1329. 14年前からのストーリー?月面着陸機SLIMが発見したカンラン石の本当の意義とは?
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月面着陸のスリム(SLIM)観測データ解析で“カンラン石”の存在を確認 「月の起源にせまっていきたい」
2024年5月27日 NHK
ことし1月、日本初の月面着陸に成功した探査機「SLIM」。
その探査機が得た月面の岩石のデータを解析した結果、月の内部に存在し、月の起源を探る上で重要な手がかりになる「カンラン石」の存在を確認したと、立命館大学や会津大学などの研究グループが明らかにしました。
月の内部の「カンラン石」を分析し地球のものと比較できれば、月は、地球に別の天体が衝突して一部が飛び散ってできたとする現在有力な説を裏付けることにもつながり、月の起源を探る上で重要な手がかりとなると期待されています。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240527b.html
世界はなぜ月をめざすのか
【目次】
はじめに
序章 月探査のブーム、ふたたび到来!
第1章 人類の次のフロンティアは月である
第2章 今夜の月が違って見えるはなし
第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
第5章 「かぐや」があげた画期的な成果
第6章 月の「資源」をどう利用するか
第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア
第8章 今後の月科学の大発見を予想する
第9章 宇宙開発における日本の役割とは
終章 月と地球と人類の未来
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『世界はなぜ月をめざすのか』
佐伯和人/著 ブルーバックス 2014年発行
アメリカのアポロ計画が終了してから40年余――その間、人類は月に行っていません。
人々のあいだにはいつしか「いまさら月になど行く必要はない」という認識さえ広まってきています。
しかし、それは月での優位を独占しようとするアメリカの広報戦略にはまっているにすぎません。
じつは世界ではいま、アメリカ、中国、ロシアなどを中心に、月の探査・開発をめぐって激しい競争が水面下で始まっています。30~40年後には、月面基地が完成するともみられているのです。
第2章 今夜の月が違って見えるはなし より
月を「盆」に見せる衝効果
そのころ(2000年)、私はもうすぐ打ち上がる日本初の月探査機「かぐや」のデータを活用する準備のために、望遠鏡で地上から撮影した月の画像を画像処理する研究を始めていました。月の地表の色を解析することで、そこにある岩石に含まれている鉱物の種類や量を推定推定するための研究です。
そのためには、月の物質の光の反射率を、さまざまな色の成分(波長)で正確に測定しなくてはなりません。反射率とは、照らした光の何パーセントが跳ね返ってくるかという量です。
反射率測定は意外と大変です。たとえば、夜にバレーボールを持ち出して公園に置き、懐中電灯で照らすという場面を想像してください。バレーボールの表面はどこも同じ素材なので、同じ反射率であるはずです、しかし実際は、ボールの真ん中が明るく見え、ボールの縁に行くほど暗く見えるでしょう。
ボールの真ん中では、懐中電灯からボールの表面に垂直に差し込んだ光のほとんどがそのまま、もと来た方向に反射して、私たちの眼に届きます。一方、ボールの縁に差し込んだ光の多くは、斜め後方に反射して、私たちの方向に戻ってくる光は減ります。つまり、物質が同じであっても、光が差し込む方向や、観察する方向が変わると、見かけの明るさが変わるのです。したがって、場所による見かけの明るさの変化の量を補正しなければ、物質の本当の反射率を出すことはできません。
そこで、月探査の研究者は、月の表面の光散乱特性(ひかりさんらんとくせい)を調べました。光散乱特性とは、入射した光が、どの方向へどれだけ反射するかを立体的に調べたものです。太陽と地球と月がさまざまな位置関係にあるときに、地上から月を観測することによって、月の表面には衡効果(しょうこうか)というものがあることがわかりました。
衡効果とは、月に差し込む光の方向と、観測する方向が近いとき、極端に明るくなる効果です。たとえば、半月の月と満月の月を比べると、単純に明るい部分の面積比を考えれば、両者の全体の明るさの違いは2倍になるように見えます。しかし、実際は、満月は半月の8倍以上も明るいのです。満月のときは、地球も太陽も月に対して、ほとんど同じ方向にあるので、月に差し込む太陽の光の方向と、地球で月を観測する方向とが近くなって、明るさが極端に増すのです。これが衡効果です。
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文部省唱歌「月」の作者は月が粉状におおわれていることも、衡効果のことも知らなかったはずです。しかし、先入観にとらわれない素直な観察から、月を盆のようだと表現したのだと思います。私は、月が球体であるという先入観にとらわれるあまり、月をろくに観察もせずに作者を馬鹿にしていたのです。確かに、満月は、毬のようではなく、盆のようのように見えます。みなさんもぜひ確認してみてください。
月の低重力をイメージしてみよう
月の景色が想像できるようになったところで、次は月に立ったときに身体に感じる感覚をイメージしてみましょう。もっとも大きな違いは、重力の違いでしょう。
月の重力は、地球の約6分の1です。アポロ計画で宇宙飛行士が月面活動をおこなったさいの宇宙服の重さは、1着約80kgでした。重力が6分の1ということは、この宇宙服は体感上では13kg程度に軽くなって感じされることを意味します。しかし、ただ軽くなると思うだけでは完全ではありません。
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しかし、宇宙服を着て動こうとするときは、どうでしょうか。今度は、幼児を抱いている程度ではすみません。80kgの質量の物体を動かそうとするときに働く力(慣性力)は、あなたの身体を動かしにくくしますし、いったん動き出すと止めにくくします。
簡単な実験をしてみましょう。分厚い本や辞書を手を水平に伸ばしてみてください。下向きに引っ張られる重さが、重力に由来する重さです。今度は、その手を水平にすばやくウド化して、急に止めてみてください。そのとき感じる、動きはじめの抵抗や、止めるときの止まりにくさが、質量に由来する慣性力です。
重力由来の重さは、低重力の月では軽く感じますが、慣性力は月でも減りません。低重力に由来する軽さと、質量に由来する抵抗力をイメージできれば、あなたの月面をイメージする力はかなりのハイレベルになってきたといえます。
月面の低重力は、月面探査機の設計にも大きく影響します。たとえば、ショベルカーのような装置で土を掘る場合にはどうでしょうか。探査機本体を地面に押しつけるは重力なので、その重力が弱いと、土を掘るためにシャベルを地面に突き立てたとたんに、探査機本体がひっくり返ってしまう恐れがあります。また、ドリルで地面を掘るような場合には、やはり低重力のために探査機本体を地面に押し付ける力が弱くなるため、ドリルではなく、本体の力が回ってしまう恐れもあります。このような場合には、レゴリス(月の表面にある砂)を探査機本体の背中にどんどん載せて、本体を重くするといったことが必要になるでしょう。