じじぃの「カオス・地球_375_世界はなぜ月をめざすのか・第7章・月の開発競争」

インドの無人探査機が月面着陸に成功 モディ首相も祝福(2023年8月24日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=4CVR1Hl5UAY

NASAによって製作された「ブルー・マーブル」の画像

左が2001年、右が2002年に作成されたもの

インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が2023年8月、世界で初めて月の南極に着陸した


インド・チャンドラヤーン3号の月着陸は今夜21時半ごろ(日本時間)。20時50分より配信あり

2023 Aug 23 TechnoEdge
インドの月探査機チャンドラヤーン3号が、日本時間8月23日21時ごろより、月の南極付近への軟着陸を試みます。着陸予定時間は21時34分。
もし成功すれば、インドはロシア(旧ソビエト連邦)、米国、中国に続く4ヵ国目の月面軟着陸成功国となります。
https://www.techno-edge.net/article/2023/08/23/1786.html

世界はなぜ月をめざすのか

【目次】
はじめに
序章 月探査のブーム、ふたたび到来!
第1章 人類の次のフロンティアは月である
第2章 今夜の月が違って見えるはなし
第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
第5章 「かぐや」があげた画期的な成果
第6章 月の「資源」をどう利用するか

第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア

第8章 今後の月科学の大発見を予想する
第9章 宇宙開発における日本の役割とは
終章 月と地球と人類の未来

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『世界はなぜ月をめざすのか』

佐伯和人/著 ブルーバックス 2014年発行

アメリカのアポロ計画が終了してから40年余――その間、人類は月に行っていません。
人々のあいだにはいつしか「いまさら月になど行く必要はない」という認識さえ広まってきています。
しかし、それは月での優位を独占しようとするアメリカの広報戦略にはまっているにすぎません。
じつは世界ではいま、アメリカ、中国、ロシアなどを中心に、月の探査・開発をめぐって激しい競争が水面下で始まっています。30~40年後には、月面基地が完成するともみられているのです。

第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア より

次のフロンティア――月の開発

いよいよ、ここからは未来の話です。地球の海洋開発は現在も続いていますが、人類の次のフロンティアは、月です。そして、フロンティア開発はすでに始まっていると見ています。

カラー図(画像参照)をご覧ください。おそらく誰でも一度は目にしたことがある地球の写真です。これは通称「ザ・ブルー・マーブル(青いガラス玉)」と呼ばれている有名な写真で、1972年にアポロ17号の宇宙飛行士が撮影したものです。地球が宇宙に浮かぶ青い球体であることを、人類が初めて視覚で確認した記念すべき画像です。人工衛星スペースシャトルからでは、近すぎて球体全体を1枚の写真におさめられません。
さらに、宇宙船が地球に対して太陽を背にした位置関係でなければ、地球全体に光が当たった写真は撮影できません。人類が次なるフロンティアに足を踏み入れたからこそ、振り返って地球全体を見ることができたのです。

月の開発競争はすでに始まっている!

「はじめに」で紹介した、アメリカ航空宇宙局NASA)の月面史跡保護ガイドラインについて、もう少しくわしく説明しましょう。月面でのアポロ計画の着陸地点などをNASAが「歴史的遺産」として定め、立ち入り禁止にするという指針のことです。「法的拘束力はない」とはされていますが、2012年5月24日には月面探査の賞金コンテストを実施しているアメリカの非営利団体「X賞財団」と、指針内容を尊重することで合意したというプレス発表がありました。

指針では、アポロ計画など過去の探査の活動拠点や、残してきた機器類を「歴史的・科学的にかけがえのない遺産」と位置づけ、保護を求めています。具体的には、「史跡」への接近や上空の飛行を避けること、たとえば人類最初と最後の月着陸地点であるアポロ11号、17号の着陸地点に関しては、それぞれ半径75m以内(11号)、半径225m以内(17号)を立ち入り禁止とし、半径2km以内の上空も飛行禁止とする、などが求められています。

この発表に、多くの月探査関係者はうなりました。表向きは歴史的な遺品の保存という大変まともな内容ですし、実際に提案したグループも、純粋に遺跡保存の観点で提案したのだと思います。しかい、このルールが通用するということは、月の土地を実効的に支配できることになるのです。実効支配とは、ある政権がある領域を軍隊などで占拠し、「実態の上で統治している」と主張している状態のことを指します。宇宙探査機器は軍隊ではありませんが、その存在する地域や上空を立ち入り制限できるとすれば、それは実効支配にほかなりません。

「そんなきな臭い話が、平和利用をうたう宇宙空間にあるはずがない」と思われる読者も多いと覆います。実際、月には「月協定」というものがあります。正確には「月その他の天体における国家活動を律する協定」という名前で、1979年の国際連合総会において採択されました。

月協定の第11条には「月の表面や地下、天然資源は、いかなる国家・機関・団体・個人にも所有されない(抜粋)」と宣言されています。ところが、この協定の批准国はオーストラリア、オーストリア、ベルギー、チリ、カザフスタン、メキシコ、モロッコ、オランダ、パキスタン、ペルー、フィリピン、ウルグアイレバノンの13ヵ国だけです。近い将来、実際に月に人類を送り込む可能性が高いアメリカ、ロシア、中国、日本は批准していないのです。月に行ける国が批准しないのはなぜか。逆に、月に行けない国が批准する必要性は何か。それは、もはや月の資源の利用が、遠い未来の夢物語ではなく、現実に採掘を計画する対象になってきていることを物語っています。

近年の月探査によって、月において開発すべきよい場所が次々と判明していますが、その場所は限られtら面積しかないことも明らかいなってきています。月の資源とは何か、よい場所はどこか、は第6章で述べました。着陸船1機で実効支配できるエリアに、すっぽりとおさまってしまうような地域も存在します。

私は国粋主義者ではありませんが、月を人類が平和目的で利用するためには、アメリカ、ロシア、中国にまかせるのではなく、むしろ日本がリーダーシップを発揮すべきだろうと考えています。また、資源の少ない日本が100年後の宇宙空間で、国家としての影響力を維持していくためには、月の資源の確保が必須だと考えています。

ライト兄弟が人類最初の動力飛行に成功したのは1903年のことでしたが、そのわずか66年後には人類は月に到着しました。おもしろいことに、航空機産業の成功の象徴であるジャンボジェット機ボーイング747が就航したのも1969年のことでした。100年というのは長い年月のようですが、近年ますます加速している科学や技術の進歩を考えると、ほんの一瞬です。航空機産業に関しては日本は完全に出遅れてしまいましたが、月という宇宙のフロンティアへの進出の第一歩には、出遅れたくないものです。