じじぃの「科学・芸術_526_大腸・短鎖脂肪酸(SCFA)」

食物繊維で免疫改善!クロストリジウムたちの働き 腸内空間メイキング 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=kRD3n1gDtNI
腸内細菌が短鎖脂肪酸を産出している
(mamekando.net HPより)

NHKスペシャル 「人体 神秘の巨大ネットワーク(4)万病撃退!腸が免疫の鍵」 2018年1月14日 健康ch
【司会】タモリ山中伸弥久保田祐佳 【ゲスト】田中将大小島瑠璃子
●「クロストリジウム菌」の意外な役割
ひとたび、腸で免疫のバランスが崩れ、免疫細胞が暴走を始めると大変なことに。
花粉や食べ物、自分の体の一部まで「敵」と誤って攻撃し、さまざまなアレルギーや免疫の病を引き起こしてしまう。どうすれば、腸内細菌が出す“メッセージ”を活用してこの暴走を抑え、アレルギーなどを根本解決できるのか。最先端の顕微鏡映像や高品質のCGを駆使して、知られざる腸の力に迫る。
腸に7割が集中するといわれる免疫細胞。
患者さんの腸内で減少していたクロストリジウム菌という腸内細菌は、腸の中で何をしているのでしょうか。その謎を解く鍵は、免疫研究の世界的権威、大阪大学特任教授の坂口志文さんが発見した「特別な免疫細胞」にありました。これまで免疫細胞と言えば、外敵を攻撃するのが役目と思われていましたが、坂口さんが新たに発見された免疫細胞は、その逆。むしろ仲間の免疫細胞の過剰な攻撃を抑える役割を持つことが突き止められました。その免疫細胞は、「Tレグ(制御性T細胞)」と名付けられています。免疫細胞の中には、「攻撃役」だけでなく、いわば「ブレーキ役」も存在していたのです。このTレグの働きで、全身の各所で過剰に活性化し暴走している免疫細胞がなだめられ、アレルギーや自己免疫疾患が抑えられていることがわかってきました。
なんとそんな大事なTレグが、腸内細菌の一種であるクロストリジウム菌の働きによって、私たちの腸でつくり出されていることが、最新研究で明らかになってきました。
https://www.nhk.or.jp/kenko/special/jintai/sp_6.html
『土と内臓 (微生物がつくる世界)』 デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー/著、片岡夏実/訳 築地書館 2016年発行
大腸の微生物相を変える実験 より
大腸は人間の消化管の終点かもしれないが、人間にはない多糖類分解酵素を持った細菌にとってはここが始まりだ。私たちの内なる聖所の奥深く、微小な錬金術師たちは、大腸を、人間が消化できない複合糖質を発酵させる変成の大釜として使っているのだ。体内でも対外でも、発酵は有機物を分解するもう1つの手段だ。ただし、適切な微生物が必要だ。たとえばバクテロイデス・テタイオタオミクロンは、複合糖質をばらばらにする酵素を260種類以上作る。対照的に、ヒトのゲノムはほんの少ししかコードしていない。私たちは複合糖質を分解する酵素を20ほどしか作れないのだ。
大腸は、消化できないものを集めて溜めておくしか能のない、つまらないゴミ箱などではまったくない。 それどころか、このあまり愛されることのない場所には、ヒト腸内微生物相で優位を占める2つの門の発酵細菌――バクテロイデス門とフィルミクテス門――のおかげで、すばらしい化学物質が集まっているのだ。その代謝産物は短鎖脂肪酸(SCFA)と呼ばれる、薬効成分の宝庫だ。短鎖脂肪酸は究極のリサイクルだと考えられる――細菌は人間が消化できないものを食べて繁栄し、その廃棄物で今度は人間が成長するのだ。
