じじぃの「科学・芸術_993_脳死・脳・心臓・肺の相互依存関係」

Losing Your Mind? Great Thinkers on the Brain

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=I6RU_j5nYkA

こころはどこに?脳の歴史をビジュアル・ストーリーで振り返る!

2016.02.08 POST
紀元前460年頃、医者ヒポクラテスはいままで、超自然的な力(迷信・呪術)や神々仕業と考えられてきた病気を、自然的原因をもっているとしました。
そんなヒポクラテスは「人の喜び、笑い、快感、勇気が生まれる場所は脳であって.それ以外のどこでもない」としています。
その後、プラトンは、こころの座を脳と脊髄にあるとします。脳には理性・知性で代表される「神の座」、胸髄には「人間の精神」の中の情熱を作る動物的な魂が、腹髄には食欲をつくる植物性の魂が宿るとしました。
一方、プラトンの弟子、アリストテレスはこころは心臓で、脳髄は心臓から循環してきた血液を冷却する場だといいます。
https://1post.jp/945

脳死

立花隆/著 中公文庫 1988年発行

脳死のどこが問題なのか より

心臓死で心臓が停止したとき、心臓の細胞がみな死んでいるわけではない。細胞レベルで見ればほとんどの細胞が生きている。他の臓器や組織もほとんど生きている。
人間は1つのシステムとして生きている。システムが死んだときが人間の死である。しかし。システムが死んだときに、システムを構成している1つ1つのサブシステムや構成部品がみなただちに死んでしまうわけではない。
    ・
脳は、重量比で体重のわずか2.2%しか占めていないのに、全身の酸素消費量の20%をひとりで消費してしまい、血糖の80%を消費してしまうというほど激しいエネルギー消費をしているのは、その神経回路網(脳全体では1000億個のニューロンがあるとされる)の天文学的量の信号伝達のためだった。そこで用いられているエネルギーを電力に換算すると、20ワットに相当するという。脳で消費しているエネルギーで、20ワットの電球がつけられるのである。一見何の運動もしていない脳で、それあへのエネルギー消費がおこなわれているということは驚異である。
このエネルギーの供給源が酸素とブドウ糖であり、それは両者とも、血液にのせて運ばれてくるのだから、血流が止まれば脳も死なざるをえない。つまり、脳は血流を送り出している心臓に依存して生きている。これが心臓が止まれば脳も必然的に死ぬ理由である。
血流が確保されても、そこに酸素が十分に供給されていないとやはり脳は死ぬ。だから、脳は肺にも依存して生きている。
同様な、脳は血液中のブドウ糖供給に依存しているから、その供給システムにも依存して生きている。このシステムは消化器官から肝臓まで含む大がかりなシステムで、さまざまの状況変化に対して耐久力があるから、これはひとまずおいて考えることにしよう。
すると、人間にとって最もヴァイタルな器官は、脳、心臓、肺ということになる。この三者の相互関係をみていくと、まず、脳が心臓と肺に完全に依存しており、どちらが欠けても生きていけないということがここまでのところで明らかになった。
では、心臓と肺の関係はどうか。これも完全な相互依存関係にある。
心臓は先に述べたように、特に運動量が激しい器官で、酸素消費も激しい。酸素なしには、たちまちまいってしまう。また、肺は、あらゆる臓器と同様、心臓から送られてくる血液なしには、生きていくことができない。
では次に、心臓は脳に依存しているのか、肺は脳に依存しているのかという問題がある。
結論からいってしまえば、肺は脳に依存している。脳幹部にある呼吸中枢が肺に呼吸を命じているのであって、脳が死ねば呼吸中枢は機能を停止する。それによって、肺自体のガス交換のメカニズムは健全であっても、肺は動かなくなる。
それに対して、心臓は必ずしも全面的には脳に依存していない。脳幹には循環中枢もある。しかし、循環中枢がやられたらただちに心臓が停止するというような直接の依存関係はない。心臓はある程度自立しているのである。だから、脳が死んでも心臓は生きているという状況が生まれる余地が出てくるのである。詳しくは後に述べる。
脳、心臓、肺は、相互に依存しあっているが、完全な相互依存関係にはない。心臓の脳に対する関係だけに特別にちがっている。これが脳死という奇妙な状況を生むことになった根本にある構造である。
それでも人工呼吸器が登場するまでは、心臓も脳に依存しており、三者は、完全な相互依存関係にあった。なぜなら、心臓は肺に依存し、肺は脳に依存しているからである。脳が死んで呼吸中枢が機能を停止すれば、肺は機能を停止する。肺が機能を停止すれば酸素が供給されないから、心臓も必然的に停止することになる。自然状態では肺を媒介にすることで、心臓は脳に依存しているのである。
    ・
肺の脳への依存が断ち切られたことによって、心臓の、肺を経由しての脳への依存も断ち切られたことになる。いまや心臓も、肺を経由して機械の力に依存している。人工呼吸器を止めれば、酸素供給が断たれて、心臓も間もなく停止する。しかし、人工呼吸器が動いていれば、心臓も動きつづけることができる。
心臓と人工呼吸器で動く肺とが互いに助けあって機能を維持している間に、脳が死んでしまう。
これが脳死の基本構図である。三者の相互依存関係の中に、機械を導入したために、相互依存しあう三者の共倒れという形で起きた従来の死に対して、スイッチを切らなければ完結しない死という状況が生まれたわけだ。
だが、これは本当なのだろうか。

呼吸は脳に依存しているが、心臓は脳に依存していないというのは本当だろうか。