じじぃの「カオス・地球_374_世界はなぜ月をめざすのか・第6章・月の水の起源」

「月の水」想定より大量に存在(2020年10月27日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aVtEbXdQdM0

NASA 月の南極の地下に存在する水の可能性を示すマップ


月の永久影領域


月にヒューロン湖に匹敵する水が存在する可能性。その源は地球の上層大気

2022-05-11 SORAE
月に水が存在することは確実視されています。水の有無は、NASAのアルテミス計画など、人類が月に長期に渡って滞在する計画の鍵を握っていると言えるでしょう。
https://sorae.info/astronomy/20220511-moon-water.html#google_vignette

世界はなぜ月をめざすのか

【目次】
はじめに
序章 月探査のブーム、ふたたび到来!
第1章 人類の次のフロンティアは月である
第2章 今夜の月が違って見えるはなし
第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
第5章 「かぐや」があげた画期的な成果

第6章 月の「資源」をどう利用するか

第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア
第8章 今後の月科学の大発見を予想する
第9章 宇宙開発における日本の役割とは
終章 月と地球と人類の未来

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『世界はなぜ月をめざすのか』

佐伯和人/著 ブルーバックス 2014年発行

アメリカのアポロ計画が終了してから40年余――その間、人類は月に行っていません。
人々のあいだにはいつしか「いまさら月になど行く必要はない」という認識さえ広まってきています。
しかし、それは月での優位を独占しようとするアメリカの広報戦略にはまっているにすぎません。
じつは世界ではいま、アメリカ、中国、ロシアなどを中心に、月の探査・開発をめぐって激しい競争が水面下で始まっています。30~40年後には、月面基地が完成するともみられているのです。

第6章 月の「資源」をどう利用するか より

限りある一等地「高日照率領域」

いきなり「もの」ではなく「場所」を資源として紹介しますが、驚かないでください。場所も立派な資源です。「高日照率領域」という、日の当たる時間が長い領域のことです。

なぜ、日照がそんなに大切なのでしょうか。それは、月世界では太陽光がもっとも有効なエネルギー源だからです。太陽光をエネルギーに変えるもっともよく使われる手段は、太陽電池による発電です。電池という名前はついていますが、太陽電池は電気をためる能力はなく、太陽光の当たっている間にしか発電しません。

第2章でお話ししましたが、月の1日は地球の4週間にあたるので、夜は2週間も続きます。月のほとんどの場所はその間、まったく日光が当たらなくなります。日光が当たらない場所はマイナス170℃以下になってしまうので、探査機の電子部品を壊さないためには暖めておく必要があります。しかし、夜間は太陽光発電ができないので、貴重なバッテリーの電力を消費して暖房しなくてはなりません。したがって、日光の当たらない時間は、月面の機器にとって厳しいサバイバルアワーなのです。

「永久影領域」は水の貯蔵庫か

永久影領域はありませんでしたが、逆に1年中太陽光が当たらない「永久影領域」は存在することがわかりました。日照領域と同じく、「かぐや」のレーザー高度計より再現した地形モデルをもとにシミュレーションした結果が、図(画像参照)です。永久影領域は北極と南極のクレーター内部に集中しています。

永久影は、なぜ注目されているのでしょうか。それは、氷が存在するかもしれないからです。ここでいう氷とは、水(H2O)の氷です。宇宙には極低温や高圧力の世界があるので、二酸化炭素の氷(ドライアイス)やメタンの氷など、H2Oでない氷も存在します。そこで科学者は単に「氷」と呼ばず、H2Oの氷である場合は「水氷(みずごおり)」という呼び方をします。ただ本書では、単に「氷」という「水氷」のことだと思ってください。

氷があれば、将来、人類が月基地をつくったときに、そこから飲み水をつくることができます。また、太陽電池による電力で水を電気分解すれば、酸素ガスと水素ガスになります。酸素ガスは私たちが呼吸するうえで必須の気体ですし、どちらも液化することによってロケット燃料になります。「かぐや」を打ち上げたH-ⅡAロケットの燃料は、まさに液体酸素と液体水素でした。もし、永久影領域に氷があれば、人類が月基地で生活するための資源だけではなく、その先の小惑星や火星へ行くための燃料まで得られるのです。

しかし、月に水があるとしたら、それはどこからもたらされたのでしょうか。月表面の岩石を調べたかぎりでは、地球には豊富にあるOH基を含む鉱物が、月の岩石中の鉱物には見あたりません。マグマの海の時代から、月は水分が欠乏していたのです。

月の水の起源には、おもに3つの説があります。
1つは、彗星説。彗星は本体の大部分が水氷でできていると考えられています。彗星が永久影に直接、もしくは永久影の地殻に衝突すると、氷はいったん蒸発したあと、永久影の極低温のレゴリス(月の表面にある砂)に霜のように凍りつきます。こうして捕獲された水が、何億年も蒸発せずに保存されているという考えです。彗星でなく水分を含んだ隕石衝突でも、同様に水の捕獲が起こりえますが、これも彗星説の仲間として含めておきましょう。

2つめの説は、地下から来た水が、永久影に捕獲されたとする説です。月が水に欠乏した天体であることは間違いありません。しかし、最近の精密測定によって、アポロ計画で持ち帰った火山ガラスの中に水が検出されました。その結果、マグマの中に数百から1000PPM(1PPMは全体の重さの1000万分の1の重さ)の水が含まれる可能性が示されました。
地下深くに水が存在するのであれば、火山ガスとして表面にしみ出した水蒸気が、永久影に捕獲されて凍りついているかもしれません。

第3の説は、太陽風の中に含まれている水素がレゴリスの中に打ち込まれ、レゴリスの酸化鉄から酸素を奪うことで水がつくられるという説です。この水も、月表面を水蒸気として漂ったあと、永久影に捕獲されているかもしれません。

彗星が永久影に直接降ってくるケースのほかは、水蒸気の月面での移動と、永久影による捕獲のしくみの存在が前提となっています。しかし、この移動と捕獲のしくみが本当に起きているかどうかは、実際には確認されておらず、今後の探査が必要です。

そもそも、なぜ永久影に氷があると考えられはじめたのでしょうか。最初の徴候は、1994にアメリカが打ち上げた月探査機クレメンタインによる電波探査でした。クレメンタインが永久影に撃ち込んだ電波の反射波を調べた結果、氷の存在を思わせる特徴があったのです。

次に1998年、アメリカが打ち上げた月探査機ルナ・プロスペクターは、中性子分光計で水素原子の濃集を南北両極で観測しました。中性子分光計とは、中性子の量と速度を測る装置です。宇宙船が月表層の物質にぶつかると、高速の中性子が飛び出します。
この中性子が水素原子に当たると、減速されて速度が遅くなります。この速度の遅い中性子の量を調べれば、水の主要構成元素である水素の量が推測できます。ただ、中性子分光計は数十キロメートルの範囲を平均化した値しか測定できないので、永久影領域と完全に一致しているかがはっきりせず、この水素原子が永久影領域の水分子に由来するものはどうかは、わかっていません。

さらにアメリカは、2009面に月探査機エルクロスの上段ロケットを南極のカベウスクレーターに激突させ、舞い上がった塵が吸収する光の波長から、水を見つけようとしました。その結果、氷を示唆する光の吸収が得られましたが、まだまだ科学者の大半を納得させるにはいたっていません。

その後も水の証拠を得ようと数々の試みがなされていますが、決定的証拠はいまだに得られていません。着陸による直接探査を実行しないかぎり、水の存在の有無は決着がつかないでしょう。