうアイソトープを使うかで、多面的な情報が得られる。しかも、それが量的に計測できる。細胞が1分間にブドウ糖を何グラム消費するというようなことがわかる。情報量において圧倒的な差があります」
――この機械は脳死判定にも使えるわけですね。
「使えるでしょう。脳血流があるかないかは簡単にわかるわけですから。脳死もわかるはずです。アイソトープにヨード123のアンフェタミン誘導体(IMP)を使うと、脳のどの部分がやられたのかもわかります。皮質のどこがやられたとか、基底核がやられたとか、わかりますから、植物状態も、区別できますね」