じじぃの「宮崎駿・第8章・ハウルの動く城・戦争!ジブリアニメの世界」

映画『ハウルの動く城』より「人生のメリーゴーランド」/音楽:久石 譲

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Hnt32LNVALk

ジブリアニメ大解剖〉『ハウルの動く城』主人公ソフィーはなぜ唐突に年老いたり若返ったりしたのか…『ラピュタ』からつながるラストシーンの意味とは

2023年6月3日 Infoseekニュース
ジブリ映画『ハウルの動く城』は、小説『魔法使いハウルと火の悪魔』を元にしているが、原作ではほとんど戦争は描かれてないという。では一体なぜ原作にはない「戦争」というテーマを宮崎駿は『ハウル』に取り込んだのか。評論家・岡田斗司夫が読み解く『誰も知らないジブリアニメの世界』 (SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
https://news.infoseek.co.jp/article/shueisha_134436/

『誰も知らないジブリアニメの世界』

岡田斗司夫/著 SBクリエイティブ 2023年発行

第8章 戦争は続くよどこまでも――『ハウルの動く城』 より

原作では描かれなかった「戦争」

千と千尋』で歴史的大ヒットを飛ばした宮崎駿が、次に手がけたのが『ハウルの動く城』です。公開2日で110万人を動員し、当時の日本映画としては歴代最高のオープニングを飾ったヒット作となりました。

この映画でまず特筆すべきポイントは、これまでの宮崎駿の作品群とファンタジー的要素の基調を同じくしながらも、「戦争」や「戦い」というテーマを描き、それらと関わりのある登場人物やその家族をメインに描いているという点でしょうか。

イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズファンタジー小説魔法使いハウルと火の悪魔』を原作とし、多くの設定やストーリーを踏襲しているものの、原作ではほとんど戦争は描かれません。

果たして原作にはない、戦争というテーマを宮崎駿はなぜ『ハウル』に取り込んだのでしょうか。

愛国心の肥大した国家

そもそも、ソフィーとハウルたちが生きる世界は、どのような時代として描かれているのでしょうか。まず注目してほしいのが、冒頭にソフィーが妹の店へ行くために帽子屋を出るシーンです。

このシーンで、ソフィーが帽子屋を出るとまず空を見上げます。国旗がなびき、飛行機械が空を飛んでいます。その後、勇ましい音楽とともに民衆が旗を振り、軍人にエールを送ります。たくさんの花びらが舞っているのも見えます。

いわば、一般市民たちの「愛国心」が強くうかがえる一連のシーンとなっているわけですが、この様子は、まさに第一次世界大戦頃のヨーロッパ諸国に酷似しています。

第一次世界大戦前後のヨーロッパ諸国は、それまで貴族や王家に支配されていた国家が次々と勃発した市民革命により解体され、どんどん民主化が進んでいた時期でした。歴史の主役は王族や貴族から、民衆へ。民族や地域をアイデンティティにした国民国家という現在まで続く国家観、民族観が全ヨーロッパに飛び火していった熱狂の時代です。

それと同じように『ハウル』の世界でも、民衆の愛国心が膨れ上がり、戦争へと向かう軍人に熱烈な声援を送っている。宮崎駿は、冒頭のシーンで第一次世界大戦前後のヨーロッパを参照し、それを通じて時代の戦争を風刺しようとしたのではないでしょうか。

実は、この狂気と興奮が入り交じった光景は、かつてのヨーロッパだけではなく、日本にも存在していました。日本が無謀な戦争に突入していった第二次世界大戦もその1つでしょう。ただ宮崎駿は、終戦時で4歳。この頃の記憶はいまひとつ鮮明ではないはずです。

もう1つの熱狂の時代は、高度経済成長期。そしてその象徴としての、1964年の東京オリンピックです。第二次世界大戦に負けて「もう国に騙されるのは懲り懲りだ!」と感じていた日本人が、祭事1つで、急に「日本万歳!」と手のひらを返して熱狂の渦を起した一大イベントです。

当時23歳。東映動画に入社して間も無い宮崎駿は、うまく結果が出せず暗中模索を繰り返していました。世間のサラリーマンの暮らしは経済成長に合わせて日々進歩していくなかで、自分は外界から隔絶された薄給の新人アニメーター。おそらく宮崎駿からすれば東京オリンピックは、自分とは関係ない、ほとほと馬鹿げたものだったに違いありません。

劇中でも、ソフィーは熱狂する民衆に加わらず、淡々と生活をしている点からも、民衆が一体となった戦争や、強烈な愛国心に対し、一歩引いた宮崎駿の視点をうかがうことができます。