動物と人間両方の研究から、特に3種のSCFA――酪酸、酢酸、プロピオン酸――には薬効があることがわかっている。SCFAは、人間の代謝と免疫反応に欠かせない多数のプロセスと一体のものだ。免疫細胞と大腸内部を覆う細胞双方の細胞受容体を結ぶことで、それは行われる。SCFAが健康に作用する細胞レベルのメカニズムを、研究者は完全に理解しているわけではないが、全体像は明白だ。私たちが大釜を発酵性の糖質、要するにマルチでいっぱいにすると、微生物の錬金術師たちがそれを栄養素という黄金に変えてくれる。そして、SCFAは腸管壁浸漏症候群への天然の薬でもあることがわかっている。歯列矯正装置が歯のすきまを狭めるように、それは、大腸内壁の細胞の間隔を密にする。こうすることで、内毒素が血流に入りこんで全身に炎症を起こすことが防がれる。
ある事例では、マウスに導入されたビフィドバクテリウム種の細菌がアセテートを生産し、それは今度は腸の内層の浸透性を大幅に低下させることを、日本の研究者が発見した。これによって、大腸菌の生産する毒素(志賀毒素)が腸の外に漏れだし、マウスが死ぬのを防ぐことができる。
主要なSCFA3種の運命はそれぞれ違う。酪酸の大部分は大腸内にとどまっている。栄養状態のいい細胞は、健康でよく機能する組織や臓器の基礎であり、大腸も例外ではない。大腸内層の細胞はエネルギー要求量が高く、酪酸をむさぼり食ってしまう。酪酸は大腸の栄養エネルギーの70から90パーセントを供給する。このように栄養を直接吸収するのはきわめて異例だ。ほとんどの細胞は血液が必要なものを運んでくるのに頼っている。酪酸は大腸の細胞に、大腸壁の健康維持に重要な粘液と抗菌物質の放出もうながす。またそれは、大腸がんにつながる細胞プロセスを弱めたりする上で中心的な役割を果たす大腸細胞の特定の受容体と結びついている。
酢酸とプロピオン酸は、血流に溶け込んで体内の別の場所――肝臓、腎臓、筋肉、脳など――に運ばれる。酪酸のように、これらも組織を構成する細胞のエネルギー源となる。プロピオン酸は特に、もう1つの面白い効果を人間に及ぼす。食べる量を減らすのだ。プロピオン酸が脂肪細胞の細胞膜受容体にドッキングすると、受容体はレプチンというホルモンを放出する。レプチンが脳に届くと、脳は「満腹だ。食べるのをやめろ」というわかりやすいメッセージを送る。
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無菌マウスを使った一連の実験では、研究者は数種のSCFAを混合したものをマウスの飲み水に加えて、腸管関連免疫組織のTreg(制御性T細胞)の値を測定した。SCFAを与えられたマウスはそうでないものより、はるかにTregの数値が高かった。プロピオン酸は特にTregの生成と関係していた。
マウスによる別の研究で、ジョージア・リージェンツ大学の研究チームは、酪酸がどのように免疫細胞と相互作用するかを深く掘り下げた。大腸に酪酸があると、それは腸を取り巻く免疫組織内の樹状細胞やマクロファージと結びつく。すると樹上細胞とマクロファージはTregの発生をうながす。酪酸は樹状細胞とマクロファージを活性化させ、他の免疫細胞にも抗炎症サイトカイン(細胞シグナリングにおいて重要な小さいタンパク質、メッセージ物質)の放出を促進させる。
これらもやはりマウスによる研究だが、細菌の代謝物がヒトの免疫に同様な役割を持つことを示唆している。たとえば酪酸の注腸が、クローン病や大腸炎によって大腸が慢性的に炎症を起こしている患者の治療として行われることを考えてみた。そのメカニズムはマウスのものと似ている――酪酸が炎症を鎮めるTregを生産する遺伝子を活性化させる――のかもしれない。研究者は、酪酸産生菌を基礎にした治療法の関係を積極的に追求している。