日本国キログラム原器の紹介【産総研公式】
プランク定数の決定方法
さらばキログラム原器、プランク定数にもとづくキログラムの新しい定義(更新日:2019年9月24日)
●産業技術総合研究所でのプランク定数測定
産業技術総合研究所ではX線結晶密度法を用いて、プランク定数を決定しました。
プランク定数がわかると原子一個の質量がわかると前節でご説明しましたが、この方法では、その原理を逆に利用して、原子一個の質量を測定することで、プランク定数を求めます。原子の一個の質量を測定するのには、質量が約1 kgのシリコン単結晶でつくられた球体を用います。この球体の中には、図(画像参照)に示すように非常にたくさんのシリコン原子が含まれています。この原子の数と球の質量を測定すれば、シリコン原子一個の質量を求めることができます。ただし、球体にはおよそ20兆の1兆倍個の原子が含まれており、一個一個数えるのは大変です。そこで、この単結晶中のシリコン原子のならび具合を良く見てみると、実は単位格子とよばれる立方体が規則正しくたくさん並んでいます。また、一個の単位格子の中には8個のシリコン原子が含まれています。この一辺の長さaはX線を使って測定することができ、単位格子の体積Vをa^3として求めることができます。さらに、この球の質量と体積を測定します。体積Vを単位格子の体積a^3で割った値が、球の中の単位格子の数であり、それに単位格子中の原子の数である8をかければ球体中のシリコン原子の数を求ることができます。さらに球の質量をこの原子数で割れば、シリコン原子1個あたりの質量を求ることができます。
https://unit.aist.go.jp/riem/mass-std/Kilogram2.html
第6章 その誤差、3億年に1秒!「光格子時計」は時間を再定義する より
コラム② 指紋ほどの変化も許さない定義
2019年5月20日、日本では「令和」への改元で祝福ムードが冷めやらぬなか、世界を揺るがす(?)大イベントがあった。130年ぶりに、キログラムの定義が改定されたのである。もう少し正確にいうと、「国際キログラム原器」という金属分銅を基準とする定義から、量子のエネルギーに関連する物理定数「プランク定数」を基準とする定義へと変わったのだ。プランク定数……ブルーバックスの愛読者ならご存知のはずの、量子力学で出てくる「アレ」だ。
もともとキログラムは1889年に、直径および高さが約39mmの円柱形で、質量がピッタリ1キログラムの分銅「国際キログラム原器」がつくられ、世界の質量の”ご本尊”として厳重に守られ、基準とされてきた。その超精密なレプリカが世界で40個つくられ、日本にもその「No.6」が、産業技術総合研究所に保管されている。
が、20世紀末、そのご本尊に、微妙な変化が起きていることがわかった。その値は、わずか約59μg。指先の指紋の油脂1つほど。130年で1キログラムに対して1億分の5というわずかな変化が、現代の科学は看過できなくなったのだ。なんとも世知がらい。
2011年、将来は国際キログラム原器を引退させ、新たにプランク定数という物理定数で1キログラムの質量を決めることが、国際的に合意された。この定数は世界中どこでも変わらず、時間の経過によっても変化しないため、きわめて安定な質量の基準となると考えられたのだ。ただし、この時点では、この時点では、プランク定数の正確な値がじつはよくわかっていなかった(!)。このままではさらに変化が大きくなる、との危機感のもと、世界の研究機関にプランク定数の正確な測定を呼びかけたのである。
それはともかく、なぜプランク定数からキログラムが定義できるのか。プランク定数とは、「光の粒子は持つエネルギーはその光の振動数に比例する(E = hν)」という法則に基づく数字で、さらにアインシュタインの「エネルギーと質量の等価性(あの有名なE = mc2)」を用いることで、プランク定数が決まれば質量が計算できるのだ。
こうして産総研を含む世界各国の研究機関で、プランク定数を正確に測定するための研究が加速した。採られたのは、原子1個の質量を正確に測ることでプランク定数を逆算する、X線結晶密度法という方法だった。
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だが、本番はここからだ。プランク定数を決定するには、球体の体積を精密に計測しなくてはならない。超高精度のレーダー干渉計を使って、直径94mmのシリコン単結晶球体を、2000方位から計測した。その発振波長は、「周波数」の国家標準である産総研の原子時計に同期されている。また、シリコンの熱膨脹の影響を排除するため、温度を真空中で1万分の1の精度で制御しなければならないが、そのために産総研の「温度」の専門部署も加わった。さらに、球体表面の酸化膜や不純物の影響を評価するために「表面分析」に専門部署も参加した。
こうして産総研の計測のエキスパートたちが総力をあげてデータを積み重ねた結果、産総研は「1億分の2.4」という世界最高レベルの精度でプランク定数を決定することができた。これは1kgに換算すると24μgであり、ご本尊の安定性である50μgをしのぐ制度である。
2018年、世界で得られた8つの高精度な測定値に基づいて、キログラムの定義が次の通りに決まった。
プランク定数を10の34乗分の6.62607015ジュール秒とすることによって定まる質量
8つの測定値のうち、じつに4つが日本で測定された値だった。これを支えていたのが日本の科学者や技術者だと思うと、なんとも誇らしい。
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じじぃの日記。
ブルーバックス探検隊著『あっぱれ!日本の新発明』という本に「コラム② 指紋ほどの変化も許さない定義」があった。
プランク定数のhは、量子物理学のあらゆる方程式に出てくる数字だ。