じじぃの「科学・芸術_994_脳死・脳幹死説批判」

脳死宣告された13歳少年 臓器提供サイン後奇跡的に生還

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=MDK9hwpN-8Y

脳死

ウィキペディアWikipedia) より
脳死(brain death)とは、ヒトの脳幹を含めた脳すべての機能が廃絶した状態のことである。
一般的に、脳死後に意識を回復する見込みは無いとされる。実際には国によって定義が異なり、大半の国々は大脳と脳幹の機能低下に注目した「全脳死」を脳死としているが、イギリスでは脳幹のみの機能低下を条件とする「脳幹死」を採用している。日本では、脳死を「個体死」とする旨を法律に明記していない。

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脳死

立花隆/著 中公文庫 1988年発行

脳幹死説批判 より

イギリスの王立医学会が1976年に発表した脳死判定基準は、脳幹死説に立ち、はじめから毛は検査をオミットしていた。このようなことは世界でも珍しい。いまもって、脳波検査を全く不要とする判定基準は、世界でも国家レベルではイギリスだけなのである。そもそもイギリスでは脳波計の普及率が低い(当時、医療機関の10%にしかなかった)という理由もあったが、主たる理由は、脳幹死説をとったからである。
それに対して、イギリス国内でも、脳は検査が必要という声が一部ではかなり強かったが、学界では主流になれなかった。
そこに、BBC放送が、具体的な症例を4つあげて、このような症例の場合「イギリス基準では、生きている人間も死んだと判断される可能性がある」と主張するショッキングな番組を制作して放送したのである。
4つの症例は、いずれもアメリカで実際に起きた例だった。アメリカでは、脳波も判定基準に入っている。それ故に、「深昏睡」「無呼吸」「脳幹反射欠如」の3つからなるイギリスの判定基準は満たしているからイギリスでは脳死と判定されるが、脳波があるために、アメリカの判定基準は満たさず、アメリカでは脳死と判定されないという事例があるわけである。
このような事例はかなりの確率で実際にあるのである。早い話、厚生省調査のB群で脳波があった事例もそのような一例といってよいわけだ。
脳内出血とか脳挫傷といった病変が大脳で起こり、それが原因で脳浮腫を招き、行き場を失った脳実質がヘルニアを起こして脳幹部を圧迫するという形で、病変が上から下に進行し、大脳死から脳幹死にいたるというのが脳死の典型的なコースであると前に説明した。
しかし、すべての脳死が典型的なコースをたどるわけではない。
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前章では、英国王立医科大のクリストファ-・パリスの脳幹死説を批判した。脳幹死をもって人の死とするパリスは、脳波検査を無意味とする。脳幹が死んでいれば、脳波があろうとなかろうと、その人は死んでいるのだから、脳波検査は無意味だというのである。
前にも述べたが、脳幹機能の検査だけで脳死を判定してしまうことにすると、相当数の人が脳波のあるうちに脳死と判定されてしまうことになる。脳幹死となっても脳波が残っている人は、さまざまの調査によって大きく割合を異にしているが、平均すると2割あまり、多い場合には9割以上、少ない場合でも1割程度は必ずいるのである。
パリスがいうように、脳幹死になれば、脳波があったからといって、その後生き返ったという人はいない。脳幹死と診断された人は、その後何日かしてみな心停止にいたっている。そして脳幹死から心停止にいたる間のどこかで、脳波があった人も脳波が消えている。
その人たちの脳波がどれだけ持続したか。脳幹死の診断から心停止にいたるまで脳波を継続的に記録した研究があまりないので、はっきりしたことはわからない。
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東海大学の篠原幸人教授(神経内科)は、日本移植学会が主催した「脳死シンポジウム」(83年)で脳血流停止の確認検査にはいろいろあるが、どのような方法を用いても、脳血流停止の完全な確認は困難であるという見解を次のように述べている。
「確かに脳の血流が完全にゼロの状態が10分間ないしは20分間続きますと、脳にはまったく不可逆性の、元に戻らない変化が生じるということは、よく知られております。
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最近はポジトロンとか、エミッションCTを使った新しい脳血流の測定法がいろいろ開発されていますが、これらの方法はすべてベッドサイドで簡単にできる検査法ではありません。脳死の患者さん、あるいは脳死に近い患者さんを人工呼吸器をつけたままにして、ほかの階の検査室へ、あるいはほかの棟の検査室へ連れていくことは、ほとんど至難のわざでして、なかなかこういう方法は臨床的には使えません。最近、さらにCTを用いて脳死を判定しようという試みを、いろいろやってみまして、造影剤を入れてその前後でCT上に血管と思われる像がでるかどうか、あるいはコールドキセノンという、アイソトープでないキセノンを患者さんに吸入させて、それが脳の中にはいっていくかどうかを見る方法等もやってみましたが、やはりゼロという血流を出すのは非常に難しい。
ダイナミックCTと言いまして、CT像を秒の単位で連続的に撮りまして、造影剤を入れて変化を見る方法も行ってみました。(中略)これでもNIHの診断基準のように、脳血流がゼロであることを完全に証明するのは、臨床的にはなかなか困難だろうと思います。そういうことで、この他にも脳循環の測定法はいろいろありますが、どうも私どもが見たところでは、脳血流ゼロを証明する方法はなかなかない。したがって脳死の判定基準について、現在のところ、脳血流測定ですべて証明できると考えるのは、難しいのではないかと考えております」(日本移植学会編『脳死と心臓死の間で』)
脳血流ゼロの確認はかくも困難なのである。
厚生省の調査で、脳血管撮影とCT検査以外の何らかの方法で脳循環を測定した例が、各群についてそれぞれ若干例ずつあったが、14例のうち5例は脳循環があるのに脳死と判定されていたのである。具体的にどのような方法を用いたのかは明らかでないが、ここに篠原教授があげた方法のいずれかを用いたものと思われる。
どのような方法を用いたにしろ、脳循環の存在が確認された例がそれだけあったということは重大である。これまた、脳循環の停止をもって脳死とする立場からは、絶対に容認されないことだからである。